【完結】【R18】オトメは温和に愛されたい

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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初めてだったのに

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「お兄ちゃん……じゃ……ダメ、なの?」

 私、転びそうになったドキドキで、身体が小刻みに震えている。
 力が入らなくて自分の足でしっかり踏ん張れないから、どうしても温和はるまさに身体を預けたままになっていて。
 それでもどうしてもその言葉だけは聞き返したくて。

 私は恐る恐る、彼の腕の中で身じろぐようにして背後の温和はるまさを振り返った。

「ねぇ、ハルに……、っ」
 ハルにい?という呼びかけは半ばで強引にはばまれた。

 え? ちょ、ちょっと待ってっ! わ、私、今、温和はるまさに……っ!?

***

 温和はるまさの落とす影が自分から遠ざかって、やっと……。

 私は、彼に唇を塞がれたんだ、と認識した。

 温和はるまさの手が緩んだのでよろめくように彼から一歩離れて
「えっ、あ、あのっ……今の……っ」
 無意識に唇に手を触れて、温和はるまさを見つめながら言葉をつむごうとしたら――。

「ザマァ見ろ」
 と舌を出された。

 えっ? ――どういう、意味……?


 戸惑う私に、温和はるまさが続ける。

「俺は出来の悪いお前の兄貴でいるのはうんざりなんだよ。いい加減分かれ、バカ音芽おとめ。今度ハルにいって呼んだら、もっと酷い目に遭わせてやるからな? ――覚悟しとけ」
 とか……。

 酷いよ、温和はるまさ
 私、今のファーストキスだったん、だよ?
 なのに……腹いせ、だった、の?

 そう思ったら悲しくて切なくて。
 目の前が、じんわり涙で滲んでくるのを感じた。

「は、温和はるまさの、バカッ……! 私、初めて……だった、のにっ」

 キッと温和はるまさを睨みつけてそう言ったら、瞬間、堪えきれなくなった涙がポトリと床に染みを作った。

 温和はるまさの前で泣いちゃうとか……悔しすぎるよ。

***

「おと、め……?」
 温和はるまさが私の涙に気付いてうろたえたのが分かったけれど、知らないっ。

 私は温和はるまさに背中を向けると、「帰るっ」と吐き捨てるようにつぶやいて、ヨロヨロと歩き出した。

 その頃には、大好きな人からのキスを素直に喜べないことが、もうただただ悲しくて……情けなくて……。

 足が痛くなかったら、走ってこの場を立ち去りたいくらいなのに、怪我のせいばかりじゃない気怠さで、足が鉛のように重かった……。

 それでも自分を鼓舞して一生懸命歩く私を、温和はるまさが手を引っ張って止める。

「待てよ、音芽おとめっ」

「離、して……!」
 掴まれた手首が痛い。

「泣いてるの知ってて、そのまま帰せねぇだろ」

 何なのよ。
 酷いことをして泣かせたのは温和はるまさじゃない。
 なのに何で帰せないとか、言うの?

 意味、分かんない……。

温和はるまさのそばにいるの……、しんどいの。……分かん、ない?」

 ここまで言えば離してくれるでしょ?

 そもそも温和はるまさは私がそばにいるの、嫌がってたんだもん。
 願ったり叶ったりじゃない。
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