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甘いお誘い

霧島先生にもしてらしたじゃないですか

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「お待たせしました」
 温和はるまさに、LINEで鶴見つるみ先生に送っていただくことになった旨のメッセージを入れると、私はスマホをバッグに仕舞った。
 それからそれを肩に提げて、――後悔する。

( 荷物、リュックに入れて来ればよかったぁー)

 持ち手が長めの帆布ハンプ製のショルダーバッグ。今朝は温和はるまさが持ってくれていたからこんなに歩くのに邪魔だとは思わなかった。
 物伝いに歩くたびに肩に掛けた鞄が前に踊り出てきて、本当に邪魔で。
 私は荷物をエイッ!と放り投げたくなる衝動を必死に堪えながら、鶴見先生のほうを目指す。
「あ、荷物、持ちますよ」
 言われて肩から厄介な重みがふっとなくなった瞬間、口では「でも悪いですっ」と言いながらも、内心ホッとしたことは否めない。

 そんな私に、朝は断られましたけど――、と前置きをしてから、鶴見先生が私をじっと見つめていらして。
 おもむろに「僕の腕に掴まってください」とおっしゃった。

 あ、でも……でも……。それはやっぱり恋人みたいに見えそうで困る……。

 そんなことを思って、思わず立ち止まって逡巡していたら「ほら、朝、霧島きりしま先生にもしてらしたじゃないですか。僕でも一緒のことですよ? さあ遠慮しない!」と畳み掛けられてしまった。

 うー。でもね、鶴見先生。貴方に話したかどうかは覚えていませんけれども……温和はるまさは幼い頃から一緒に育った兄みたいな存在なので……やっぱり他の異性とは違うんです。
 それに……それにっ。私、あの意地悪な温和はるまさの事が悲しいくらい大好きなので……あわよくば恋人に見られたいとか思っていたりもしてまして……ごにょごにょ。

 つ、つまりは……温和はるまさだけはっ、他の皆さんと同じラインでは語れないのよっ。

 心の中でそんな言い訳をあれこれ連ねて、一向に動こうとしない私にごうを煮やしたらしい鶴見先生が、「鳥飼とりかい先生、さっき話してくれた甘えん坊の末っ子気質はどこに行きました!? ほら、どうぞ」と強制的に彼の腕に手を回す格好にされてしまった。

 絡められてしまったものを振り解くのはさすがに大人気なく思えてしまって――。「では……お言葉に甘えて……」と小さくつぶやくと、私は鶴見先生に支えになってもらって歩き出す。

「お先に失礼します」
 職員室に残っていらっしゃる他の教職員の皆さんへ会釈をして、二人三脚のような歩みで廊下へ出た。

 温和はるまさの時には感じなかった歩きにくさがあるのは何故だろう。歩くテンポが微妙に合わないから? それとも私の、相手に頼りたいと言う気持ちの差――?
 ギクシャクとした足取りでどうにかこうにか歩を進めながら、職員用の下駄箱がある通用口をくぐり抜ける。……と同時に鶴見先生が「あ……」と小さくつぶやいて立ち止まられて。

 私は彼に腕を引かれる形でよろめいた。

「鶴見、先生?」
 何事だろう、と彼の身体を避けるようにヒョコッと顔を覗けてみて――。

 私は息を飲んで身動きできなくなってしまった。
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