【完結】【R18】オトメは温和に愛されたい

*後悔したくない

誤解ぐらい解かせてよ

　一生懸命瞬まばたきをしないように頑張ったけど、絶対泣きそうになってるの、バレバレだよね。
　それでも私は往生際悪く、「えっと、目っ！　目にゴミがねっ……」って両手で目を覆い隠そうとして……温和はるまさに手を掴まれて止められてしまった。

「こするな」
　言われてグイッと顔を近づけられて、瞳を覗き込まれた私は、どうしたらいいのか分からなくなる。

「あ、あのっ、あのねっ」
　ソワソワと視線を泳がせながら一生懸命言葉を探していたら、期せずして瞬しばたたいてしまって、目端に溜まっていた涙がポトッと流れ落ちた。

「泣くなよ……」
　伝い落ちた涙の筋を拭うように優しく口付けられて、私はギュッと目をつぶる。
　反対側からも涙が溢れ落ちてしまったけれど、それどころじゃなくて。

　こんなことされたら……用意した言葉、全部飛んでいっちゃう。

　あまりにドキドキしすぎて、私は思わず温和はるまさから逃げるように、彼を押し戻しながら身じろいだ。

　離れないと心臓の音が伝わってしまうと思ったから。

　逢地おおち先生と私との間で、温和はるまさを板挟みにしちゃいけない。
　私の告白は、あくまでも軽めにしないといけないの。
　ふられること前提なんだから、サラッとね、言うの。

　ずっと温和はるまさのこと好きだったの。でも大丈夫。近所のお兄ちゃんに対する憧れみたいなものだったんだと思う！　付き合って欲しいとかそういうんじゃなくてね、ちゃんと次に行くために気持ちを伝えたかっただけだから気にしないで？　テヘッ。

　――そんな感じでライトにいかないといけないのに、こんなに心臓をドキドキさせているのがバレたら台無しだよ。

　だからね、距離、大事。


　でも、そのせいで私が温和はるまさの優しさを踏みにじったからかな？

　私、温和はるまさを傷つけてしまった。

　温和はるまさが息を飲む気配に、私は彼の顔を見て瞳を見開いた。

「温はる……和まさ？」
　何でそんな悲しそうな顔、してるの？
　
「俺が……酷い事したから、だよな？　怖がらせて悪かった。……もう不用意に触れたりしないから……だから――、頼む。そんなに警戒してくれるな」

　今度は温和はるまさ自身に大きく距離を取られてそう言われてしまって、私はびっくりしてしまう。

　ち、違っ。温和はるまさ、それ、誤解っ！

　慌ててそう言い募ろうとしたら、またしても着信。

　温和はるまさは私を一瞬だけ気にしてから、「ごめん」。――そう言い残して、まるで私から逃げるように、今度こそ電話に応答してしまった。

「もしもし。逢地おおち先生、さっきは出られなくてすみません。え？　今ですか？　はい、ええ。大丈夫です。――どうしました？」

　私、誤解だって言えてないっ。
　待って、温和はるまさっ。
　スマホを片手にキッチンの方へ行く温和はるまさの背中を見送りながら、私はギュッと唇を噛み締める。

　温和はるまさ、今、逢地おおち先生って言ってたよね。
　着信、また彼女からだったんだ。
　そんなに再々かけてくるってことは、大事な用件ってことだよね。

　でも……何で……今、なの？
　何で……こんな……うまく行かないの？
　私はただ、温和はるまさに大好きよって伝えたかっただけなのに――。　

　ねぇ、温和はるまさ、誤解ぐらい……解かせてよ？