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近付くなって言ったよな?

何も言えないけど信じて欲しい

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 じっと見上げてみるけれど、彼の表情は読み取れなくて、そのことに緊張した私は、手指をギュッと握り締めた。

 温和はるまさの顔、見えないけど長い付き合いだから分かる。これ、温和はるまさいま、絶対機嫌悪い。

 私は小さく生唾を飲み込んだ。
 
 でもでも今回だけは……何を言われても私にだって、温和はるまさに言い返せるちゃんとした理由あれこれがあるんだからっ!

 そう思っていたのに……。

「あの口ぶりからすると……お前、俺が川越かわごえ先生と何かあると思ったってことだよな?」

 温和はるまさにじっと見下ろされて、私はグッと言葉に詰まった。

 無論その通りだったし、実際今でもそう思っているって言ったら、温和はるまさはどういう反応をするんだろう。
 さっき佳乃花かのかにも私の大好きな温和はるまさは本当にそんな人なの?って聞かれて否定したばかりなのに結局はこれ。本当情けない。

「でっ、でもっ温和はるまさっ。私が同じことやったら……」

 ギュッと拳を握り締めて真っ直ぐに温和はるまさを見上げたら、彼がふいっと視線を逸らした。
 いつもの温和はるまさなら「そんなの許すわけねぇだろ」とか即答してくるところだ。
 そう思ったら、彼は彼なりに色々考えているのかなって思った。

 ややして、
「……それは……絶対許せないと……思うし……させないように邪魔すると……思う」
 温和はるまさにしては歯切れ悪くそう言ってから、はぁっと小さく溜め息をついた。

「謝って欲しいんじゃ……ないよ? 私、温和はるまさがあんな態度を取った理由が知りたいだけ。それ以上でも以下でも……ないっ」

 言ったら、温和はるまさが立ち上がって背中を向けたまま
「だからっ……お前には言えないんだって分かれよ、音芽おとめ。俺はお前を守りたいし、――そのためなら……例えお前に嫌われたとしても」

 最後のあたりは消え入りそうで、温和はるまさが相当の覚悟で私には言えないのだ、と言っているのを感じさせられた。

 ややして、温和はるまさはゆっくり振り返って私をじっと見つめると、
「……明日からも俺、同じようにお前じゃなくて川越かわごえ先生と過ごす時間が増えると思う。けど……俺が好きなのは音芽おとめだけだから……。それを忘れないで欲しいし……。できれば……こんな俺を信じて欲しい」

 滅茶苦茶なことを言ってるのは自分でも分かってる、と付け加えて、温和はるまさが居たたまれないように私からツ……と、視線を逸らした。

 ねぇ、どういう意味なの、温和はるまさ
 私を守るためって何?
 何にも言えないのに……信じろって……本当、言ってること、無茶苦茶だよ。

 ギュッと下唇を引き結んで温和はるまさを見上げたら、彼がもう一度だけ小さな声で言ってきた。

「頼むから……これ以上はその事を考えたりするな」‪

 私は温和はるまさの泣きそうにも聞こえるその声に、どう答えたらいいのか分からなくて……。何も言えずに彼をじっと見上げた。
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