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(3)君の名は
何か思い出せそうな気がするから
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毎日、暇さえあればTL小説を読みふけっている日和美の脳は、完璧にそっち仕様に仕上がってしまっていた。
その失態を誤魔化したい一心で、「しっ、下の名前も思いつきました! 譜面の〝ふ〟に和室の〝わ〟で譜和さん。フルネームで言うと不破譜和さんです。貴方をお見掛けした時の、私の中のイメージに漢字を当てただけなんですけど、どうでしょう!?」と言っては見たものの。
(どうでしょう?って言われても、私なら絶対困るし拒否るやつ!)
萌風もふ先生の名前はペンネームだからありなわけで、実際に生活するのに「不破譜和さん」だなんておかしいに決まっている。
(お願い、ふわふわさん! 「それはちょっと」と難色を示して不埒と破瓜のくだりからリセットさせて! 今度はしっかり気持ちを切り替えて、アルノエル王子とかちゃんとしたのに名付け直すから!)
きっとふわふわさんの日本人離れした外観なら、それもありだろう。
だけど、それにしたってアルノエルは萌風もふ先生の処女作に出てきた金魚王子の名前なので、TL沼からは全く抜け出せていないということに気付けていない日和美だ。
*
「――日和美さんはきっと、文学乙女なんですね。不破という名前の説明で、不埒と破瓜が出てくる人はそうそういないと思います。それに……不破譜和って……最初に日和美さんが僕に呼び掛けてくださった名前ですもんね? うん。気に入りました。では改めまして、よろしくお願いします」
だけどさすがお気遣いの〝不破さん〟だ。
少しだけ時間は要したけれど、ふわりと微笑んでそんな風に言ってくださるのだから。
「あ、でもやっぱり」
――変じゃないですか?と続けようとしたら、「それに……上手く言えないんですけど。実は日和美さんに不破譜和さんって呼び掛けられると、この辺りに引っかかるものがあって……。何か思い出せそうな気がするんです」と、こめかみの辺りを指さしながら先手を打たれてしまった。
「え?」
それは初耳だったので、思わず間の抜けた声を出して不破さんを見つめたら、不安そうな笑顔を向けられる。
(こんな心許なげなお顔をしていらっしゃるんだもん。私が不破譜和さんって呼び掛けることで何か思い出せそうならもうこのままでいいかな?)と思ってしまった日和美だ。
「じゃあ、えっと……改めまして――。山中日和美です。よろしくお願いします」
「不破譜和です。よろしくお願いします」
そんなこんなで、ふわふわさんは〝不破譜和さん〟になりました。
その失態を誤魔化したい一心で、「しっ、下の名前も思いつきました! 譜面の〝ふ〟に和室の〝わ〟で譜和さん。フルネームで言うと不破譜和さんです。貴方をお見掛けした時の、私の中のイメージに漢字を当てただけなんですけど、どうでしょう!?」と言っては見たものの。
(どうでしょう?って言われても、私なら絶対困るし拒否るやつ!)
萌風もふ先生の名前はペンネームだからありなわけで、実際に生活するのに「不破譜和さん」だなんておかしいに決まっている。
(お願い、ふわふわさん! 「それはちょっと」と難色を示して不埒と破瓜のくだりからリセットさせて! 今度はしっかり気持ちを切り替えて、アルノエル王子とかちゃんとしたのに名付け直すから!)
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だけどさすがお気遣いの〝不破さん〟だ。
少しだけ時間は要したけれど、ふわりと微笑んでそんな風に言ってくださるのだから。
「あ、でもやっぱり」
――変じゃないですか?と続けようとしたら、「それに……上手く言えないんですけど。実は日和美さんに不破譜和さんって呼び掛けられると、この辺りに引っかかるものがあって……。何か思い出せそうな気がするんです」と、こめかみの辺りを指さしながら先手を打たれてしまった。
「え?」
それは初耳だったので、思わず間の抜けた声を出して不破さんを見つめたら、不安そうな笑顔を向けられる。
(こんな心許なげなお顔をしていらっしゃるんだもん。私が不破譜和さんって呼び掛けることで何か思い出せそうならもうこのままでいいかな?)と思ってしまった日和美だ。
「じゃあ、えっと……改めまして――。山中日和美です。よろしくお願いします」
「不破譜和です。よろしくお願いします」
そんなこんなで、ふわふわさんは〝不破譜和さん〟になりました。
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