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パンケーキデート

仕事、やりづらくなるのは嫌でしょ?

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***

 窓外をぼんやり眺めながら、今日は曇天どんてんで外が薄暗いなぁと思う。
 まるで私の心みたいにはっきりしない空模様。

 流れる景色を見るとはなしに見ていて、ふと気がついた。
 考えてみると、いま私は車の中で、運転は鶴見つるみ先生任せ。
 私には行き先に対して、何の主導権もない状態だ。

(どこに連れて行かれるんだろう)

 実際には一番最初に心配しないといけないことだろうに、私はどこまでも抜けている。
 そりゃあ、しょっちゅう、少しは考えて行動しろと温和はるまさに怒られるわけだ。

「あの、た、大我たいがさん、どちらへ?」
 恐る恐る問いかけたら「ホテル」とか言われてビクッとする。
「え!?」
 不安になりながらソワソワと彼を見たら、途端笑われてしまった。
「冗談だよ、冗談。目的地のパンケーキ屋に向かってる。とりあえずそこの近くに車停めて、あの辺ぶらぶらしながら話そうかなって。何なら車内で話すんでも構わないし」
 言われて、少しホッとした。

音芽おとめちゃんが同僚じゃなかったらもう少し危ない橋も渡れるんだけどね、さすがに気まずくなるのは避けたいんだよ、僕も」
 仕事、やりづらくなるのは嫌でしょ?
 そこでチラッと視線を送られて、私はコクコクと何度もうなずいた。

 同僚じゃなかったら……どうなっていたんだろうと思うと、少しゾクッとした。

 そういえば温和はるまさだって同僚だ。
 初めて彼に意地悪でキスされた時、翌朝仕事に行くのが嫌だったっけ、と思い出す。
「わ、私も! 気まずくならないように……したい、です」
 それを思い出してしまって、思わず力強く宣言したら、「それを聞いて安心した」と鶴見つるみ先生がひとりごちて。
 私は独り言のようにつぶやかれたセリフと、鶴見先生の嬉しそうな横顔を見て、ハッとする。

 もし鶴見先生の気持ちにお応えできないと告げてしまったら……それは「気まずくなる」ということなんじゃないかしら。

 だったら私は……振り向いてくれない温和はるまさへの一方的な気持ちを押し殺して……私を好きだと言ってくれる鶴見先生とお付き合いを始めるべき……?
 波風を立てないようにするってそういうことだったり……する?

 さっきまで「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに、私はどうしたらいいのか迷い始めてしまう。

 温和はるまさに好きだってちゃんと言って、彼にはっきり拒絶された後だったら……こんなにモヤモヤしなくて済むのかな。

 私のバカ。温和はるまさに好きだって……何で言わなかったんだろう。

 妹という立場に固執して、その先を夢見ながら現状に甘んじていた自分が、心底嫌になった。
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