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パンケーキデート
音芽の兄の鳥飼奏芽と申します
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「まぁそれはそうと、だ。そこの……えっと大我ちゃん、だっけ?」
奏芽兄が温和の不機嫌さなんてお構いなしに鶴見先生の車の助手席に腰掛ける。
「どうも、はじめましてぇー。うちの音芽がいつもお世話になっておりますぅ~。わたくし、音芽の兄の鳥飼奏芽と申します」
言って、にこやかな笑顔で鶴見先生に手を差し出す奏芽兄を、私も温和も無言でじっと見守った。
丁寧なんだかおネエ言葉なんだか分からない変な口調に、嫌な予感しかしない。こういう時の奏芽兄はニコニコした表情とは裏腹に、怒っていることが多いから。
でもカナ兄のことを知らない人は、そんなの分からないから思わず気を緩めちゃうんだよね。
ほら、今の鶴見先生みたいに。
「あ、は、はじめまして。鶴見大我です。妹さんとはプライベートでも親しくさせていただいています」
とか、地雷にしか思えないっ。
鶴見先生の言葉に、温和が前に出そうになったのを、奏芽兄が片手を上げて制すると、差し出した自分の手を握ってきた鶴見先生の手をギュッと力任せに握り返したのが分かった。
「痛っ」
鶴見先生が顔をしかめて手を引こうとするのを、奏芽兄はにこやかな笑顔を浮かべたまま、許さない。
「大我ちゃん。プライベートで親しくっていうのさぁー、うちの妹も合意の上での発言?」
低めた声で奏芽兄がそう言って、握ったままの手をグイッと自分の方へ引き寄せる。
そうしてそのまま鶴見先生の胸ぐらを掴んで――。
「えっ! ちょっ!」
思わず私、びっくりして声を出してしまった。
だって……だって……奏芽兄、鶴見先生に……その、き、き、キスをっ!
しかも軽いのじゃなくてどう考えても濃厚なやつっ!
それを見た途端、頭の奥がちりっと痛んで、ほんの少しふらついた私は、慌てて温和にしがみついた。
温和はそんな私の背中を、何も言わずに優しくぽんぽん、と撫でてくれる。
それだけでスッと楽になるようで――。
奏芽兄は、グッと鶴見先生の頭を押さえて逃さないようにして結構執拗なキスをした後、唇を離したと同時に口元を片手で拭った。
相手の気持ちを無視したキス。
無理矢理の抱擁。
どちらもされた方はたまらない。
私は温和のおかげでたまたま抱きしめられるのみで回避できたけれど、そうでない未来があったかもしれないわけで。
考えただけで恐怖に足がすくみそうになった。
温和がいてくれなかったら絶対私、へたり込んでしまってた。
「嫌がる女を力づくでものにしようとするとか、有り得ねぇから。もしまたうちの音芽に同じようなことをしようとしたら……そのときは――」
奏芽兄が鶴見先生の耳元に唇を寄せて何事かをささやいて。
途端、鶴見先生が引きつった顔をして、青ざめたのが分かった。
「じゃあね、そういうことなんでよろしくね~。――俺さ、マジでどっちでもいける口だからぁ~♪」
音芽を泣かせていいのは兄貴の特権を持った俺たちだけなんだよ、と恐ろしいことをつぶやきながら、奏芽兄が助手席から立ち上がる。
そこでふと思い出したようにもう一度車内を覗き込んで、
「そうそう。俺たち予定通りパンケーキ食べに行くんだけど、大我ちゃん、どうする?」
問いかける奏芽兄の満面の笑みに、鶴見先生が、小さく「ヒッ」と悲鳴を上げて……慌てたように「ぼっ、僕はちょっと体調が悪くなったので失礼しますっ」と言った。
「あらぁ~、残念っ。一緒のお皿をつついたらもっと仲良くなれると思ったのにぃ~」
白々しく奏芽兄が言うのへ、鶴見先生が慌てたように「すみませんっ!」と謝罪した。
