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パンケーキデート

僕、ちゃんと言ったよね?

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 私の真ん前に停車すると、こちら側――助手席側――の窓が開いて、鶴見つるみ先生が私の方へ身を乗り出すようにして声をかけてきた。

「おはようございます、音芽おとめさん。鍵、かかってないので開けて乗り込んでもらってもいいですか?」
 言われて、私は「あ、はい」と答えてモタモタとドアに手を伸ばす。
 セルフで助手席に乗り込みながら、温和はるまさだったら一旦降りてきてドア、開けてくれるんだけどな、とか思ってしまった。

 あー、ダメダメ。そんなこと考えたら、鶴見先生に失礼だ。

「おはようございます。今日はお世話になります」
 自分でも笑ってしまうぐらいぎこちない挨拶になってしまった。
「もしかして音芽、緊張してる?」
 私が助手席に乗り込んだ途端、になったことに気がついて、私は思わず鶴見先生を窺い見てしまった。
「ダメかな? 呼び。その方が何だか視密度が増すかなって思ったんだけど」
 ついでに敬語も飛ばしちゃおうという腹づもりかしら。
 私は「あ、大丈夫です」と、努めて他人行儀に返しながら、気持ちがざわつくのを抑えられなくて。

「パンケーキはお昼ご飯にするとして……少し時間があるよね。どこか行きたいところある?」
 聞かれて、私は驚いてしまう。
 てっきり即行でパンケーキ屋さんに行って、食べたら解散、だと思っていたんだけど……。

「えっと、あの……すぐにパンケーキ屋さんに行くんじゃ、ないんですか?」
 恐る恐る聞いたら「ん? 音芽おとめちゃん、朝ご飯食べてないの?」と聞かれて。

 いや、朝はしっかり食べてきた。
 私がふるふると首を横に振ると「だったらまだお腹にゆとりないでしょ?」と畳み掛けられて。

 うーーー。確かにおっしゃるとおりです。

 私はいつもの癖で普通に朝食を食べてしまった今朝の自分を呪わしく思う。

 何より!
 パンケーキ屋さんに直行しなかったら温和はるまさたち?と出会えないかも知れないじゃない。

 それって、まずいんじゃ……?

「街中をぶらぶらするのもいいし、あてもなくドライブっていうのも捨てがたいかなー。ね? 音芽おとめちゃん」

 鶴見つるみ先生がルンルンでハンドルを握っているのを横目に、私は不安で一杯になりながら窓外に視線を転じる。
 もしかしたら、どこかで温和はるまさが見ていてくれるんじゃないかと期待して。
 でもそれらしき人影はなくて。
 私は無意識に携帯の入った鞄をギュッと抱きしめる。

音芽おとめちゃん、聞いてる?」
 返事をしなかったからだろう。鶴見先生が言いながら私の肩にそっと触れてきて。いきなりのことに、思わず肩がビクッと跳ねる。
「あ、ご、ごめんなさいっ。何だか男の人とこういうの、慣れてなくて……」
 過剰反応してしまったみたいで恥ずかしくて、取り繕うようにそう言ったら、「わー、それ本当? すっごい嬉しいんだけど」と予想外の反応が返ってきた。
「え?」
 思わずそう呟いて鶴見先生の方を見たら、
「だって僕、今、音芽おとめちゃんの初体験もらってるってことでしょう?」
 嬉しそうに笑顔を返された。
 私はそれを見て胸の奥がチクリと痛んで。

「あの、つる……た、大我たいがさん、どうして私を誘ってくれたんですか?」

 逢地おおち先生を誘って、とかなら分かる気がする。彼女は美人だし、スタイルもいい。私とは対極にいらっしゃるようなモテじょだと思うから。
 私はどう贔屓目ひいきめに見ても童顔だし、背も低くてガサツなチンチクリンだ。
 温和はるまさにさんざんバカにされてきたのも仕方ないと思える程度には、身の程をわきまえているつもり。

「え? 今更それ聞く? 僕、ちゃんと言ったよね?」
 前に音芽おとめちゃんを家まで送って行って抱きしめた時に――。

 言われて、私はギクッとする。

 そう言えばあの時、耳元で鶴見先生、何か言ってた。でも私、パニックで内容が頭に入ってこなかったんだ。
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