【完結】【R18】オトメは温和に愛されたい

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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パンケーキデート

音芽の兄の鳥飼奏芽と申します

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「まぁそれはそうと、だ。そこの……えっと大我たいがちゃん、だっけ?」

 奏芽かなめにい温和はるまさの不機嫌さなんてお構いなしに鶴見つるみ先生の車の助手席に腰掛ける。

「どうも、はじめましてぇー。うちの音芽いもうとがいつもお世話になっておりますぅ~。わたくし、音芽おとめの兄の鳥飼とりかい奏芽かなめと申します」
 言って、にこやかな笑顔で鶴見先生に手を差し出す奏芽かなめにいを、私も温和はるまさも無言でじっと見守った。
 丁寧なんだかおネエ言葉なんだか分からない変な口調に、嫌な予感しかしない。こういう時の奏芽かなめにいはニコニコした表情とは裏腹に、怒っていることが多いから。
 でもカナにいのことを知らない人は、そんなの分からないから思わず気を緩めちゃうんだよね。
 ほら、今の鶴見先生みたいに。
「あ、は、はじめまして。鶴見大我たいがです。妹さんとはプライベートでも親しくさせていただいています」
 とか、地雷にしか思えないっ。

 鶴見先生の言葉に、温和はるまさが前に出そうになったのを、奏芽かなめにいが片手を上げて制すると、差し出した自分の手を握ってきた鶴見先生の手をギュッと力任せに握り返したのが分かった。
「痛っ」
 鶴見先生が顔をしかめて手を引こうとするのを、奏芽かなめにいはにこやかな笑顔を浮かべたまま、許さない。
「大我ちゃん。プライベートで親しくっていうのさぁー、うちの妹も合意の上での発言?」
 低めた声で奏芽かなめにいがそう言って、握ったままの手をグイッと自分の方へ引き寄せる。
 そうしてそのまま鶴見先生の胸ぐらを掴んで――。

「えっ! ちょっ!」
 思わず私、びっくりして声を出してしまった。

 だって……だって……奏芽兄かなめにい鶴見つるみ先生に……その、き、き、キスをっ!

 しかも軽いのじゃなくてどう考えても濃厚ディープなやつっ!

 それを見た途端、頭の奥がちりっと痛んで、ほんの少しふらついた私は、慌てて温和はるまさにしがみついた。

 温和はるまさはそんな私の背中を、何も言わずに優しくぽんぽん、と撫でてくれる。

 それだけでスッと楽になるようで――。

 奏芽かなめにいは、グッと鶴見先生の頭を押さえて逃さないようにして結構執拗なキスをした後、唇を離したと同時に口元を片手で拭った。

 相手の気持ちを無視したキス。
 無理矢理の抱擁。
 どちらもされた方はたまらない。
 私は温和はるまさのおかげでたまたま抱きしめられるのみで回避できたけれど、そうでない未来があったかもしれないわけで。

 考えただけで恐怖に足がすくみそうになった。
 温和はるまさがいてくれなかったら絶対私、へたり込んでしまってた。

「嫌がる女を力づくでものにしようとするとか、有り得ねぇから。もしまたうちの音芽おとめに同じようなことをしようとしたら……そのときは――」
 奏芽かなめにいが鶴見先生の耳元に唇を寄せて何事かをささやいて。
 途端、鶴見先生が引きつった顔をして、青ざめたのが分かった。

「じゃあね、そういうことなんでよろしくね~。――俺さ、マジでどっちでもいける口だからぁ~♪」

 音芽おとめを泣かせていいのは兄貴の特権を持った俺だけなんだよ、と恐ろしいことをつぶやきながら、奏芽かなめにいが助手席から立ち上がる。
 そこでふと思い出したようにもう一度車内を覗き込んで、
「そうそう。俺たち予定通りパンケーキ食べに行くんだけど、大我たいがちゃん、どうする?」
 問いかける奏芽かなめにいの満面の笑みに、鶴見先生が、小さく「ヒッ」と悲鳴を上げて……慌てたように「ぼっ、僕はちょっと体調が悪くなったので失礼しますっ」と言った。

「あらぁ~、残念っ。一緒のお皿をつついたらもっと仲良くなれると思ったのにぃ~」
 白々しく奏芽かなめにいが言うのへ、鶴見先生が慌てたように「すみませんっ!」と謝罪した。
 その反応に、奏芽かなめにいは満足そうにニヤッと笑うと「じゃあ気をつけて帰ってね」とドアをしめた。
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