【完結】【R18】溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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(6)やぶをつついてヘビを出す?

祖母の受け売り

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 ピピピッと背後で電子レンジが『お忘れではないですか?』とアラートを響かせてきて、日和美ひなみは焼きあがったしょうが焼きの火を止めるとレンジの庫内からしんなり解凍された茹でほうれん草を取り出す。

 不破ふわに言ってもうひと揃え小鉢を出してもらってから、解凍したばかりのほうれん草の水気を軽く絞ってそこに入れて。
 上からめんつゆを適量垂らして軽く混ぜると、ひとつまみずつ削り節をトッピングした。

「日和美さん、昨夜も思いましたが本当に料理の手際がいいですね」

 小鉢にひじきの煮物を盛りつけた不破が、日和美の料理の腕前に感心したように吐息を落とす。

「全部祖母の受け売りばかりです」

 沸き立てのお湯を味噌玉入りの汁椀に注ぎながら照れ笑いを浮かべたら、「おばあ様……?」とキョトンとされた。

「あ、うち父子家庭だったんです。それで私、小さい頃からずっと祖父母の家で育ったので……」

 日和美にとっては何でもないことだったのでさらりと言ったら、不破に申し訳なさそうな顔をされてしまった。

「すみません。僕、不躾ぶしつけにも立ち入ったことをお聞きしてしまいました」

 しゅんとする不破に
「全然っ。むしろおばあちゃんと暮らせてめっちゃ幸せだったのでお気になさらずっ。――あ、お味噌汁、食べる前によくかき混ぜてくださいね」
 ニコッと笑いながら汁椀を差し出したら、不破が淡く微笑んだ。


 しょうが焼きを一人前ずつ皿に盛りつけてリビングのローテーブルに並べて。
 買ってきたばかりのにご飯をよそって二人でお行儀よく「いただきます」をする。

 不破ふわ(と日和美ひなみ)が寝起きした布団はえっちらおっちら日和美が頑張って禁断のその――和室しんしつ――に移動済みなのでリビングはいつも通りそこそこに広々としているのだけれど。

 横並びに座って、不破のすぐそばで朝食を食べるとなると何だか緊張してしまった日和美だ。


「私にとっては記憶を失くしてる不破さんの方がもっとしんどいと思います」

 綺麗な所作で味噌汁をかき混ぜる不破を横目にさっきの話の続きみたいにつぶやいたら、「日和美さんが良くしてくださるので案外平気なんですよ?」と穏やかな笑みを返される。

(社交辞令だとしても、不破さんってば何て優しいの!)
 そう思った途端、それと引き換えのように日和美の中でルティのことを黙っているのが申し訳ないという気持ちがぶわりぶわりと増してくる。

(写真……。写真を撮ったらちゃんと話そう)

 もしも不破が一人暮らしで……ルティが自分では何も出来ない庇護のいるような存在――犬や猫のような――だったら、今こうしている間にもお腹を空かせて鳴いているかも知れないではないか。

 ひじきの煮物を口にしながら、日和美は今更のようにそんなことを思った。
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