39 / 409
パンケーキデート
僕、ちゃんと言ったよね?
しおりを挟む
私の真ん前に停車すると、こちら側――助手席側――の窓が開いて、鶴見先生が私の方へ身を乗り出すようにして声をかけてきた。
「おはようございます、音芽さん。鍵、かかってないので開けて乗り込んでもらってもいいですか?」
言われて、私は「あ、はい」と答えてモタモタとドアに手を伸ばす。
セルフで助手席に乗り込みながら、温和だったら一旦降りてきてドア、開けてくれるんだけどな、とか思ってしまった。
あー、ダメダメ。そんなこと考えたら、鶴見先生に失礼だ。
「おはようございます。今日はお世話になります」
自分でも笑ってしまうぐらいぎこちない挨拶になってしまった。
「もしかして音芽ちゃん、緊張してる?」
私が助手席に乗り込んだ途端、さんがちゃんになったことに気がついて、私は思わず鶴見先生を窺い見てしまった。
「ダメかな? ちゃん呼び。その方が何だか視密度が増すかなって思ったんだけど」
ついでに敬語も飛ばしちゃおうという腹づもりかしら。
私は「あ、大丈夫です」と、努めて他人行儀に返しながら、気持ちがざわつくのを抑えられなくて。
「パンケーキはお昼ご飯にするとして……少し時間があるよね。どこか行きたいところある?」
聞かれて、私は驚いてしまう。
てっきり即行でパンケーキ屋さんに行って、食べたら解散、だと思っていたんだけど……。
「えっと、あの……すぐにパンケーキ屋さんに行くんじゃ、ないんですか?」
恐る恐る聞いたら「ん? 音芽ちゃん、朝ご飯食べてないの?」と聞かれて。
いや、朝はしっかり食べてきた。
私がふるふると首を横に振ると「だったらまだお腹にゆとりないでしょ?」と畳み掛けられて。
うーーー。確かにおっしゃるとおりです。
私はいつもの癖で普通に朝食を食べてしまった今朝の自分を呪わしく思う。
何より!
パンケーキ屋さんに直行しなかったら温和たち?と出会えないかも知れないじゃない。
それって、まずいんじゃ……?
「街中をぶらぶらするのもいいし、あてもなくドライブっていうのも捨てがたいかなー。ね? 音芽ちゃん」
鶴見先生がルンルンでハンドルを握っているのを横目に、私は不安で一杯になりながら窓外に視線を転じる。
もしかしたら、どこかで温和が見ていてくれるんじゃないかと期待して。
でもそれらしき人影はなくて。
私は無意識に携帯の入った鞄をギュッと抱きしめる。
「音芽ちゃん、聞いてる?」
返事をしなかったからだろう。鶴見先生が言いながら私の肩にそっと触れてきて。いきなりのことに、思わず肩がビクッと跳ねる。
「あ、ご、ごめんなさいっ。何だか男の人とこういうの、慣れてなくて……」
過剰反応してしまったみたいで恥ずかしくて、取り繕うようにそう言ったら、「わー、それ本当? すっごい嬉しいんだけど」と予想外の反応が返ってきた。
「え?」
思わずそう呟いて鶴見先生の方を見たら、
「だって僕、今、音芽ちゃんの初体験もらってるってことでしょう?」
嬉しそうに笑顔を返された。
私はそれを見て胸の奥がチクリと痛んで。
「あの、つる……た、大我さん、どうして私を誘ってくれたんですか?」
逢地先生を誘って、とかなら分かる気がする。彼女は美人だし、スタイルもいい。私とは対極にいらっしゃるようなモテ女だと思うから。
私はどう贔屓目に見ても童顔だし、背も低くてガサツなチンチクリンだ。
温和にさんざんバカにされてきたのも仕方ないと思える程度には、身の程をわきまえているつもり。
「え? 今更それ聞く? 僕、ちゃんと言ったよね?」
前に音芽ちゃんを家まで送って行って抱きしめた時に――。
言われて、私はギクッとする。
そう言えばあの時、耳元で鶴見先生、何か言ってた。でも私、パニックで内容が頭に入ってこなかったんだ。
