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(13)立神信武という男
勝手に自己完結して逃げんな
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いつもなら信武へ先に入ってもらうところを、現状から逃げ出したい一心でパタパタと慌ただしくその場を後にして。
(私、バカなのっ!?)
テンパる余り、脱衣所まで本を抱えてきてしまった。
日和美には本をふやけさせる可能性のある半身浴をしながら読書をたしなむ嗜好はもちろんのこと、蒸気がこもりがちな風呂場近くに本を持ち込む趣味だってない。
風呂上がり、通気が余り良くないここの湿度が駄々上がることを知っているから尚のこと。
一旦はピシャリと中から閉ざしてロックをかけた扉だったけれど、日和美は本だけでも避難させようと、恐る恐るそぉっと開けてみた。
――途端。
ヌッと伸びてきた大きな手を扉の隙間に差し入れられて。
「ふギャッ!」
思わず可愛さのかけらもない素の悲鳴が喉の奥から絞り出されてしまった。
「な、な、なっ」
何のご用ですか⁉︎と言いたいのに、余りの事態にうまく言葉が紡げない日和美だ。
そんな日和美に扉を全開にしてズイッと近付くと、信武が彼女の柔らかな頬を両手のひらでムギュッと挟んだ。
「お前なぁ、勝手に自己完結して逃げんな」
呼び止めたのに無視されたことが気に入らなかったのだろうか?
至極不機嫌そうな端正な顔に見下ろされながら、日和美は両頬を押しつぶされた自分は今、眼前の信武とは対照的に超絶不細工になっているだろうな、と自覚する。
「ひゃ、ひゃめてくりゃしゃい」
やめてください、と言ってみたもののうまく言えなくて自然眉根が寄ってしまったのだけれど。
「やめて欲しかったらちゃんと答えろ。お前、何でさっき、あんなに急に真っ赤になったんだよ? 俺の顔が反則ってぇのはどういう意味だ?」
(そこ、そんなに掘り下げる必要がありますかね⁉︎)
日和美としてはそっとしておいて欲しいセンシティブな部分なのに。
信武はそれをどうしても追及したいらしい。
いっそのこと、信武の手を振り解いてすたこらさっさとトンズラしてしまいたい日和美だったけれど、タイミングが悪いことに今、日和美の手には『ある茶葉店店主の淫らな劣情』が握られている。
本好きな日和美の選択肢に、本を床に投げ捨てると言うものがない時点で、どんなに頑張っても使えるのは片手だけ。
加えて男性である信武の方が力が強いときている。
どう考えても、日和美に勝ち目なんてないではないか。
しばし顔を押しつぶされたまま、せめてもの抵抗に信武を睨み上げてみたけれど効果はないようで。
仕方なく日和美は諦めた。
(私、バカなのっ!?)
テンパる余り、脱衣所まで本を抱えてきてしまった。
日和美には本をふやけさせる可能性のある半身浴をしながら読書をたしなむ嗜好はもちろんのこと、蒸気がこもりがちな風呂場近くに本を持ち込む趣味だってない。
風呂上がり、通気が余り良くないここの湿度が駄々上がることを知っているから尚のこと。
一旦はピシャリと中から閉ざしてロックをかけた扉だったけれど、日和美は本だけでも避難させようと、恐る恐るそぉっと開けてみた。
――途端。
ヌッと伸びてきた大きな手を扉の隙間に差し入れられて。
「ふギャッ!」
思わず可愛さのかけらもない素の悲鳴が喉の奥から絞り出されてしまった。
「な、な、なっ」
何のご用ですか⁉︎と言いたいのに、余りの事態にうまく言葉が紡げない日和美だ。
そんな日和美に扉を全開にしてズイッと近付くと、信武が彼女の柔らかな頬を両手のひらでムギュッと挟んだ。
「お前なぁ、勝手に自己完結して逃げんな」
呼び止めたのに無視されたことが気に入らなかったのだろうか?
至極不機嫌そうな端正な顔に見下ろされながら、日和美は両頬を押しつぶされた自分は今、眼前の信武とは対照的に超絶不細工になっているだろうな、と自覚する。
「ひゃ、ひゃめてくりゃしゃい」
やめてください、と言ってみたもののうまく言えなくて自然眉根が寄ってしまったのだけれど。
「やめて欲しかったらちゃんと答えろ。お前、何でさっき、あんなに急に真っ赤になったんだよ? 俺の顔が反則ってぇのはどういう意味だ?」
(そこ、そんなに掘り下げる必要がありますかね⁉︎)
日和美としてはそっとしておいて欲しいセンシティブな部分なのに。
信武はそれをどうしても追及したいらしい。
いっそのこと、信武の手を振り解いてすたこらさっさとトンズラしてしまいたい日和美だったけれど、タイミングが悪いことに今、日和美の手には『ある茶葉店店主の淫らな劣情』が握られている。
本好きな日和美の選択肢に、本を床に投げ捨てると言うものがない時点で、どんなに頑張っても使えるのは片手だけ。
加えて男性である信武の方が力が強いときている。
どう考えても、日和美に勝ち目なんてないではないか。
しばし顔を押しつぶされたまま、せめてもの抵抗に信武を睨み上げてみたけれど効果はないようで。
仕方なく日和美は諦めた。
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