150 / 409
近付くなって言ったよな?
思い出した
しおりを挟む
私、この人に――喜多里先輩に……高校1年生の頃、こんな風に触れられた記憶がある。
同性同士がスキンシップをはかるようなそんな触り方じゃなくて……もっとこう……。
ぼんやりした頭の中、唇を割るように彼女の指先が口中に入ってきて、私は唇にギュッと力を入れた。
嫌なのに。
逃げたいのに。
身体が固まったみたいに動かない。
彼女が身にまとうフローラル系のこの香りは、私の身体から力を奪ってしまう。
***
と、目の前が一瞬陰って、私はフローラルの呪縛から解放された。
代わりにふわりと漂ってきたのは、大好きな石鹸の、香り。
「――音芽に! 俺の彼女に近付くなって、初日にさんざん言ったよな!?」
私に伸ばされていた川越先生の手を払い退けて、私と川越先生の間に立ち塞がってくれているのは……。
「……はる、まさ」
私はガクガクと震える情けない足を支えるように、温和にギュッとしがみ付く。
「音芽、すまん。遅くなった」
少し息を切らした温和が、申し訳なさそうにつぶやいた。その声にふわりと嗅ぎ慣れた彼の柔らかな石鹸の香りがあいまって、少しずつ呼吸と鼓動が落ち着きを取り戻し始める。
大丈夫。あの時と違って、私ひとりじゃない。
(あの、時?)
無意識にそう思って、頭がズキンッと疼いた。
「私から目を離さないって言ったくせにそばを離れたのは霧島くんよ? 私、言ったわよね? チャンスがあったら逃さないって」
温和の陰に隠れていても感じる。
喜多里先輩の強い視線。
「わた、しっ、学生の頃とは……違い、ますっ!」
温和にしがみついていないと足が震えてその場にくず折れてしまいそうなくせに。
気が付けば、私は声を張り上げていた。
***
思い、出した……。
奏芽兄の彼女として現れたはずの喜多里先輩――川越先生――が……。
今日みたいに放課後の教室にひとり居残っていた私に会いに来たことが、ある。
何故3年生の彼女が、階数違いの1年生の教室に、奏芽ではなく妹を訪ねて来たんだろうって不思議に思ったのを覚えている。
あの日の彼女も今みたいにフローラル系の甘ったるい香りを身にまとっていて――。
でも今と違って髪は腰まで届くくらい長かった。
奏芽兄の遊び人然とした明るめの金に近い髪と違って、漆黒に近い黒髪をたたえた彼女は、何でこんな真面目そうな美人がカナ兄と?と思わせる違和感を漂わせていた。
同性同士がスキンシップをはかるようなそんな触り方じゃなくて……もっとこう……。
ぼんやりした頭の中、唇を割るように彼女の指先が口中に入ってきて、私は唇にギュッと力を入れた。
嫌なのに。
逃げたいのに。
身体が固まったみたいに動かない。
彼女が身にまとうフローラル系のこの香りは、私の身体から力を奪ってしまう。
***
と、目の前が一瞬陰って、私はフローラルの呪縛から解放された。
代わりにふわりと漂ってきたのは、大好きな石鹸の、香り。
「――音芽に! 俺の彼女に近付くなって、初日にさんざん言ったよな!?」
私に伸ばされていた川越先生の手を払い退けて、私と川越先生の間に立ち塞がってくれているのは……。
「……はる、まさ」
私はガクガクと震える情けない足を支えるように、温和にギュッとしがみ付く。
「音芽、すまん。遅くなった」
少し息を切らした温和が、申し訳なさそうにつぶやいた。その声にふわりと嗅ぎ慣れた彼の柔らかな石鹸の香りがあいまって、少しずつ呼吸と鼓動が落ち着きを取り戻し始める。
大丈夫。あの時と違って、私ひとりじゃない。
(あの、時?)
無意識にそう思って、頭がズキンッと疼いた。
「私から目を離さないって言ったくせにそばを離れたのは霧島くんよ? 私、言ったわよね? チャンスがあったら逃さないって」
温和の陰に隠れていても感じる。
喜多里先輩の強い視線。
「わた、しっ、学生の頃とは……違い、ますっ!」
温和にしがみついていないと足が震えてその場にくず折れてしまいそうなくせに。
気が付けば、私は声を張り上げていた。
***
思い、出した……。
奏芽兄の彼女として現れたはずの喜多里先輩――川越先生――が……。
今日みたいに放課後の教室にひとり居残っていた私に会いに来たことが、ある。
何故3年生の彼女が、階数違いの1年生の教室に、奏芽ではなく妹を訪ねて来たんだろうって不思議に思ったのを覚えている。
あの日の彼女も今みたいにフローラル系の甘ったるい香りを身にまとっていて――。
でも今と違って髪は腰まで届くくらい長かった。
奏芽兄の遊び人然とした明るめの金に近い髪と違って、漆黒に近い黒髪をたたえた彼女は、何でこんな真面目そうな美人がカナ兄と?と思わせる違和感を漂わせていた。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる