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(7)秘密の花園
禁断の扉の内側へ
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日和美は何でもかんでも割とオープンにするタイプだと思う。
なのに、不破がこの部屋に入ることだけは頑なに拒絶するのだ。気にならないわけがない。
何より。
言われた時には日和美に心配をかけたくなくて、素知らぬふりを決め込んだけれど、彼女が教えてくれた「ルティ」という名が胸の奥、チクチクとした痛みと共に引っかかっているのも事実で。
自分が何も持たずに外をうろついていた事と、ルティとの間にはきっと何か接点があった気さえしてしまっている。
もしかしたら、この扉の先にもっとヒントとなるものがあるかも知れない。
別に不破だって日和美を疑っているわけではない。
あの日布団が自分の上に降ってきたのは、きっとたまたま。偶然のはずだ。
だからここを開けたからと言って、実はあれは仕組まれていたことで……的な日和美の悪だくみの証拠が隠されていてショックを受けることも、ルティについての秘密が隠されていて驚かされることも恐らくはないのだろう。
(日和美さんはそんな大それたことが出来る人じゃないでしょうし)
別に彼女のことを見くびっているわけではないし、そもそも山中日和美という女性の何を知っているんだ?と聞かれたら言葉に詰まってしまうのだけれど。
でも不破にはどうしても日和美がそんなことが出来るような策士には見えないのだ。
それよりも――。
毎日朝晩繰り広げられる日和美の〝ヨタヨタ劇場〟の方が問題ありな気もして。
六畳程度しかないリビングは、テレビやローテーブルなども置かれているから、不破が使っている布団を置きっぱなしにしておくには手狭だ。
だから布団は、日中使われていない日和美の寝室に運ぶのが定石となっているのだけれど。
毎度毎度朝晩、自分が使っている布団をこの和室とリビングの境目付近で日和美に受け渡しをしている不破は、リビング側へ布団を持ち出してくるとき、また布団を和室に引き込んでいくときの日和美のヨタヨタぶりが気になって仕方がないのだ。
もしも彼女が抱えている秘密が、不破的に大したことじゃなかったら。
それとなくそう示唆することで、日和美の杞憂を取り払うことが出来たなら。
彼女の労力を肩代わりしてあげられるようになるんじゃないだろうか。
そんな風に思って。
(ごめんなさい。日和美さん)
不破は心の中で日和美に謝罪して、禁断の扉を開いた。
***
「――っ!」
目の前に広がる光景に、不破は思わず息を呑む。
(ピンクだ……)
最初に思ったのはそれ。
壁一面を占めた本棚を埋め尽くさんばかりに、これでもか!と詰まっている本たちの背表紙は、どれもこれも基本的に目にまぶしいほどの鮮やかなショッキングピンクで。
そこに踊る文字も茨みたいでインパクトが強かった。
入り口を入ってすぐの所。
部屋の片隅に不破が使わせてもらっている布団が綺麗に畳まれて置かれているのに対し、日和美が寝起きしていると思しき布団は敷きっぱなし。
ただし、掛け布団が綺麗に畳まれて足元に置かれているのを見るに、自堕落な人間の万年床とは一線を画しているのは明白だった。
不破は日和美が使っている布団を踏まないよう気を付けながら、目にも鮮やかな本たちが並ぶ本棚に近付いた。
その中の一冊を手に取ってパラパラとページをめくって。
エッチなシーンばかり、狙ったように挿絵が入っているその本を手に、不破は真剣な顔で書かれた文章を斜め読みする――。
そうして。
いつしか、不破は本を手にしたまま、ポロポロと泣いていた。
なのに、不破がこの部屋に入ることだけは頑なに拒絶するのだ。気にならないわけがない。
何より。
言われた時には日和美に心配をかけたくなくて、素知らぬふりを決め込んだけれど、彼女が教えてくれた「ルティ」という名が胸の奥、チクチクとした痛みと共に引っかかっているのも事実で。
自分が何も持たずに外をうろついていた事と、ルティとの間にはきっと何か接点があった気さえしてしまっている。
もしかしたら、この扉の先にもっとヒントとなるものがあるかも知れない。
別に不破だって日和美を疑っているわけではない。
あの日布団が自分の上に降ってきたのは、きっとたまたま。偶然のはずだ。
だからここを開けたからと言って、実はあれは仕組まれていたことで……的な日和美の悪だくみの証拠が隠されていてショックを受けることも、ルティについての秘密が隠されていて驚かされることも恐らくはないのだろう。
(日和美さんはそんな大それたことが出来る人じゃないでしょうし)
別に彼女のことを見くびっているわけではないし、そもそも山中日和美という女性の何を知っているんだ?と聞かれたら言葉に詰まってしまうのだけれど。
でも不破にはどうしても日和美がそんなことが出来るような策士には見えないのだ。
それよりも――。
毎日朝晩繰り広げられる日和美の〝ヨタヨタ劇場〟の方が問題ありな気もして。
六畳程度しかないリビングは、テレビやローテーブルなども置かれているから、不破が使っている布団を置きっぱなしにしておくには手狭だ。
だから布団は、日中使われていない日和美の寝室に運ぶのが定石となっているのだけれど。
毎度毎度朝晩、自分が使っている布団をこの和室とリビングの境目付近で日和美に受け渡しをしている不破は、リビング側へ布団を持ち出してくるとき、また布団を和室に引き込んでいくときの日和美のヨタヨタぶりが気になって仕方がないのだ。
もしも彼女が抱えている秘密が、不破的に大したことじゃなかったら。
それとなくそう示唆することで、日和美の杞憂を取り払うことが出来たなら。
彼女の労力を肩代わりしてあげられるようになるんじゃないだろうか。
そんな風に思って。
(ごめんなさい。日和美さん)
不破は心の中で日和美に謝罪して、禁断の扉を開いた。
***
「――っ!」
目の前に広がる光景に、不破は思わず息を呑む。
(ピンクだ……)
最初に思ったのはそれ。
壁一面を占めた本棚を埋め尽くさんばかりに、これでもか!と詰まっている本たちの背表紙は、どれもこれも基本的に目にまぶしいほどの鮮やかなショッキングピンクで。
そこに踊る文字も茨みたいでインパクトが強かった。
入り口を入ってすぐの所。
部屋の片隅に不破が使わせてもらっている布団が綺麗に畳まれて置かれているのに対し、日和美が寝起きしていると思しき布団は敷きっぱなし。
ただし、掛け布団が綺麗に畳まれて足元に置かれているのを見るに、自堕落な人間の万年床とは一線を画しているのは明白だった。
不破は日和美が使っている布団を踏まないよう気を付けながら、目にも鮮やかな本たちが並ぶ本棚に近付いた。
その中の一冊を手に取ってパラパラとページをめくって。
エッチなシーンばかり、狙ったように挿絵が入っているその本を手に、不破は真剣な顔で書かれた文章を斜め読みする――。
そうして。
いつしか、不破は本を手にしたまま、ポロポロと泣いていた。
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