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■あなたが結んでくれるから/気まぐれ書き下ろし短編

あまみやの

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 結局奏芽かなめ音芽おとめのために和風創作料理の店『あまみや』の店主・学生時代の同級生雨宮あまみやに特別に作ってもらったと言う弁当を音芽おとめと一緒に食べると、用は済んだとばかりに帰ってしまった。

 何でも今夜は夜勤だとかで、一旦マンションに帰って支度したくをして、ちょっと休憩をしてから出かけるつもりなんだとか。

 そんな日にわざわざ動いてくれたことにも驚きだったけれど、それに加えて――。

 『あまみや』に寄ってこれを受け取って来たと言う事は、その前段階としてこの弁当を作ってもらえるよう雨宮に交渉もしていたということだ。

(お兄ちゃん、ちゃんと寝たのかな)

 音芽がそんな事を思ってしまったのも当然だろう。

 奏芽はコンビニのものとおぼしきビニール袋しか持っていなかったので、弁当を取り出された時はてっきりコンビニ弁当だと思っていた音芽だ。
 だから、中から『あまみや』の弁当が出てきた時には本当に驚いたのだけれど。
 よく見ると袋にはコンビニのロゴなんて一つも入っていなくて最初から自分の勝手な思い込みだったんだなと思って。

「どうかしたか?」

 奏芽に問われて正直に思ったままを口にしたら、ククッと笑われた。
 結局奏芽は笑うだけで何も語らなかったけれど、きっと妊娠中の音芽の身体を気遣ってわざわざ『あまみや』で弁当を頼んでくれたんだろう。

 コンビニ弁当は揚げ物などが多めだったり味付けが濃い目だったりするけれど、『あまみや』のものは野菜が多めで、基本出汁だしを利かせた優しい味付けだから。

「美味しい」

 一番最初に目についたおからの炒り煮を口に入れるなり思わずほぅっと溜め息をついた音芽おとめに、「雨宮あまみやがさ。お前、温和ハルと来た時はそれ外さねぇって言ってたわ」と何でもないことのように笑った。

 言われて、改めて弁当に視線を落とせば、おかずは炒り煮以外も基本的に音芽が好んで『あまみや』で頼んでいるものばかりで。

「お兄ちゃん、有難う」

 日頃は意地悪ばかりの奏芽かなめだけれど、何だかんだ言ってやっぱり温和はるまさが言うように、兄は自分に優しいんだろうなと今更のように実感させられまくった音芽だ。


 実際、一人ぼっちの夕飯はどうしようかな? 残りもので済ませちゃえばいいかな?とか思っていた音芽だったから、兄が持参してくれた『あまみや』のお弁当は本当に有難くて。



「明日の朝は仕事で様子見に来てやんねぇけど……ちゃんと飯食えよ? あと、何かあったら遠慮なく親父に連絡しろ」

 奏芽は音芽が弁当を食べ切ったのを確認するなり空の容器を袋に戻して、来たとき同様窓からさっさと帰って行ってしまった。

 「ゴミぐらい私が捨てるよ?」と手を出したのだけれど、取り合ってくれなかったところが何とも兄らしいな、と思った音芽だ。

 結局、奏芽は弁当のほかにも「近所のパン屋でたまたま目についたから」とか言って、音芽の大好きなバターの風味が香ばしいクロワッサンも置き土産にしてくれて。

 音芽は、明朝はそれに目玉焼きやサラダなどを添えて、一人でも兄の言いつけ通りちゃんとご飯を食べよう、と思った。
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