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(5)事実は小説よりも波乱万丈?

禁忌だと言われれば言われるほど

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(私の貯金、大ピーンチ!)

 子供の頃からコツコツとお年玉などをストックして……大人になってからはバイト代もそこに貯め込んでいたけれど。
 ここ数年はTLティーンズラブへのつぎ込みがはなはだしくて残高は目減り傾向だった。
 加えて、今日使ったアレコレの請求がくることを考えると、さすがにしばらくは節約しないといけないな、と思った日和美ひなみだ。

 でも、そんな状態なのに不思議と気持ちは穏やか。

 だって不破ふわのように素敵な男性のため、庶民でモブキャラな日和美が役に立てちゃうなんてこと、恐らく一生に一度あるかないかの僥倖ぎょうこうなんだから。

 日和美の中での不破は、未だに亡命中の某国の王子様か、はたまたどこぞの御曹司様。

 あんな布団が落ちる様な奇跡的な出会いがなければ、絶対に接点なんて持てなかった人なのだ。

 そんな不破に感謝されたり申し訳なさに眉根を寄せられたりするなんて、光栄の極み、快感しかないではないか。

(新生活にお金が必要なのは当然のことだもん。こんな時のための貯金じゃないの♪)

 元々そんなに大金を蓄えていたわけでもないくせに、すぐにに乗れてしまう日和美はある意味はがねの心を持つ女だった。


***


(しまったぁぁぁぁあ!)

 家に帰るなり日和美ひなみは心の中で声にならない悲鳴を上げた。

 不破ふわ譜和ふわ効果ですっかり舞い上がって散財しまくった挙句、ここを出る時に「買わねば!」と決意していたはずの一番の目的を買い忘れたことに気が付いたのだ。

「不破さん、テレビでもご覧になられながらちょぉーっと待ってて下さいねぇ~?」

 震える手でテレビのリモコンを持って、電源ボタンを押してから不破にそれをフルフルしながら手渡す。

「あ、あの日和美さん?」

 そんな日和美の挙動不審な様子に、不破が不安そうな顔をして。
 日和美は彼をなだめるよう努めて自然に見える笑顔を取り繕ったつもりなのだが、実際は極めて不自然な笑みを顔に張り付けた状態で寝室秘密の花園に足を踏み入れる羽目になった。

 そんな日和美の様子が、不破をさらにソワソワさせているだなんて気付かないまま。
 リビングにしている部屋との境目の仕切り戸を細心の注意を払って細々と開けた日和美は、ぎりぎり横向きに通り抜けられる程度の隙間からカニみたいにススッと横スライドするようにそこを通り抜けて、後ろ手にピシャッと引き戸を閉ざした。

(私、くのいちになれちゃうんじゃない!?)

 実際には胸がそんなに豊満じゃなかったことが幸いしたのだけれど、そこにはあえて目をつぶった日和美だ。

 くのいち日和美ひなみが隣の部屋に不破ふわを置き去りにしたまま忍び込んだ寝室は、思わず吐息が漏れてしまうほど趣味に溢れた素敵空間で。

(はぁ~。この毒々しいまでにド・ピンクの背表紙にガツン!と踊るいばらのような飾り文字が堪らないのよっ♥)

 なんて壁一面を埋める本棚を前にうっとりする。

(ってそれがまずいんじゃないの!)

 そう。
 この一見しただけで分かるピンク色の背表紙の群れは、どう見ても妖艶でいかがわしい香りを放っていて。
 とてもじゃないけれど「こう見えて全部普通の文学作品なんですぅ~♪」と言うには無理があった。

 だからこそ布で覆って目隠ししてしまう予定だったのに!

 日和美は不破への買い物に浮かれポンチになっていて、布を買うのをすっかり忘れてしまったのだ。

「どうしよう……」

 声に出してつぶやいてみたら、ちょっとだけ気持ちが整理出来てきた。

 そう。不破は紳士的な人なので、きっと日和美の許可なくこちらの部屋に入るような無粋ぶすいな真似はしないに違いない。

 何せ――。

(そうよ! ここは仮にもレディの寝室なのよ! 殿方が勝手に入っていいような空間じゃないわ!)

 とりあえず、本棚目隠し用の布を買ってくるまでは、不破にそれとな~く、「こちらの部屋には立ち入るべからず!」と申し伝えておこう。

 そうすれば日和美の秘密はきっと守られるはずだ。


 しかし、日和美は自分の名案(迷案?)におぼれるあまり、人間の心理についてすっかり失念していたのだ。

 人は禁忌だと言われれば言われるほど、破りたくなってしまう生き物だと言う事を――。
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