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(13)立神信武という男
不破さんは信武さんの一部ですか?
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「か、かわっ⁉︎」
「あん? 俺の彼女なんだから可愛いに決まってんだろ」
――何か文句あんのか?と言わんばかりの雰囲気で告げられて、それ以上は言えなくなってしまった日和美だ。
もう、とりあえず可愛い云々はともかくとして、と無理矢理気持ちを切り替えた上で、信武の言っていることももっともだな、と思う。
自分も初対面の相手にはそれなりに外面を整えてて〝よく見られたい〟と頑張るから。
信武は普段からそういう二重生活みたいなことを仕事で強いられていたから……。だから無意識下でもそれが出てしまったんだろう。
「それにな、俺があの日あそこを通りかかったのは偶然じゃねぇし。多分それも少なからず関与してるはずだ」
ポツンとつぶやかれた言葉に「え?」と聞き返したら、信武がムスッとした顔で「俺はあの日山中日和美に――」と言いかけて、ハッとしたように押し黙る。
「私に……、何ですか?」
「……っ、何でもねぇ。気にするな」
それっきりそのことについては何も言うつもりはないとばかりに信武がそっぽを向くから。
日和美は仕方なく話題を変えた。
「……あの、不破さんは信武さんの一部ですか?」
ずっと思っていたことを問い掛けたら、信武が顔をこちらへ向けて思案顔をする。
「……まぁ、作られた人格かも知んねぇけど考え方の根本は俺だし……そういうことになるんじゃね? ――そもそも……お前が不破を俺と区別してるからそれに合わせて話してっけど……正直俺ん中じゃ〝皆に好かれそうな自分を演じてる〟って感覚なだけで、別人格ですらねぇしな」
言われて、日和美は少しだけホッとして。無意識に「ふぅ」と吐息を落としたのだけれど。
どうやら信武はそれを、抗議の溜め息だと思ったらしい。
「ひょっとして……俺と奴が一緒だって言われんの、嫌だったか?」
だから不安そうにそう聞かれた時、日和美は慌ててフルフルと首を横に振ったのだ。
ついでに、「信武さんと不破さんが全くの別人じゃなくてむしろ良かったと思ってます!」と続けそうになったのを、日和美は慌てて口をつぐんで封じた。
だってそれを言ってしまったら……不破に恋していた自分が、信武のことを好きだと認めてしまうような気がしたから。
そんなの、ダメに決まっているではないか。
***
「で、それがその先輩におすすめされたって本か」
夕飯を食べ終えるなりソファでくつろぐ信武の前。
日和美が「じゃじゃ~ん!」と効果音を付けて、今日勤め先で買ってきたばかりの本を袋から取り出して見せたら、何故か苦笑されて。
「それ、文庫版もあっただろ」
日和美が手にした自著を指差して、「何も値の張るハードカバーを買わなくてもよかったろうに。ぼったくられたんじゃねぇの?」とつぶやいた。
「あん? 俺の彼女なんだから可愛いに決まってんだろ」
――何か文句あんのか?と言わんばかりの雰囲気で告げられて、それ以上は言えなくなってしまった日和美だ。
もう、とりあえず可愛い云々はともかくとして、と無理矢理気持ちを切り替えた上で、信武の言っていることももっともだな、と思う。
自分も初対面の相手にはそれなりに外面を整えてて〝よく見られたい〟と頑張るから。
信武は普段からそういう二重生活みたいなことを仕事で強いられていたから……。だから無意識下でもそれが出てしまったんだろう。
「それにな、俺があの日あそこを通りかかったのは偶然じゃねぇし。多分それも少なからず関与してるはずだ」
ポツンとつぶやかれた言葉に「え?」と聞き返したら、信武がムスッとした顔で「俺はあの日山中日和美に――」と言いかけて、ハッとしたように押し黙る。
「私に……、何ですか?」
「……っ、何でもねぇ。気にするな」
それっきりそのことについては何も言うつもりはないとばかりに信武がそっぽを向くから。
日和美は仕方なく話題を変えた。
「……あの、不破さんは信武さんの一部ですか?」
ずっと思っていたことを問い掛けたら、信武が顔をこちらへ向けて思案顔をする。
「……まぁ、作られた人格かも知んねぇけど考え方の根本は俺だし……そういうことになるんじゃね? ――そもそも……お前が不破を俺と区別してるからそれに合わせて話してっけど……正直俺ん中じゃ〝皆に好かれそうな自分を演じてる〟って感覚なだけで、別人格ですらねぇしな」
言われて、日和美は少しだけホッとして。無意識に「ふぅ」と吐息を落としたのだけれど。
どうやら信武はそれを、抗議の溜め息だと思ったらしい。
「ひょっとして……俺と奴が一緒だって言われんの、嫌だったか?」
だから不安そうにそう聞かれた時、日和美は慌ててフルフルと首を横に振ったのだ。
ついでに、「信武さんと不破さんが全くの別人じゃなくてむしろ良かったと思ってます!」と続けそうになったのを、日和美は慌てて口をつぐんで封じた。
だってそれを言ってしまったら……不破に恋していた自分が、信武のことを好きだと認めてしまうような気がしたから。
そんなの、ダメに決まっているではないか。
***
「で、それがその先輩におすすめされたって本か」
夕飯を食べ終えるなりソファでくつろぐ信武の前。
日和美が「じゃじゃ~ん!」と効果音を付けて、今日勤め先で買ってきたばかりの本を袋から取り出して見せたら、何故か苦笑されて。
「それ、文庫版もあっただろ」
日和美が手にした自著を指差して、「何も値の張るハードカバーを買わなくてもよかったろうに。ぼったくられたんじゃねぇの?」とつぶやいた。
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