【完結】【R18】溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜

鷹槻れん(鷹槻うなの)

文字の大きさ
上 下
78 / 169
(15)しばらく一人にしてください

近くにいるのなんて知ってる

しおりを挟む
 日和美ひなみはまだ勤め始めて半年経っていない。
 有給休暇だって取得できる状況ではないので、どんなにしんどくても頑張るしかないわけで。

 日和美は職場に戻るなり一旦トイレに駆け込むと、手洗い場でバシャバシャと顔を洗った。
 化粧が落ちてしまったけれど、もともとそれほど濃いメイクを施しているわけではなかったので、口紅とアイシャドウを塗り直したらそこそこの体裁は保てた。
 ただ、ごしごしとこすってしまった目の周りが赤くなっているのはファンデーションをはたいても誤魔化しきれなくて。

 そもそも目自体がアルビノの白うさぎみたいに赤くなってしまっている。

(酷い顔だな……)

 結局お昼ご飯にと買ったものも、道端に落っことしてしまって何も食べるものがない。

 だからと言ってお腹が空く気配もなかったので、休憩時間中は事務所のテーブルに顔をうつ伏せてじっとうずくまっていた。

 途中、出かける際にポケットへ突っ込んでおいたスマートフォンがブルルッと震えて何かの通知を知らせてきたけれど、恐らく短めだったからメールか何かだろう。

 確認する気になれなくて無視していたら、しつこいくらいに何度も何度も震えるから。

 日和美はノロノロと身体を起こすと、ポケットからスマートフォンを取り出した。

 どうやらメッセージは全て信武しのぶからのものらしく、通知一覧に『どこにいんの?』とか『近くまで来たからちょっと顔見たいんだけど』とかそんな文言が連なっていた。

(近くにいるのなんて知ってる……)

 ぼんやりそんなことを思って、そのままメッセージアプリを開かないままスマホをテーブルに転がして。

 半ば無意識に一人悪態あくたいをついた。

 今は休憩中だからこうやって画面を見ることが出来ているけれど、それ以外はスマートフォン自体鞄の中に入れっぱなしなのだ。

 こんな風にメッセージを送って来ても読むのは困難だと思わないんだろうか。

 一般的な事務職と違って、接客業はみんなが一斉に昼休憩を取ったりすることなんて無理なのに。

 いくらお昼時だからと言って、日和美ひなみが休憩中とは限らないというのも失念されている気がした。

信武しのぶさん。作家なんて自由な仕事をしているから、そういうのにうといのかな?)

 ふとそんなことを思って、そもそも信武は何歳ぐらいから作家先生をしているんだろうと思って。

 萌風もふもふ先生が、日和美が高校二年生の時にデビューなさったのは知っているけれど、立神たつがみ信武という作家が、何年前から文筆業を営んでいるのかは知らないことにふと気が付いた日和美だ。

 ノロノロとスマートフォンを取り上げて画面を見詰めて。

『ホントどこにいるんだよ』

 再度ブブッと手の中でスマートフォンが震えて新しいメッセージを受信したけれど、日和美はそれに応える気にはなれなくてその通知自体まるっと無視することに決めた。

 そのくせ頭の中は信武で一杯とか……自分でも矛盾していて嫌になると思ったけれど、気になってしまった以上調べずにはいられない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

契約妻ですが極甘御曹司の執愛に溺れそうです

冬野まゆ
恋愛
経営難に陥った実家の酒造を救うため、最悪の縁談を受けてしまったOLの千春。そんな彼女を助けてくれたのは、密かに思いを寄せていた大企業の御曹司・涼弥だった。結婚に関する面倒事を避けたい彼から、援助と引き換えの契約結婚を提案された千春は、藁にも縋る思いでそれを了承する。しかし旧知の仲とはいえ、本来なら結ばれるはずのない雲の上の人。たとえ愛されなくても彼の良き妻になろうと決意する千春だったが……「可愛い千春。もっと俺のことだけ考えて」いざ始まった新婚生活は至れり尽くせりの溺愛の日々で!? 拗らせ両片思い夫婦の、じれじれすれ違いラブ!

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...