【完結】【R18】オトメは温和に愛されたい

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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真相が知りたい

引き下がれないふたり

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「え、でも……。え? 嘘……」

 何を、言ったらいいんだろう。

 温和はるまさは幼い頃からずっと、私だけを見ていてくれてたんじゃ、なかった、の?

 あの言葉は嘘……だったの?

 じゃあさっき清廉潔白だって……そう言ってくれたのも……全部全部、口から出まかせ?

 泣きたくなんてないのに、視界が涙でぼんやり霞んできて、私はテーブルに両手を付いてうつむいたまま、顔を上げることができなくなる。

鳥飼とりかい、先生……?」

 逢地おおち先生がそんな私の名前を気遣わしげに呼んでいらっしゃるけれど、お返事をしたらもっともっと泣いてしまいそうで、身動きが取れない。

「ごめんなさい、鳥飼先生。ショック、ですよね」

 言って、逢地おおち先生からそっとハンカチを差し出されて、私は泣いていることを隠し切れない自分を心底情けないって思ったの。

 淡いピンクに花柄の、柔軟剤のとってもいい香りがする女性らしいハンカチ。
 その香りが鼻先をかすめた途端、それによく似た温和はるまさの体臭を思い出して、余計に辛くなる。


「今朝も……もっと上手に鳥飼先生にお電話の件、伝えられなかったのかな?って後悔したんです」

 電話の、件?
 ああ、昨日……。温和はるまさが私を置いて出て行ったアレのこと、だよね。

 でもあの電話の話、逢地おおち先生、私に、じゃなくて明らかに温和はるまさに向けて話してらした気が。

 あ、あのやり方が上手じゃなかったって思っていらっしゃるってこと、かな。

 逢地おおち先生の物言いに何となく引っかかりを覚えた私は、そろそろと顔を上げて彼女を見つめた。


「泣かせてしまってごめんなさい、鳥飼とりかい先生。――仲睦まじい様子だったおふたりの間に割り込むようになってしまって……本当に反省しています。でも……電話の後、ふたりっきりでお会いしたら気持ちが止められなくなってしまって……。本当に自分本位だったと……反省しています……」

 逢地おおち先生は申し訳なさそうにそう仰ると、ソーサーの縁を指でなぞりながら束の間逡巡しゅんじゅんなさっておられるようで。

「でも……私っ! 本当に彼のことが好きなんです。だから……ごめんなさいっ。鳥飼先生を泣かせてしまうって分かっていても、引き下がること、出来ないんです……!」

 ややして決心したように私のほうを見て、そうおっしゃった。

 逢地おおち先生の視線はとても真っ直ぐで……彼女が本気なんだって言うのがひしひしと伝わってくる。

「あの……でも……私も……」

 私も温和はるまさに付き合おうって言われたんです。
 それに私だって彼のこと、大好きでっ。
 だから……引き下がれません!

 そう言いたいのに……何故か喉の奥に声が引っかかって一言も音にならなくて……机に付いたままの手をギュッと握り締めることしかできなかった。

 私が反論しようとしたからかな。

 逢地おおち先生が切羽詰ったような声音で言い募っていらした。
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