その反応に、奏芽兄は満足そうにニヤッと笑うと「じゃあ気をつけて帰ってね」とドアをしめた。
奏芽兄が温和の不機嫌さなんてお構いなしに鶴見先生の車の助手席に腰掛ける。
「どうも、はじめましてぇー。うちの音芽がいつもお世話になっておりますぅ~。わたくし、音芽の兄の鳥飼奏芽と申します」
言って、にこやかな笑顔で鶴見先生に手を差し出す奏芽兄を、私も温和も無言でじっと見守った。
丁寧なんだかおネエ言葉なんだか分からない変な口調に、嫌な予感しかしない。こういう時の奏芽兄はニコニコした表情とは裏腹に、怒っていることが多いから。
でもカナ兄のことを知らない人は、そんなの分からないから思わず気を緩めちゃうんだよね。
ほら、今の鶴見先生みたいに。
「あ、は、はじめまして。鶴見大我です。妹さんとはプライベートでも親しくさせていただいています」
とか、地雷にしか思えないっ。
鶴見先生の言葉に、温和が前に出そうになったのを、奏芽兄が片手を上げて制すると、差し出した自分の手を握ってきた鶴見先生の手をギュッと力任せに握り返したのが分かった。
「痛っ」
鶴見先生が顔をしかめて手を引こうとするのを、奏芽兄はにこやかな笑顔を浮かべたまま、許さない。
「大我ちゃん。プライベートで親しくっていうのさぁー、うちの妹も合意の上での発言?」
低めた声で奏芽兄がそう言って、握ったままの手をグイッと自分の方へ引き寄せる。
そうしてそのまま鶴見先生の胸ぐらを掴んで――。
「えっ! ちょっ!」
思わず私、びっくりして声を出してしまった。
だって……だって……奏芽兄、鶴見先生に……その、き、き、キスをっ!
しかも軽いのじゃなくてどう考えても濃厚なやつっ!
それを見た途端、頭の奥がちりっと痛んで、ほんの少しふらついた私は、慌てて温和にしがみついた。
温和はそんな私の背中を、何も言わずに優しくぽんぽん、と撫でてくれる。
それだけでスッと楽になるようで――。
奏芽兄は、グッと鶴見先生の頭を押さえて逃さないようにして結構執拗なキスをした後、唇を離したと同時に口元を片手で拭った。
相手の気持ちを無視したキス。
無理矢理の抱擁。
どちらもされた方はたまらない。
私は温和のおかげでたまたま抱きしめられるのみで回避できたけれど、そうでない未来があったかもしれないわけで。
考えただけで恐怖に足がすくみそうになった。
温和がいてくれなかったら絶対私、へたり込んでしまってた。
「嫌がる女を力づくでものにしようとするとか、有り得ねぇから。もしまたうちの音芽に同じようなことをしようとしたら……そのときは――」
奏芽兄が鶴見先生の耳元に唇を寄せて何事かをささやいて。
途端、鶴見先生が引きつった顔をして、青ざめたのが分かった。
「じゃあね、そういうことなんでよろしくね~。――俺さ、マジでどっちでもいける口だからぁ~♪」
音芽を泣かせていいのは兄貴の特権を持った俺たちだけなんだよ、と恐ろしいことをつぶやきながら、奏芽兄が助手席から立ち上がる。
そこでふと思い出したようにもう一度車内を覗き込んで、
「そうそう。俺たち予定通りパンケーキ食べに行くんだけど、大我ちゃん、どうする?」
問いかける奏芽兄の満面の笑みに、鶴見先生が、小さく「ヒッ」と悲鳴を上げて……慌てたように「ぼっ、僕はちょっと体調が悪くなったので失礼しますっ」と言った。
「あらぁ~、残念っ。一緒のお皿をつついたらもっと仲良くなれると思ったのにぃ~」
白々しく奏芽兄が言うのへ、鶴見先生が慌てたように「すみませんっ!」と謝罪した。
その反応に、奏芽兄は満足そうにニヤッと笑うと「じゃあ気をつけて帰ってね」とドアをしめた。
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