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④ 雨とピアノとハムスター

*雨2

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 正直な話、傘とかささずに土砂降りんなか、2人で走ってマンションまで突っ切りたい衝動に駆られるほどだ。

 濡れたらそれを理由に服、脱がせられるしな。

 とか普通に考えてしまう自分が怖い。
 俺ってこんなに性欲強い男だったっけ?

 音芽の味を知るまではそれ程さかっていなかった気がする。
 ま、知っちまったもんは仕方ねぇ。
 そこはそれ、何も知らない音芽に“このぐらいの頻度が”だと刷り込めばいい。

 音芽の初めての男でよかった、と心底思ってしまったのは本人には秘密だ。

 俺は後部シートに忍ばせておいた傘を手に取ると気合を入れてドアを開けた。
 途端ザーーーッという雨音が強くなって、あちこちから跳ね返ってくる水滴で肌が冷んやりする。

 傘とかさしても意味ねぇな、これ。
 ふと思った俺は一旦ドアを閉めて音芽おとめに問いかけた。

「なぁ、一度車出して、お前と荷物だけマンションに下ろしてやろうか?」

 最初からそうすべきだったのに出来なかったのは、俺が音芽を手放すのを躊躇ためらったから。
 けどこの雨ん中、彼女を歩かせるのはさすがに忍びないな、とか思えてしまって。

 なのに音芽のやつ、うつむいてポツンと「イヤだ」って言ってきて。
 俺が「なんで?」って聞いたら、「温和はるまさと離れたく、ない」とか。お前、俺をどんだけ煽る気だ。

 俺は音芽の愛らしいわがままに小さく笑うと、「じゃ、傘ささずに走るか?」とかさっき思った無謀な質問を投げかけてみた。

 音芽はその提案に、小首をかしげてちょっと考えてから「それも気持ちよさそうだけど……荷物もあるし、その……できたら……」

 言って、俺が手にした傘を見る。

「できたら?」
 音芽おとめが言いたいこと、実際はわかっているくせにわざと気付かない振りをする。
「その、温和はるまさと……相合傘が……してみたい、です」

 真っ赤になってうつむく音芽に、俺は
「わがままなヤツめ」
 そう言いながら霞むような雨の中に傘をさして躍り出る。
 後部座席から荷物を取り出して持つだけで、もう足元とかびしょ濡れだ。
 でもま、それはどうでもいいんだ。

 助手席に回って音芽の手を取ってそっと雨の中に彼女を連れ出すと、「傘、意味ねーな」言いながら2人でクスクス笑い合う。

 俺は荷物を持っていない側に音芽を抱き寄せると、なるべく彼女が濡れないように傘を傾けた。

温和はるまさと、荷物の方が大事」

 でもすぐに音芽にそんな抗議の声とともに傘を押し戻されて、はぁっと溜め息。
 荷物はともかくとして、俺にとってはお前の方が大事なんだと分かれよ、バカ音芽。
 こんなことなら荷物だけでもやっぱりマンションに置いてから雨の中に出るべきだった。
 そんな風に思ったけれど、こういう不自由な感じも音芽と一緒なら悪くない。
 そんな風に思えるから不思議だ。

「マンション着いたら着替え、な」

 言いながら、その前に身体を温め合わねぇとな、とか心の中でそっと付け加えてみる。
 音芽は俺の目論見を知ってか知らずか、「この雨、結構冷たいし、お風呂も溜めなきゃね」ってやっぱりお前も、期待してたりする?
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