【完結】【R18】オトメは温和に愛されたい

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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■だってあったかいんだもん/オマケ的SS⑧

イモムシ靴下

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 9月も半ばを過ぎると朝晩グッと冷え込む日が増えてくる。
 夏に挙式と入籍を済ませて、晴れて夫婦になった温和はるまさ音芽おとめだったけれど、新居が建つまでの間、2人は狭いアパートに借り住まい状態で。

 1ルームアパートではないとはいえ、本来一人暮らしに毛が生えた程度の広さしかない部屋では、ベッドだって大きなものを置くことは出来なかった。
 結果、苦肉の策。
 今は音芽が使っていたベッドも撤去して、元々寝室として使っていた奥の洋間の床に2組の布団を2つくっ付けるようにして並べて寝ている。これが、音芽には結構堪えるのだ。

 マットレスなどで底上げしているならまだしも、床板の上に直に敷布団というのは床からの冷気を拾うものらしい。


***


 「俺も手伝うよ」と言ってくれた温和はるまさを押し留めて、
「今日は夕飯の支度、温和はるまさがしてくれたんだもん。片付けぐらい私にさせて? 疲れてるだろうし先に布団に入ってていいよ?」
 そう言って食器洗いなどを買って出た音芽だったのだけれど。

 キッチンに立って洗い物をしていたら、せっかくお風呂上がりでほこほこと温まっていた身体が段々冷えてきてしまった。

「寒いっ」

 油物を洗うためにお湯を使っているので手は温かいのだけれど、スリッパの中で両足の指先が段々冷たくなってきていた。

「く、靴下っ」
 冷え始めてしまってからでは手遅れだと分かっていながら、履かないよりは……と思い直した音芽おとめは、水を止めてタンスに向かう。
 靴下を入れてある引き出しから、モコモコ素材の室内履き専用厚手ソックスを取り出すと、いそいそと足に被せる。
 パステルカラーの、ボーダー柄になったそれは何だかカラフルなイモムシを連想させる。

(アリスに出られそう)

 『不思議の国のアリス』の挿絵みたいな配色だと勝手に想像してそんなことを思いながら、フニフニと足指を動かしてみて、クスッと笑った音芽だったけれど。

 ふと自分がとっても子供らしいことをしていると我に返って恥ずかしくなる。

「あ、洗い物の続き……」

 つぶやくように言って、音芽はいそいそとキッチンへ戻った。


***


 結局洗い物を済ませたあと、あちこち気になったところを綺麗にしたりしていたら、音芽おとめ温和はるまさを寝室に追い遣ってから1時間以上が経っていた。

 当然、音芽の身体――ことに手足の指先――は冷え切ってしまっている。

「寒いっ」
 小さく独りごちながら、それでも温和はるまさが眠っていたらいけないと思って、音芽はそっと寝室への扉を開けた。
 薄暗い室内に足音を忍ばせて踏み入れると、規則的な寝息が聞こえてきて。

 それを感じて「通りで」と思った音芽だ。
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