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④ 雨とピアノとハムスター
I Do It For You 2
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「今は夕飯作りが最優先事項ですよ? 助手の温和くん」
叱られてしまった。
けど懲りない俺は、今は、ってことはそれが済んだらその限りではないってことだよな、とか思いながら一旦手を引っ込めただけに過ぎない。
さっきたらふく彼女の痴態をご馳走になった俺は、束の間だけど待てのできる男だ。
「お願いって何?」
気を取り直して聞けば、「あの上にね、寸胴鍋がしまってあるの」と吊り戸棚を指差す。
あんな高いところ、小柄な音芽の母親は、いつもはどうしてたんだろう?と思ってから、きっとこんな風に父親や奏芽が取っていたのかな?と思い至る。
うちは母親も父親もそこそこに高身長夫婦なので、そういうのはあまり見たことがないが、鳥飼家の方は母親と父親に20センチ近い身長差があるので、きっと「あれ取って?」は日常茶飯事な気がする。
そう、きっと俺と音芽が一緒に暮らしてもそうなるに違いない。
ふとそんなことを考えて、思わず頬が緩んでしまう。
「温和、さっきからニヤニヤしすぎ!」
音芽に注意されて、俺は咳払いとともに背筋をただした。
いや、そもそもお前が可愛すぎるのが悪いんだからな? 自覚しろよ?
そう言いたかったけれど、言ったら何となく俺が馬鹿みたいに見える気がして、寸前で飲み込んだ。
***
「お風呂あいたよ? 温和もどうぞ」
音芽の手料理はとても美味しくて、いつでも嫁に行けるな、こいつと思ってから、そもそも料理が出来ようが出来まいが、それこそ家事全般の腕前がどうであろうが俺には関係ねぇけどな……と思って苦笑する。
「温和?」
ほんのり上気した彼女の顔を見て、俺が知らず口の端を緩めたのを見て、音芽がキョトンとする。
「ね、今日の温和、なんだか変よ?」
言われなくても自覚してるさ。
音芽と付き合うようになってから、まるでタガが外れたみたいになんだかんだと理由をつけては結構一緒に寝起きしたりしている。
けど、こんな風に四六時中2人きりでいることはなかったからか、今日はやたら音芽との結婚後のあれこれを想起させられて、俺自身正直戸惑っていた。
っていうか、音芽はそういうの、意識したりしないんだろうか。
ふとそう思ったら、自分ばっかりが彼女に惚れ込んで浮かれているようで、何だかちょっぴり悔しくなる。
「何でも……ねぇよ」
それでついつっけんどんな物言いになってしまって、音芽をムスッとさせてしまった。
「わけわかんない」
ぷうーっと膨らむ音芽がまた可愛くて、「ホント、何でもねぇから」と言って、湯上りでホカホカと温かい、いい香りのする音芽のおでこにキスを落とす。
それだけで怒っていたのを忘れたように、音芽が真っ赤になるのがまた可愛くて、ギュッと抱きしめたい衝動に駆られた。けど、先に風呂へ入ってからにしよう、と思い直す。
「俺が風呂から上がったら、な?」
何を、とはあえて言わなかったけれど、音芽がピクッと反応したのを見て、俺は満足して風呂へ向かった。
風呂上りはさっきお預けを喰らった分も含めて音芽を抱きしめよう。
そんな風に思いながら。
叱られてしまった。
けど懲りない俺は、今は、ってことはそれが済んだらその限りではないってことだよな、とか思いながら一旦手を引っ込めただけに過ぎない。
さっきたらふく彼女の痴態をご馳走になった俺は、束の間だけど待てのできる男だ。
「お願いって何?」
気を取り直して聞けば、「あの上にね、寸胴鍋がしまってあるの」と吊り戸棚を指差す。
あんな高いところ、小柄な音芽の母親は、いつもはどうしてたんだろう?と思ってから、きっとこんな風に父親や奏芽が取っていたのかな?と思い至る。
うちは母親も父親もそこそこに高身長夫婦なので、そういうのはあまり見たことがないが、鳥飼家の方は母親と父親に20センチ近い身長差があるので、きっと「あれ取って?」は日常茶飯事な気がする。
そう、きっと俺と音芽が一緒に暮らしてもそうなるに違いない。
ふとそんなことを考えて、思わず頬が緩んでしまう。
「温和、さっきからニヤニヤしすぎ!」
音芽に注意されて、俺は咳払いとともに背筋をただした。
いや、そもそもお前が可愛すぎるのが悪いんだからな? 自覚しろよ?
そう言いたかったけれど、言ったら何となく俺が馬鹿みたいに見える気がして、寸前で飲み込んだ。
***
「お風呂あいたよ? 温和もどうぞ」
音芽の手料理はとても美味しくて、いつでも嫁に行けるな、こいつと思ってから、そもそも料理が出来ようが出来まいが、それこそ家事全般の腕前がどうであろうが俺には関係ねぇけどな……と思って苦笑する。
「温和?」
ほんのり上気した彼女の顔を見て、俺が知らず口の端を緩めたのを見て、音芽がキョトンとする。
「ね、今日の温和、なんだか変よ?」
言われなくても自覚してるさ。
音芽と付き合うようになってから、まるでタガが外れたみたいになんだかんだと理由をつけては結構一緒に寝起きしたりしている。
けど、こんな風に四六時中2人きりでいることはなかったからか、今日はやたら音芽との結婚後のあれこれを想起させられて、俺自身正直戸惑っていた。
っていうか、音芽はそういうの、意識したりしないんだろうか。
ふとそう思ったら、自分ばっかりが彼女に惚れ込んで浮かれているようで、何だかちょっぴり悔しくなる。
「何でも……ねぇよ」
それでついつっけんどんな物言いになってしまって、音芽をムスッとさせてしまった。
「わけわかんない」
ぷうーっと膨らむ音芽がまた可愛くて、「ホント、何でもねぇから」と言って、湯上りでホカホカと温かい、いい香りのする音芽のおでこにキスを落とす。
それだけで怒っていたのを忘れたように、音芽が真っ赤になるのがまた可愛くて、ギュッと抱きしめたい衝動に駆られた。けど、先に風呂へ入ってからにしよう、と思い直す。
「俺が風呂から上がったら、な?」
何を、とはあえて言わなかったけれど、音芽がピクッと反応したのを見て、俺は満足して風呂へ向かった。
風呂上りはさっきお預けを喰らった分も含めて音芽を抱きしめよう。
そんな風に思いながら。
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