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(14)その女性は誰ですか?
強情でムカつく
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ひとり鎮痛剤を飲んで、ソファの上。土下座スタイルでうずくまってうんうんうなっていたら、不意に背中に温かな手が載せられて。
「――?」
涙目で顔を上げたら、
「ほら、飲め。ちったぁー楽になるはずだ」
そっと身体を抱き起されて、湯気のくゆるマグカップを手渡された。
「え? 何……で?」
「うずくまっちまうほど腹痛ぇくせにそばで待っててもちっとも俺を頼ろーとしてこねぇ。……結局俺から動いちまっただろーが。……ホントお前強情でムカつく!」
吐き捨てるようにボソリと抗議されて。
何が何だか分からないままに握らされた温かなマグカップから、ショウガの香りがふわりと漂う。
「こ、れ……?」
ぼんやり問い掛けたら、
「ショウガ湯だ。俺は男だからよく分かんねぇけど……身体温めたら痛みが緩和されるんだろ?」
ムスッとした顔でそう返された。
どうやら信武。冷蔵庫にあったチューブ入りのショウガと、棚にあった蜂蜜でちょっぴり甘めのぽかぽかのショウガ湯を作って来てくれたらしい。
「ホントはカモミールとかローズヒップなんかも効くんだけどな。お前ん家にゃねぇだろ」
さも自分の家にはあるみたいな口ぶりで信武がそう言うから、日和美は何だかおかしくなってしまった。
マグを手にしたままクスクス笑ったら「――書くのに色々勉強した結果だ。似合わねぇのは分かってるからそれ以上は何も言うな」とどこか照れたように話を終わらされて。
そんな信武の仏頂面をショウガ湯からくゆる湯気越しに見詰めていたら、「早く飲め」と急かされる。
ふぅーっと吐息をかけてひとくち口に含んだら、甘くて刺激的な液体が喉を通って胃に落ちていくのが分かった。
「ショウガ紅茶んが美味いけどさ、あれはカフェインが身体を冷やすから今日の所はそれで我慢しろ」
これはこれで美味しいのに、信武はどうも色々言い訳をしたいらしい。
きっと照れ隠しだ。
そんな信武の優しさが、日和美にはとても嬉しかった。
***
それを思い出した日和美は、信武に限って生理中だからと言う理由だけで自分を放り出すような真似はしないかな?と思い直す。
寝室の扉前。引き戸に手を掛けた状態で信武を振り返ると、日和美はニコッと微笑んでみせた。
お腹が痛いからうまく笑えていない気がしたけれど、そんなことはこの際どうでもいい。
「えっと……そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫です。忙しい時に移動時間が出来ちゃうのってもったいないですし……別に無理して戻っていらっしゃらなくても」
信武は、書くのは自宅が中心だと言っていた。
ここ数日、仕事をしにアパートを出るのだって、別にどこかへ出勤しているわけではなくて、自宅へ執筆をしに戻っているだけらしい。
そんな話を彼から聞かされていた日和美は、忙しい時なら尚のこと。行ったり来たりする時間がタイムロスになるのではないかと思って。
日和美だって一人前の大人の女性だ。生理痛だからってひとりで過ごせないわけじゃない。
このところずっと不破なり信武なりがいてくれたから(どちらも同一人物だけれど)ちょっぴり寂しく感じてしまうだけ。
まぁ本音を言うと夜中でも何でもいいから戻って来て欲しい。
最悪朝帰りでも構わないから朝食くらいは一緒に食べられたら幸せだ。
そんなことを思ってしまう程度には誰かと――というより彼といることに馴染み過ぎてしまっている自分に気が付いて、日和美は心の中、一人苦笑する。
笑顔がちゃんと取り繕えないのは、何も生理痛のせいばかりではなかったのかもしれない。
「――?」
涙目で顔を上げたら、
「ほら、飲め。ちったぁー楽になるはずだ」
そっと身体を抱き起されて、湯気のくゆるマグカップを手渡された。
「え? 何……で?」
「うずくまっちまうほど腹痛ぇくせにそばで待っててもちっとも俺を頼ろーとしてこねぇ。……結局俺から動いちまっただろーが。……ホントお前強情でムカつく!」
吐き捨てるようにボソリと抗議されて。
何が何だか分からないままに握らされた温かなマグカップから、ショウガの香りがふわりと漂う。
「こ、れ……?」
ぼんやり問い掛けたら、
「ショウガ湯だ。俺は男だからよく分かんねぇけど……身体温めたら痛みが緩和されるんだろ?」
ムスッとした顔でそう返された。
どうやら信武。冷蔵庫にあったチューブ入りのショウガと、棚にあった蜂蜜でちょっぴり甘めのぽかぽかのショウガ湯を作って来てくれたらしい。
「ホントはカモミールとかローズヒップなんかも効くんだけどな。お前ん家にゃねぇだろ」
さも自分の家にはあるみたいな口ぶりで信武がそう言うから、日和美は何だかおかしくなってしまった。
マグを手にしたままクスクス笑ったら「――書くのに色々勉強した結果だ。似合わねぇのは分かってるからそれ以上は何も言うな」とどこか照れたように話を終わらされて。
そんな信武の仏頂面をショウガ湯からくゆる湯気越しに見詰めていたら、「早く飲め」と急かされる。
ふぅーっと吐息をかけてひとくち口に含んだら、甘くて刺激的な液体が喉を通って胃に落ちていくのが分かった。
「ショウガ紅茶んが美味いけどさ、あれはカフェインが身体を冷やすから今日の所はそれで我慢しろ」
これはこれで美味しいのに、信武はどうも色々言い訳をしたいらしい。
きっと照れ隠しだ。
そんな信武の優しさが、日和美にはとても嬉しかった。
***
それを思い出した日和美は、信武に限って生理中だからと言う理由だけで自分を放り出すような真似はしないかな?と思い直す。
寝室の扉前。引き戸に手を掛けた状態で信武を振り返ると、日和美はニコッと微笑んでみせた。
お腹が痛いからうまく笑えていない気がしたけれど、そんなことはこの際どうでもいい。
「えっと……そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫です。忙しい時に移動時間が出来ちゃうのってもったいないですし……別に無理して戻っていらっしゃらなくても」
信武は、書くのは自宅が中心だと言っていた。
ここ数日、仕事をしにアパートを出るのだって、別にどこかへ出勤しているわけではなくて、自宅へ執筆をしに戻っているだけらしい。
そんな話を彼から聞かされていた日和美は、忙しい時なら尚のこと。行ったり来たりする時間がタイムロスになるのではないかと思って。
日和美だって一人前の大人の女性だ。生理痛だからってひとりで過ごせないわけじゃない。
このところずっと不破なり信武なりがいてくれたから(どちらも同一人物だけれど)ちょっぴり寂しく感じてしまうだけ。
まぁ本音を言うと夜中でも何でもいいから戻って来て欲しい。
最悪朝帰りでも構わないから朝食くらいは一緒に食べられたら幸せだ。
そんなことを思ってしまう程度には誰かと――というより彼といることに馴染み過ぎてしまっている自分に気が付いて、日和美は心の中、一人苦笑する。
笑顔がちゃんと取り繕えないのは、何も生理痛のせいばかりではなかったのかもしれない。
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