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プロローグ
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魔王が目覚めた。そのニュースは瞬く間に王国全土を駆け巡った。早馬を受けたエデュアルドは領地の端にある監視塔から魔界を眺めていた。辺境の地であるここ、オルタンシア領は人界と魔界の境界にある。この先は魔物の闊歩する領域だ。
先月ごろから魔獣や魔物の動きが活発になっていることは、この地でも話題になっていた。その頃から深くなりつつあった魔界の闇は、今や魔界の中央に高くそびえる魔界岳を完全に覆い隠してしまっている。
「魔王、か……」
エデュアルドはそう独り言ちると、無意識に右の腕を摩った。
過去の文献によると、魔王は200年から300年周期で現れる。『魔王の核』と呼ばれる高純度の魔石を体内に宿すそれは、核の器としての限界を迎えると暴走を始め、周囲に甚大な被害を及ぼすと言う。
それはさながら自然災害のようなものだ。しかし、嵐は時が過ぎれば去るのに対し、魔王は討伐しなければいなくならない。
単純な力勝負なら、圧倒的に魔王に利がある。人族は知恵や技術で対抗していたが、魔王発生の度に多くの犠牲者が生じていた。
そこで、歴代の王たちは考えた。どうすれば魔王を倒すことができるのか?そのカギになる存在が、異世界からの訪問者だった。
最初は偶然この世界に流れ着いたただの青年だったが、彼は仲間とともに当時の魔王を見事打ち倒し、核を封印した。そして、平和を取り戻した世界で仲間たちと一緒に幸せに暮らしたという―――そんな伝説が残っている。
それはあまりに昔の事で本当の出来事なのか定かではないが、それ以来魔王が目覚める度に勇者を召喚し続けている。
勇者自身に戦闘能力は無い。しかし特殊な魔力を持ち、その魔力で神託によって選ばれた4人の戦士に加護スキルを与えて、さらにその能力を飛躍的に向上させることが出来る。『勇者の盾』と呼ばれる4人の戦士と共に魔王の討伐を行うのだ。
魔王討伐後、勇者には多大な報酬が約束されている。貴族位を賜り、この世界に定住した者もいたらしいが、大抵の場合は大量の金や宝石を手に元の世界に帰って行くそうだ。
王都からの知らせによれば、魔王の目覚めと時を同じくして異世界から勇者が降臨したらしい。魔王の住む魔界岳へは人界ではオルタンシア領が一番近い。勇者たちはここを前線基地として討伐に向かうのだ。
小さいころから寝物語に聞いた勇者の伝説は、幼いエデュアルドにとって憧れの存在だった。いつか自分も勇者の盾となり、世界を救いたいと夢見ていた時期もあったほどだ。そんな勇者に会えるとあって、エデュアルドの心はにわかに躍っていた。
どんな人物なのだろうか。きっと物語の中にあるような、素晴らしい人格の持ち主だろう。
「エデュアルド団長! 王都からの一報は受け取られましたか?」
駆け込んできた副団長を見て、エデュアルドは緩みかけた表情を引き締めた。
「ああ。魔王の誕生と勇者の召喚がなされたようだ」
そう答えながら、エデュアルドは右腕をもう一度摩った。訓練のしすぎだろうか。数日前から利き手である右腕に痣のようなものが浮かんでいる。それが時折こうして熱を持ったように疼くのだ。大事な時だというのに、間が悪い。
「忙しくなるな。勇者御一行を受け入れる準備をせねば」
エデュアルドはマントを羽織ると、副団長と共に騎士団の訓練場へ向かった。
先月ごろから魔獣や魔物の動きが活発になっていることは、この地でも話題になっていた。その頃から深くなりつつあった魔界の闇は、今や魔界の中央に高くそびえる魔界岳を完全に覆い隠してしまっている。
「魔王、か……」
エデュアルドはそう独り言ちると、無意識に右の腕を摩った。
過去の文献によると、魔王は200年から300年周期で現れる。『魔王の核』と呼ばれる高純度の魔石を体内に宿すそれは、核の器としての限界を迎えると暴走を始め、周囲に甚大な被害を及ぼすと言う。
それはさながら自然災害のようなものだ。しかし、嵐は時が過ぎれば去るのに対し、魔王は討伐しなければいなくならない。
単純な力勝負なら、圧倒的に魔王に利がある。人族は知恵や技術で対抗していたが、魔王発生の度に多くの犠牲者が生じていた。
そこで、歴代の王たちは考えた。どうすれば魔王を倒すことができるのか?そのカギになる存在が、異世界からの訪問者だった。
最初は偶然この世界に流れ着いたただの青年だったが、彼は仲間とともに当時の魔王を見事打ち倒し、核を封印した。そして、平和を取り戻した世界で仲間たちと一緒に幸せに暮らしたという―――そんな伝説が残っている。
それはあまりに昔の事で本当の出来事なのか定かではないが、それ以来魔王が目覚める度に勇者を召喚し続けている。
勇者自身に戦闘能力は無い。しかし特殊な魔力を持ち、その魔力で神託によって選ばれた4人の戦士に加護スキルを与えて、さらにその能力を飛躍的に向上させることが出来る。『勇者の盾』と呼ばれる4人の戦士と共に魔王の討伐を行うのだ。
魔王討伐後、勇者には多大な報酬が約束されている。貴族位を賜り、この世界に定住した者もいたらしいが、大抵の場合は大量の金や宝石を手に元の世界に帰って行くそうだ。
王都からの知らせによれば、魔王の目覚めと時を同じくして異世界から勇者が降臨したらしい。魔王の住む魔界岳へは人界ではオルタンシア領が一番近い。勇者たちはここを前線基地として討伐に向かうのだ。
小さいころから寝物語に聞いた勇者の伝説は、幼いエデュアルドにとって憧れの存在だった。いつか自分も勇者の盾となり、世界を救いたいと夢見ていた時期もあったほどだ。そんな勇者に会えるとあって、エデュアルドの心はにわかに躍っていた。
どんな人物なのだろうか。きっと物語の中にあるような、素晴らしい人格の持ち主だろう。
「エデュアルド団長! 王都からの一報は受け取られましたか?」
駆け込んできた副団長を見て、エデュアルドは緩みかけた表情を引き締めた。
「ああ。魔王の誕生と勇者の召喚がなされたようだ」
そう答えながら、エデュアルドは右腕をもう一度摩った。訓練のしすぎだろうか。数日前から利き手である右腕に痣のようなものが浮かんでいる。それが時折こうして熱を持ったように疼くのだ。大事な時だというのに、間が悪い。
「忙しくなるな。勇者御一行を受け入れる準備をせねば」
エデュアルドはマントを羽織ると、副団長と共に騎士団の訓練場へ向かった。
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