【R18/完結】勇者の盾は魔力供給を拒めない

香山

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第2話 勇者と勇者の盾 後編

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 勇者の盾は神託により選ばれると言われているが、実際はその証として体のどこかに紋様が浮かび上がる。最初は痣のような見た目のそれは勇者に近付くことで鮮明なものへ変わり、紋様の完成によって勇者と盾の間に経路パスが出来る。

「で、昨日エデュはユートとセックスしたと思うのだけれど」
「セッ…………ゴホン。そ、そうだな」

 当然のことのように言われた言葉に過剰に反応してしまい、エデュアルドは慌てて取り繕った。しかしその仮面は、次のベルトランの言葉によってあっさりと外されてしまった。

「その時に受け取った魔力は戦いで消費する。つまり、定期的にユートとセックスして魔力を補充しないといけないんだ」
「なっ……」

 思い出すだけでも恥ずかしいあのような行為を繰り返さないとならないなんて。
 羞恥心と共に昨晩の快感が呼び起こされる。体が勝手にキュンと疼いて、エデュアルドは更に赤面した。

「いかにも事後ですって姿、使用人相手と言えども見られたくないだろう? だから第三者は置かないようにしているんだよ」
「それに他人が居ないなら寝室以外でこともできるし!」
「いや、する時は寝室でしろよ……」
「ふふ、寝室まで移動する余裕がない時もあるかもしれませんよ?」
「フォリオまで!?」

 次々と飛び交う破廉恥な会話に、エデュアルドはめまいを起こしそうだった。

「……話を戻そう。昨日身をもって分かったと思うけれど、勇者の魔力を受け取るのに一番効率が良い方法がセックスなんだ」

 はしゃぐ3人を無視して、ベルトランは話を続けた。

「ここまでの道中も魔物を討伐しながら色々試してみたのだけれど、魔法の強さに応じて減る魔力は大きくなる。もし魔王との戦いで魔力切れを起こしそうになったら……戦いの最中にセックスする必要があるかもね」
「そんなっ……戦いの間にそんな事する余裕は無いだろう!」

 赤面しながら声を荒げるエデュアルドをからかう様に目を細めると、ベルトランは声を落として囁いた。

「魔力切れを起こしかけた時は身体が発情状態になるんだ。昨日のエデュみたいに、ね」

 エデュアルドは顔をリンゴのように赤く染め、何も言い返せないまま俯いた。便乗して揶揄うイラの声も窘めるフォリオの声も、エデュアルドの耳に入らなかった。

「……ま、そんな事が無くてもいいように魔力量には各自気を付けておかないとね。ただ、全く魔法を使わないって訳にもいかないだろうから、最低でも10日に1回くらいはセックスする必要があるようなんだ」
「勿論、毎日してもいいけどねっ」
「駄目ですよ。それではユートの負担が大きすぎます」
「そう。だから俺たちは話し合ってなるべく間隔をあけてことにしているんだ。エデュで盾が4人揃ったから、特に不都合がない限りユートには2日おきに俺たちの誰かとセックスしてもらうのが良いんじゃないかと思うのだけれど、どうかな?」

 エデュアルドは自信を叱咤した。これは魔王討伐の成否にもかかわる、真剣な話なのだ。努めて冷静に思考をめぐらす。
 成程。確かに盾にとっては適度な間隔でも、ユートは一人だ。連日行為が続けば負担は大きいだろう。

「……私はあまり詳しくないからな。上手くいくのならそれで良い」
「じゃあしばらくはそんな感じでやってみようか」
「なら明日はボクの番だね。楽しみだな~! いーっぱい出してね!」
「はは……お手柔らかに頼むよ」

 イラが隣に座る優斗に無邪気に抱き着く。じゃれ合う二人の姿に、エデュアルドの胸にもやっとした感情が広がった。



 4人と打ち解けるのは早かった。有名人である盾の3人は個性的だがエデュアルドに優しかったし、優斗は改めて話せばやや軽いところはあるがどこか憎めない好青年だった。異世界人でありながら本気でこの世界を救おうという意志を持っており、エデュアルドも改めて自分の使命を受け止めた。
 盾が揃ったということで、さっそく明日から魔王の討伐に行くことになった。エデュアルドの武器も防具もこの砦に置いてあるので準備はすぐに終わった。
 明日は朝早くに出発だからと皆で早めの夕食をとり、それぞれの部屋へ向かった。
 エデュアルドも湯浴みを終えると夜着に着替えてベッドに横たわった。

「……眠れないな」

 シーツの感触が、ベッドのきしむ音が、昨晩の出来事を鮮明に浮かび上がらせてくる。
 エデュアルドは諦めてソファに移動し、そこで寝ることにした。

「勇者の盾、か……」

 右腕の紋様にそっと手を当てると、そこを起点として優斗の魔力が体内を巡っていることがはっきりわかる。それでもエデュアルドにとっては、他の3人とは名声も知名度も外見も劣る自分が勇者の盾だという事実が信じられなかった。
 エデュアルドが盾である以上、優斗と性行為する必要がある。魔王を討伐するための義務のようなものだ。
 昨日の行為は、エデュアルドにとって嫌なものではなかった。しかし、優斗にとってはどうだろうか。

「私のような男を抱かねばならんのは大変だろうな……」

 エデュアルドはベルトランに貸してもらった、過去の勇者と勇者の盾について書かれた本の内容を思い出した。
 勇者はこの世界と異なり、男の他に『女』という種類の人族がいる世界から召喚される。その世界では男は女と番うことが多く、男同士の性行為は一般的でないそうだ。
過去の勇者の中には男と性行為をするのに抵抗がある者もおり、口淫により魔力の受け渡しをした時もあったと書いてあった。抱いてもらえただけまだマシか。

 ベルトランの美しさやイラの愛らしさ、フォリオのたおやかさの様な長所が自分にもあったら。
 エデュアルド自身、幼い頃はそれなりに可愛いと言われた事はあった。しかし、歳をとるごとにそう言われる事は減り、学園に入学する頃にはむしろ遠巻きに見られる様になってしまった。
 事実、現在の自分は可愛さからは程遠いものであると、エデュアルドは自負していた。
 背ばかり伸びる割に筋肉はあまり付かない棒のような体格に、きつい印象を与える顔立ち。性格面でも他人となかなか打ち解けられず、ついそっけない態度を取ってしまう。学園でも話しかけてくれる人は何人かいたが、皆2、3度話すともう話しかけてこなくなってしまった。
 加えて、閨事の技術にも乏しい。何もかも昨日が初めてだったのだから。
 ともあれ、魔王討伐を果たす為だ。いくら嫌でも誠実な優斗は義務感から抱いてくれるだろう。
 それは、少し、寂しい。
 沈む意識の片隅で胸の痛みを感じながら、エデュアルドは眠りに落ちた。
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