【R18/完結】勇者の盾は魔力供給を拒めない

香山

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第11話 暴走

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「暴走が始まったんだ!」
「どうして、こんなタイミングで……!」

 イラと優斗が焦燥の声を上げる。エデュアルドは皆を守るように前に出て武器を構えた。

「ベル」

 動揺するエデュアルド達を気にも留めず、綾斗は落ち着いた声で赤竜を呼び寄せた。赤竜は光を纏うと、身の丈ほどの長さの大剣に姿を変えた。

「これで切り裂いてあげる」

 綾斗は地を蹴ると、赤黒く光る刀身を閃かせながら凄まじい速度で斬りかかってきた。

「とりあえず魔力を使わせよう! 肉体強化・盾エンチャント・ステータス!」
「了解!」
「承知した。聖防御壁ホーリーシールド!」

 優斗の指示を受け、それぞれが戦闘態勢に入る。エデュアルドの張った聖防御壁ホーリーシールド越しに、綾斗の攻撃がぶつかった。

「ぐっ、」

 切っ先こそ届いてはいないが圧倒的な力にじりじりと後退していく。エデュアルドは、負けじと足に力を入れ押し返した。

「チッ」

 このままでは埒が明かないと判断したのか、綾斗は小さく舌打ちをしてエデュアルドと距離をとると、右手を高く掲げた。

「焼き尽くせ! 黒焔弾ブラック・フレア!」

 綾斗が叫ぶと同時に、空に浮かんだ黒い炎が次々と飛んでくる。

「ボクたちが相殺するよ!」
「ええ!」
「「飛電流星ブリンク・シューティングスター!!」」

 イラとフォリオが同時に呪文を唱えると、二人の頭上に無数の魔法陣が現れる。そこから光の矢が降り注いで、綾斗が放った黒焔を次々と撃ち落とした。

「なかなかやるね」

 感心したような声を上げながら、綾斗は再び大剣を振りかぶってエデュアルドに向かって突進してきた。

「エディ! 武器強化・盾エンチャント・ウェポン!」
「っ!」

 振り下ろされた刃を、優斗の魔力を纏った剣で受け止める。しかし、勢いを殺しきれずに後ろへ吹き飛ばされた。

「止めだよ。闇衝撃ダークネス・――」

 エデュアルドに向けた綾斗の右手が濃密な瘴気を纏う。それが放たれようとした瞬間、綾斗の背後から光の束が伸びて来た。

「間に合ってよかった」
「ベルトラン!!」

 ベルトランが放った光の束は細く枝分かれしながら鳥籠のように綾斗の体を包み込んだ。

「――ベル?」

 綾斗の瞳の闇が揺らぐ。手から滑り落ちた大剣は床に転がる直前に小さな赤竜に姿を変えた。

「ぁ……僕、は……?」

 綾斗が頭を抑える。ぐらりと揺れた体をベルトランが抱き留めた。

「兄さん! 聞こえるか!?」
「ゆう、と……」

 駆け寄ってきた優斗の手を握り、綾斗は苦しそうに息を吐いた。

「は、やく……殺して……僕が僕じゃなくなる前に……」
「アヤト殿」

 ベルトランが懐から短剣を取り出す。旅の中で何度も見たそれは今まで以上に光り輝いて見えた。

「あなたにとっては残酷かもしれないけれど、俺はあなたに生きてもらいたい。願わくばあなたと共に生きたい。だから」

 そこで一旦言葉を切ると、ベルトランは躊躇いもなくその切先を魔王の核へ突き立てた。

「ぅ、あ……」
「これは俺のエゴだ。恨むなら俺を恨んでくれ」

 短剣を通し、ベルトランの魔力が凄まじい勢いで流れていくのを感じる。それに抗おうとするかのように、魔王の核から黒い魔力が溢れ出した。

「ぐっ……!」
「ベルトラン!」
「大丈夫だ」

 ベルトランは額に汗を浮かべながら必死に魔力を流し続ける。エデュアルドはただ見守る事しかできなかった。
 不意に、核から溢れる魔力が強まる。それを抑えつけようとベルトランが魔力を強めたその時、ピシリと音を立てて短剣にひびが入った。

「くそ! あと少しなのに……」

 ベルトランの汗が綾斗の頬に滴り落ちる。それに気付いたのか、うっすらと目を開いた綾斗は弱々しくベルトランの手を握った。

「もういいよ……これ以上やったら、君まで飲み込まれてしまう」
「最後まで諦めない! 君を助ける!」

 ベルトランの決意に呼応する様に短剣が光り輝く。同時にこれまで大人しくしていた赤竜がひと鳴きすると、ひび割れた刀身に巻きついた。

「短剣が……」

 光が収まった時、そこにあったのは竜の意匠がついた真新しい短剣だった。

「これならいける!」

 ベルトランがさらに魔力を強める。黒い魔力は徐々に弱まり、やがて完全に消滅した。
 短剣を引き抜くと魔王の核は粉々に砕ける。糸が切れたかの様に気を失った綾斗をベルトランは力強く抱きしめていた。



 魔王の核だった破片は今や小さな塊をひとつ残すのみとなった。

「ユート、封印を」
「ああ。魔核封印シール・マギーア

 膝立ちになり祈りの仕草をした優斗の詠唱と共に、エデュアルドの右腕の紋様が熱く熱を孕んだ。そこから流れ出た魔力は優斗の体を通し光の粒に変換されていく。それはゆっくりと形を変えながら核を取り込み、やがてエデュアルドの腰ほどまでの高さの石碑になった。

「……終わったよ。これで」

 優斗がゆっくりと目を開ける。真っ直ぐなそのまなざしはエデュアルドと視線が絡むと途端に柔らかく細められた。

「帰ろう、エディ」

 優斗が立ち上がろうと足を動かす。しかし上手く力が入らなかったのか、そのまま前のめりに倒れた。

「うわっ!」
「ユート!」

 咄嗟に優斗が目の前の石碑につかまると、足元に巨大な魔法陣が現れた。そこから光の渦が生まれ瞬く間に辺りを飲み込んでいく。

「な、なんだ!?」
「この陣の形、転移魔法だよ!」

 エデュアルドは咄嗟に優斗を抱き寄せる。イラの叫び声が聞こえると同時に視界が白く染まり、次の瞬間には目の前に見慣れた景色が広がっていた。

「――戻ってきた……」
「何ともまあ、サービスの良い……」

 フォリオの少し呆れたような声に緊張が解ける。そこには朝出発したばかりの、辺境の砦がそびえ立っていた。

「あっ!」

 大きな声にイラの方を向くと、彼は自分の下履きを寛げ、下腹部を凝視していた。

「何です、イラ。こんな所で」
「見てよほら! 紋様が消えてる!」

 イラが示したそこにはただ滑らかな白い肌が見えるだけだった。エデュアルドも慌てて右の袖をめくる。

「――本当だ」

 そこに確かにあった勇者の盾の証は、跡形もなく消え去っていた。
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