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(13)立神信武という男
人が悪い
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「信武さん、人が悪いです! 直川賞を受賞したような凄い作家さんなら、最初っからそうだって言って下さればよかったのに!」
帰宅するなりムゥッと唇をとがらせて言った日和美に、先に帰宅していたらしい信武がククッと笑った。
信武も今日、日中は仕事へ行くと言っていたから、もしかしたらまだ帰宅していないかも?と思ったけれど、杞憂だったみたいだ。
作家先生と言うのがどんな勤務体制をとっているのか日和美には分からない。
けれど、少なくとも今日の信武が〝どこかで〟九時~五時みたいな働き方をしてきたらしいと言うのは分かった。
流しそばの水切りカゴの中に、今朝信武に持たせた弁当箱代わりのタッパーが綺麗に洗われて伏せられているのを横目に、日和美はぼんやりとそんなことを思う。
「俺、直川賞を受した結構名の売れた作家先生なんですぅ~! ――んなこと言う男にお前、惹かれるか?」
言われて、日和美はグッと言葉に詰まった。
「それは……何か嫌ですね」
「だろ?」
だから日和美自身が気付かない限り、自分から告げるつもりはなかったのだと続けた信武に、日和美は小さく吐息を落とす。
「俺はな、そう言う肩書きのない素の俺自身をお前に評価してもらいたかったんだよ」
俺様なんだか奥ゆかしいんだか。
立神信武という男が、日和美にはさっぱり分からなくなる。
でも、何だかそう言うところが嫌いじゃないなと思ってしまったのもまた事実で。
それに――。
「職場の先輩に観せられて授賞式の動画も拝見しました。……あれって――」
「不破さんだった、だろ?」
吐息混じりに言われて、日和美はコクッとうなずく。
「でも……何であんな……」
「編集から言われたんだよ。好感度を高めるため、見た目に合う喋り方で売り出しましょうってな。……んなわけで、お前の知ってる不破譜和は立神信武って作家の対外的な顔だ」
いつだったか信武が言い掛けた「大体不破は俺の……」に続くセリフはこれだったのか、と妙に納得した日和美だ。
「でも……私と初めて会った時から記憶が戻るまでの間、信武さんはどうして不破さんのままだったんでしょう?」
演じていた人格ならば、たとえ記憶を失っていたとしても、あんな風に表には出張ってこなかったんじゃないだろうか?
ずっと疑問に思っていたことを深く考えもせず口の端に乗せたら、「俺自身のことだから分かるんだけどな。……絶対そん時の俺、お前に一目惚れした自信あんだわ。っちゅーわけで……可愛いお前に嫌われねぇために無意識に自己防衛した結果なんじゃね?」と吐き捨てるように言われて。
「信武さん、人が悪いです! 直川賞を受賞したような凄い作家さんなら、最初っからそうだって言って下さればよかったのに!」
帰宅するなりムゥッと唇をとがらせて言った日和美に、先に帰宅していたらしい信武がククッと笑った。
信武も今日、日中は仕事へ行くと言っていたから、もしかしたらまだ帰宅していないかも?と思ったけれど、杞憂だったみたいだ。
作家先生と言うのがどんな勤務体制をとっているのか日和美には分からない。
けれど、少なくとも今日の信武が〝どこかで〟九時~五時みたいな働き方をしてきたらしいと言うのは分かった。
流しそばの水切りカゴの中に、今朝信武に持たせた弁当箱代わりのタッパーが綺麗に洗われて伏せられているのを横目に、日和美はぼんやりとそんなことを思う。
「俺、直川賞を受した結構名の売れた作家先生なんですぅ~! ――んなこと言う男にお前、惹かれるか?」
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「それは……何か嫌ですね」
「だろ?」
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「俺はな、そう言う肩書きのない素の俺自身をお前に評価してもらいたかったんだよ」
俺様なんだか奥ゆかしいんだか。
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それに――。
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吐息混じりに言われて、日和美はコクッとうなずく。
「でも……何であんな……」
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いつだったか信武が言い掛けた「大体不破は俺の……」に続くセリフはこれだったのか、と妙に納得した日和美だ。
「でも……私と初めて会った時から記憶が戻るまでの間、信武さんはどうして不破さんのままだったんでしょう?」
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