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① 不機嫌な彼と、鈍感な彼女。

しりとり

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 仕事で温和はるまさと二人で県外に研修会に出た帰り道。
 事故があったみたいで、道路が大渋滞。うそみたいにべったりと車が動かなくなってしまった。
 窓の外は梅雨らしくシトシトと雨が降っていて、車内にはワイパーの音だけが定期的に聞こえている。
 アイドリングストップ機能搭載の車って、停車中はエンジンが止まるからエアコンも切れちゃうんだ。
 何となく曇り始めた窓ガラスを見つめて、ぼんやりとそんなことを思う。

 あまり曇ったら運転に支障が出ちゃうかな。
 窓少し開けたら違うかな。

 そう思ってパワーウインドウのスイッチを押して、ほんの少し車外から空気を取り込む。
 そうしながら、ハンドルを握る温和はるまさの横顔をチラチラと盗み見て、やっぱり温和はるまさ、かっこいいなぁと思ったのは内緒。

 あーん。でも……ダメ。
 慣れない場所で一生懸命小難しい話を聞かされたからかな、段々眠くなってきちゃった。

 だからって、運転してくれている温和はるまさを置いて、私だけ助手席で気持ちよく眠るわけにはいかない。

 一生懸命あくびを噛み殺しながら、眠気と闘いつつも、思いを巡らせる。
 どうやったら眠らずに済むかしら。
 出来れば、温和はるまさも退屈しなくて済むような何か。

 そこで私はふとひらめいた。


「ね、温和はるまさ。しりとりしない?」
 問いかけておきながら、彼の返事を待たずに「えっとねー、梅雨」と外の雨を見つめながら思いついた言葉を告げる。
「俺はやるなんて一言も……」
 不機嫌そうに温和はるまさが返すのへ、「わー、勝てる自信ないんだぁー」と、わざと彼の神経を逆撫でするような発言をして、挑発する。
「は? 誰がお前なんかに負けるかよ。梅雨って言ったよな。じゃあ、――夢」
 ほらね、乗ってきた。温和はるまさってばちょろいんだからぁー。

 ふふふ、と心の中でほくそ笑む。

「えっとね、じゃあ、綿棒」
「梅」
 何? また「め」?
「め、め、め……。そうだ! メキシコ!」
 どうだ、ちゃんと返せたぞ!?
 ふふんっと得意そうに温和はるまさを見やったら、さして面白くもなさそうな顔をして、「米」と返された。

 くっ、またしても、め!

「め、め……。えっと……」
「降参ならとっとと負けを宣言しな? 言い忘れてたけど、やるからには負けた方にはペナルティな」
 言って、温和はるまさが一瞬だけ口角を引き上げたのが分かった。

 く、悔しいっ! 負けてたまるかっ!

「め、め。……えっと、えっと……。あ! 目隠し!」
東雲しののめ
 私、一生懸命考えて答えをひねり出したのに、何でそんな即答してくるの? しかも、御丁寧に、またしても「め」。

 窓外を見つめながら、私は必死に考える。

 負けるのは嫌。だってペナルティって何されるか分からないもの!

 いつの間にか、あんなに感じていたはずの眠気は吹き飛んでしまっていて。
 私はそんなことも忘れて頭をフル回転させる。

「あ、そうだ! めだか!」
 めだか。学校の理科室にいるわ。私、時々癒されに行ってる。

 いくら何でももう、「め」は返してこないでしょ?
 そう、思っていたのに――。
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