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お見舞い

人の愛し方が分からない

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鶴見つるみ先生、逢地おおち先生が戻られるまでにそんなに猶予ゆうよがあるとは思えませんし、もう少し分かりやすく話してもらえますか?」

 まるで私の気持ちを代弁してくれたみたいな温和はるまさのセリフに、私はつくづく彼と一緒にいられてよかったって思ったの。
 私はこう言う時、気持ちを的確な言葉にするのが下手で。
 なんて言うか、感情が勝ちすぎて思うようにセリフがつむげないの。

「分かりました。では単刀直入に話します。僕は――幼い頃、母親から放置されて育ちました。いわゆるネグレクトというやつです。母は母なりに父と死別した直後から、女手ひとつで子供ぼくを育てないといけなくなって一杯一杯になって壊れてしまっただけの可哀想な人だったのかもしれません。でも、僕にはそう言うのは分からなかったから……ただただ父がいた頃のように愛されたくてたまらなかった」

 言って、「重い話ですみません」と付け加えて、「いくら遠方に住んでいるからって……おかしいでしょう? こんなに長いこと1人息子が入院しているのに、親が1度も顔を出さないのは」と自嘲気味におっしゃった。
 さっきの「――おかしいと……思いませんか?」はそこに繋がる言葉だったみたいで。

「だから……僕はどうやって人を愛したらいいのかとか……実はイマイチよく分からないんです。同じように、相手からの好意も、それが恋愛的なモノなのか、友情的なモノなのか、はたまたその他のものなのか……相手が歳の近い異性であればあるほど見分けがつかなくなります」

 そこで一旦言葉を止めると、私と温和はるまさを交互に見比べて、
「ちょうどあの頃、母から相手にされなかった僕に、唯一愛情を注いでくれた祖母が倒れてしまって……。自分ではそんなつもりはなかったんですが、もしかしたら……僕は平常心を失っていたのかもしれません」

 そう言って遠い目をなさった。

 お父様方の祖父母、お母様方のお爺さまは鶴見つるみ先生が生まれる前にはすでに鬼籍きせきの人だったそうで、母方の祖母が彼にとって唯一のお婆さまだったらしい。

 倒れたお婆さまをお見舞いに行ったら、
大我たいがには色々辛い思いをさせてしまったから……ちゃんと人を愛せる子に育ってくれたかどうか、お婆ちゃん、心配でたまらないのよ」
 と言われてしまったらしい。

 25歳これまで、恋人のひとりも出来たことがなかったのを指してと思われる言葉に、「何をバカなことを」と返しながら、心の内を見透かされたみたいでドキッとしたのだと、鶴見つるみ先生が視線を落とした。

鳥飼とりかい先生はいつも明るくて、無邪気で屈託がなくて。きっと愛情をたっぷり注がれて育ってらしたんだろうなって……、そんな風に思ったら……うらやましくて、ねたましくて。オマケに家族だけじゃなくて幼なじみの霧島きりしま先生にまでとても気にかけられているのが分かって。何て不公平なんだって思いました」

 ドキッとした。
 不公平――。
 確かに私は両親からも――意地悪だったけれど――多分カナにいからも……凄く可愛がられて育ったと思う。
 温和はるまさからも……そう。
 お母さんからの愛情でさえも受けられないという状態が、私には想像がつかないくらい、遠い遠いところの話で。
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