「おはようございます、音芽さん。鍵、かかってないので開けて乗り込んでもらってもいいですか?」
言われて、私は「あ、はい」と答えてモタモタとドアに手を伸ばす。
セルフで助手席に乗り込みながら、温和だったら一旦降りてきてドア、開けてくれるんだけどな、とか思ってしまった。
あー、ダメダメ。そんなこと考えたら、鶴見先生に失礼だ。
「おはようございます。今日はお世話になります」
自分でも笑ってしまうぐらいぎこちない挨拶になってしまった。
「もしかして音芽ちゃん、緊張してる?」
私が助手席に乗り込んだ途端、さんがちゃんになったことに気がついて、私は思わず鶴見先生を窺い見てしまった。
「ダメかな? ちゃん呼び。その方が何だか視密度が増すかなって思ったんだけど」
ついでに敬語も飛ばしちゃおうという腹づもりかしら。
私は「あ、大丈夫です」と、努めて他人行儀に返しながら、気持ちがざわつくのを抑えられなくて。
「パンケーキはお昼ご飯にするとして……少し時間があるよね。どこか行きたいところある?」
聞かれて、私は驚いてしまう。
てっきり即行でパンケーキ屋さんに行って、食べたら解散、だと思っていたんだけど……。
「えっと、あの……すぐにパンケーキ屋さんに行くんじゃ、ないんですか?」
恐る恐る聞いたら「ん? 音芽ちゃん、朝ご飯食べてないの?」と聞かれて。
いや、朝はしっかり食べてきた。
私がふるふると首を横に振ると「だったらまだお腹にゆとりないでしょ?」と畳み掛けられて。
うーーー。確かにおっしゃるとおりです。
私はいつもの癖で普通に朝食を食べてしまった今朝の自分を呪わしく思う。
何より!
パンケーキ屋さんに直行しなかったら温和たち?と出会えないかも知れないじゃない。
それって、まずいんじゃ……?
「街中をぶらぶらするのもいいし、あてもなくドライブっていうのも捨てがたいかなー。ね? 音芽ちゃん」
鶴見先生がルンルンでハンドルを握っているのを横目に、私は不安で一杯になりながら窓外に視線を転じる。
もしかしたら、どこかで温和が見ていてくれるんじゃないかと期待して。
でもそれらしき人影はなくて。
私は無意識に携帯の入った鞄をギュッと抱きしめる。
「音芽ちゃん、聞いてる?」
返事をしなかったからだろう。鶴見先生が言いながら私の肩にそっと触れてきて。いきなりのことに、思わず肩がビクッと跳ねる。
「あ、ご、ごめんなさいっ。何だか男の人とこういうの、慣れてなくて……」
過剰反応してしまったみたいで恥ずかしくて、取り繕うようにそう言ったら、「わー、それ本当? すっごい嬉しいんだけど」と予想外の反応が返ってきた。
「え?」
思わずそう呟いて鶴見先生の方を見たら、
「だって僕、今、音芽ちゃんの初体験もらってるってことでしょう?」
嬉しそうに笑顔を返された。
私はそれを見て胸の奥がチクリと痛んで。
「あの、つる……た、大我さん、どうして私を誘ってくれたんですか?」
逢地先生を誘って、とかなら分かる気がする。彼女は美人だし、スタイルもいい。私とは対極にいらっしゃるようなモテ女だと思うから。
私はどう贔屓目に見ても童顔だし、背も低くてガサツなチンチクリンだ。
温和にさんざんバカにされてきたのも仕方ないと思える程度には、身の程をわきまえているつもり。
「え? 今更それ聞く? 僕、ちゃんと言ったよね?」
前に音芽ちゃんを家まで送って行って抱きしめた時に――。
言われて、私はギクッとする。
そう言えばあの時、耳元で鶴見先生、何か言ってた。でも私、パニックで内容が頭に入ってこなかったんだ。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる