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【最終話】決戦、そして

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勇者の決めた作戦通りに、俺たちは魔王城へ攻め入った。
宰相と総帥はやはり強く、闘う過程でひとり、またひとりと仲間が脱落していった。
今この場で魔王と対峙しているのは俺と勇者と勇者見習いの少年の3人だけだった。

「ユーリ、カナタ、行こう」

勇者の言葉に頷き、俺たちは魔王がいるであろう玉座の間の扉を開いた。

「よく来たな」
義父ちち上……」

思わず口の中で呟いた。
既に魔王城のほとんどは制圧されたのに、魔王は意に介さないように王座に座っていた。
その余裕ぶりに違和感を抱く。
強いとはいえ味方のいない状態で、どう抗うつもりなのか。

魔王は俺に目を向けると、声高に話しかけてきた。

「ユリウス……いや、抜け殻か?まあどちらでも良い。其処な魔族よ、《我の手足となり勇者を攻撃せよ》」

「ぅ…あ……」
「っ!ユーリ!」
「来るな!」

体に電流が流れたような痛みを感じて、思わずうずくまった。
駆け寄ろうとする勇者を制する。
俺の魔力が、勇者を攻撃せよと騒いでいる。
本能的にわかった。これは魔王だけが使えると噂される、魔族を意のままに操る魔術だ。
多くの魔族を同時に操り、当人の意思を書き換え、自死させる事さえ可能だという強力な魔術——
そんなものは、もはや魔術ではなく神の領域だ。ある筈がない。伝説上のものだと思っていた。
魔王はこの力を利用して魔族たちを統治してきたのだろうか。
思い起こせば義父ちちに反抗していた魔族が数日後コロリと態度を変えた事が無かったか?
幼い頃の私に、人間の魅力を説いた魔族は宰相ではなかっただろうか?

それでも本来ならとても耐えきれないであろう衝動を、俺は抑えつけることができていた。
それは俺の中にあるもう一つの魔力のおかげだった。
今にも飛び掛からんとする俺の魔力を優しく抱きしめるような温かい魔力。
この魔力は。

「何故言う事を聞かぬ!《勇者を攻撃するのだ》!」

魔王は声を荒げて叫ぶと、再び魔術を使ってきた。
でも大丈夫た。
今度ははっきりと、勇者の魔力を感じた。
勇者の魔力が薄い膜となり俺の魔力を抑えこんでくれている。

「すまない。俺は大丈夫だ。だが、魔力は殆ど使えない」
「ユーリが無事なら良かった。戦いは俺に任せて」

せめてもの思いで勇者に支援魔術バフをかける。

「魔王は核を破壊しない限りすぐに復活する。どうか気をつけて」
「ありがとう。勝ってくるよ。カナタと待ってて」



攻撃する気配のない俺に舌打ちすると、魔王はその手に魔力を集め、剣のような形を作り、掲げた。

「もう良い。我が直接引導を渡してやろう」

勇者が俺たちを隠すように一歩前に出る。

「一応聞くけど、このまま素直に瘴気を消してくれるのなら命は取らないよ」
「ハッ。愚問だな。我を従わせたければ力で押し通してみよ」
「分かった」

短い問答を皮切りに、二つの力が衝突した。
俺は戦いの邪魔にならないよう、少年を連れて部屋の隅へ避難した。

「凄いですね……」
「そうだな」

少年が張ったシールドの内側から戦いを見る。
勇者は魔王の攻撃を紙一重で躱すと、素早く翻して聖剣を振るった。
魔王はそれを軽く受け止め、そのまま吹き飛ばす。
勇者は空中で体制を立て直すと、壁を蹴り再び魔王へ斬りかかる——
目まぐるしく動く二つの影を視線で追いながら、怪我がないよう祈ることしか出来ない。
魔力が万全なら俺も役に立てたのにと唇を噛んだ。

互角に見えた戦いは、時間が経つにつれ優劣がはっきりしてきた。
その体の大きさゆえ攻撃を全て受け止めざるを得なかった魔王は、その巨大な装甲を剥がされつつあった。
対する勇者はこれまでほぼ全ての攻撃を避け切っており、無傷に近い。
徐々に魔王の動きが鈍っていく。

「くっ、小癪な……」

足を破壊し魔王の体が大きく傾いたその時。

「とどめだ!セイクリッドソード!」

光を纏った聖剣が、魔王の体を貫いた。

「お前も道連れにしてやる」
「嫌だね」

振りかぶった魔王の手をひらりと躱し、そのままの勢いで斬りつけた。

ボロボロと魔王の体が崩れていく。
その中央にあった核が剥き出しになった。

「ウィル!核の破壊を!」

俺の声に頷くと、勇者は聖剣に一層の魔力を込めて核へと突き刺すと、ガキン、と大きな音を立てて魔王の核は破壊された。
刹那、俺に掛かっていた魔術が解けて魔力が自由になる。
俺は勇者に駆け寄ろうとした。

「危ないっ!」

突然魔王の核の残滓から強い魔力の放出を感じると、勇者が立っているあたりの床に大きくヒビが入り、ガラガラと崩れ落ちた。
その衝撃で勇者の手から離れた聖剣が、まるで意思を持ったかのように俺たちの足元に転がってきた。

勇者が穴に落ちると同時に勇者と俺たちの間に透明な魔力障壁が現れた。
王座があるこの部屋を守るためのものなのだろうそれにより、この部屋は床の穴以外傷ついていない。
しかし勇者のいる下の階は、かなり崩落が進んでいた。
勇者はこちらを見上げると、少年に叫んだ。

「カナタ!瘴気を生み出す魔法陣はこの城の最上階にある!聖剣で破壊してくれ!」
「分かりました!でも勇者様は——」
「俺が助ける!」

魔力を編んで、巨大な槍を作り上げると、障壁へ突き刺した。
バチバチと魔力が弾けるが、魔力障壁はびくともしない。
床に跪き階下を見る。
勇者の近くの壁が崩落して、肝が冷えた。
一刻も早く助けなくては。

「ユーリ、君は城の最上階までカナタを連れて行か

勇者がそう望んでいる。望みを叶えなくては。
いや、駄目だ。このままだと勇者は……

「嫌だ!ウィルを置いては行けない!」

心からそう思っている筈なのに、頭のどこかで最上階に行かなくてはと強く思った。
ふらふらと立ち上がる。
今度は大きな柱が崩れた。崩落のペースが早い。

「ユーリは何としても生き残ら。俺の契約者なんだから」
「いやだ、ウィル、ウィルがいない世界なんて……」

気付けば涙が溢れていた。
このまま勇者を見捨てる事になると、本能で理解していたのだろう。
実際に言葉とは裏腹に体は立ち去ろうと後ずさっていた。
崩れゆく瓦礫の中で、勇者は場にそぐわぬ優しい笑みを浮かべていた。

「生きて幸せになってね、ユーリ」

勇者の言葉を背に、少年を連れて走り出していた。



俺は走りながら必死に考えた。
あの障壁は瘴気の持つ魔力を使っている。
城が完全に崩落する前に魔法陣を破壊し、瘴気を止める。
それしか方法が無い。
右手の紋様からは勇者の魔力を感じる。
まだ勇者は生きている。急がなくては。
最上階へ続く最後の階段を駆け上がる。
上に近付くにつれ、瘴気が濃くなっていく。
魔族である俺はある程度瘴気に耐性があるが、人間である少年には辛いだろう。

「うっ…」

小さく呻いて、少年は膝から崩れ落ちた。

「体にシールドを貼れ。多少は楽になる」

聖魔術で出来たシールドは瘴気の影響を減らす事ができるだろう。
俺のアドバイス通りシールドを貼ると、多少楽になったようで立ち上がり、再び階段を上り始めた。

最上階で、魔法陣は濃い瘴気を吐き出していた。
俺でさえ近づくのを躊躇する濃度だ。人間には立っていることさえ難しいだろう。
しかし俺は聖剣を持てない。
魔法陣の破壊は少年に頼むほかない。
少年は気丈にも足を進めようとする。
その顔色は悪く、今にも倒れそうだった。

「待て。俺が一時的に瘴気の動きを止めて道を作る。そこを通れ」

言うが早いか魔力を瘴気に溶かしていく。
こうして魔力を混ぜる事で瘴気を操る事が出来るのだが、その分瘴気が体内に入ってくるのであまり長い間は出来ない。
ざわざわと瘴気が形を変えていく。
魔法陣まで、人がひとり通れるだけの通路が出来た。

「繋がった!行け!」

俺の合図に、少年は走り出した。
少年が魔法陣に聖剣を突き立てると、強い光の柱が現れた。
キラキラと光の粒子を振り撒きながら、瘴気を払っていく。
その瞬間、パキリと音が鳴って、契約魔法が切れた。
右手にあったはずの紋様は、跡形もなく消え去っていた。

「ウィル……!」
「ユリウスさん!?」

少年を残し、俺は王座の間に駆け戻っていった。
すでに崩落は収まっており、魔力障壁も無くなっていた。
床に空いた穴から階下へ飛び降りる。

「ウィル、ウィル……どこだ……?!

瓦礫に埋もれた部屋を見渡すが、勇者の姿はどこにも無かった。
右手から伝わっていた魔力の経路パスももう無い。

「まさか……」

最悪の事を想像して身震いする。
何か、何かある筈だ。勇者を探す方法——
その時、ずくりと下腹が疼いた。
そうだ。昨日ここに沢山注がれた勇者の精液まりょくがある。
探知魔術を使い、ナカのものと同じ魔力を探す。
血管を張り巡らすように範囲を広げていくと、うずたかく重なった瓦礫の下に、微かな反応が見えた。
焦りながらも魔術で慎重に瓦礫を退けていく。
倒れた柱に支えられるようにして出来た小さな空間に、勇者は頭から血を流して倒れていた。

「っ!ウィル!」

抱き寄せると、体は冷えているが弱々しく息をしていた。

「ウィル、ウィル、聞こえるか?」
「……ユーリ……」

勇者はうっすらと目を開いた。
勇者は聖魔術が使える。
しかし、今は魔力の流れが弱々しい。
それならば。

「ウィル、俺と契約しよう。《契約条件》は……」

契約魔法は両者の承諾が得られなければ発動しない。
どうか頷いてくれ。
そう哀願すると、勇者は力を振り絞るように小さく頷いた。
急いで呪文を唱える。
じわりと広がる熱と共に左手に紋様が浮かび上がったのを確認すると、俺は勇者の顎を取りそっと唇を重ねた。
繋がったそこから、ゆっくりと魔力を流し込む。
その魔力が勇者の聖魔術へと変換され、キラキラした光の粒子が傷を治していった。

どれくらいそうしていただろうか。いつの間にか勇者の傷は癒え、穏やかに息をしていた。
そっと唇を離すと、勇者はゆっくり目を開けた。

「ユーリ……?ここは……」
「ウィル!目が覚めたか!」

ぽろぽろと涙が溢れる。
最近すっかり涙腺が弱くなってしまったのは勇者のせいだ。

「痛いところはないか?何か違和感があるところは?」
「……大丈夫だよ、ありがとう」
「良かった……」

勇者にしがみついて静かに泣いた。
勇者は俺が落ち着くまでぎゅっと抱きしめ、頭を撫でていてくれた。



手を繋いで魔王城を出ると、脱落した仲間と彼らを回収したらしい少年が待っていた。

「勇者様!ユリウスさん!無事だったんですね!」

仲間は消耗していたが、怪我は少年が治したらしく、命に別状はなかった。

「ユーリに助けてもらったんだ」

勇者は改まって俺に向き合った。

「ありがとう、ユーリ」

そう言うと、勇者は俺に触れるだけのキスをしてきた。

「ちょ、人前で……」

俺の文句をかき消すようにもう一度口付けてくる。
ちゅ、ちゅ、と何度かキスされ、いつの間にか俺からももっともっとと強請っていた。
触れるだけのキスはいつものそれと比べ少々物足りない。
深く口付けたくて勇者の首に腕を回そうとするが、やんわりと避けられた。

「いつものはふたりきりの時に……ね」

はっ、と今の状況に気付き赤面する。
俺は人前で何をしようとしていたのだ。

「という訳だから、あとはよろしくね」

キラキラしい笑顔で仲間に言うと、勇者は俺の腰を抱き寄せた。
どういう『訳』なのだろうか。
頭に疑問符を浮かべていると、勇者は俺を連れて転移の魔術を使った。



転移した先は砦にある勇者の部屋だった。
勇者は約束通り、俺にキスをしてくれた。

「ふ……んっ……ちゅ」

やはり勇者とのキスは気持ち良い。
唇が離れると俺はうっとりと勇者を見つめた。

「人前でこんな表情するつもりだったの?」

勇者は意地悪そうに笑い、俺の頬を両手で挟んだ。

「俺以外にこの表情を見せたら浮気だから。許さないよ」

仄暗い目に背筋がゾクゾクした。
勇者の首に腕を回し、抱き寄せる。

「ウィル以外にはこんな表情できないし、するつもりも無い」

勇者の目が熱を帯びると、噛み付くようにキスをしてきた。
今すぐ目の前の男ウィルが欲しい。
ふたりキスをしたまま洗浄魔術をかけると、性急に服を脱ぎ捨てた。



「はぁっ、はぁっ……あっ!」

ソファに腰を下ろした勇者の上に後ろ向きに乗っかるような形で、俺たちは繋がっていた。
下からの勇者の動きに合わせながら、俺は跳ねるように腰を振っていた。

ぐっと片足を持ち上げられ、姿見に向けられる。

「ユーリのここ、俺のを美味しそうに食べてるよ」
「あっ、はずかしい……」
「ほら、よく見て……」

羞恥を感じながらもそこから目が離せない。
俺の後孔は、勇者の太い熱塊をずっぷりと呑み込んでいた。

「ああ、今締まったよ。見て感じちゃったのかな?」
「い、言わないで……っは、」

体が上下する度に鏡の中の俺は、気持ち良さそうに喘いでいた。
勇者がもう片方の足も持ち上げる。
両足を支えられ体の支えが無くなった俺は、自重でさらに深いところまで熱棒を呑み込んだ。

「ひっ、あ、ああっ!」

後ろ手に勇者に抱きつく。
勇者に翻弄されるがまま、暴力的な快楽を与えられ、情けなく喘いだ。
勇者が突き上げる度、張りつめた俺の中心が先走りを飛ばしながらピタピタと下腹を打った。

「ユーリが俺のものだって、一番奥にマーキングしてあげるね」
「して!マーキング!ウィルのものだから…!」

俺の言葉に応えるように、勇者の律動が速まっていく。

「ユーリ!射精すよ!」

予告通り一番深く、奥の窄まりの向こうに、白濁が流れ込んできた。
その熱を感じながら、俺も後孔を収縮させて絶頂した。

「あ、あ……」

俺が勇者ウィルのものだと示す証拠マーキング
それが嬉しくて、俺はそろりと下腹を撫でた。






俺が部屋から出られたのは、それから1週間後だった。
その間俺は勇者に抱かれ、食事をし、抱かれ、風呂に入り、抱かれ、眠り、そして抱かれ……
つまりは殆どずっとまぐわっていた。

久々に庭に出た俺は、用意されたテーブルで勇者の膝に座ってお菓子を食べさせられながら、この1週間にあった出来事を聞いていた。

魔族の国は宰相が国王代理として新たな組織を作るらしい。
魔王に操られていただけで元々は人魔融和派だった宰相の事だ。きっと上手くやってくれるだろう。

俺が微睡んでいる間に勇者は王と話をつけて、この砦がある領地と爵位を賜ったらしい。
魔族の国と隣接するこの地は、魔族と人間の架け橋となる重要な領地だという。

「それでね、ユーリ。これを受け取って欲しいんだ」

勇者は俺に小さな箱を手渡した。
促されるまま箱を開けると、そこにあったのは

「……指輪?」

小さな青い石のついた指輪が入っていた。
キラキラと輝く石は勇者の瞳のようで美しい。
でもなぜ指輪を?

「そうか、文化が違うんだね。俺たちの国では結婚を申し込む時に自分の瞳の色を使った指輪を渡すんだ」

バッと顔を上げ、勇者を見つめる。
じわじわと、顔に熱が集まるのが分かった。

「それは……」
「ユーリ、俺と結婚しよう」

勇者は俺の大好きな、とろりとした笑みを浮かべた。

「俺と共に、この先の未来を歩んで欲しい。ずっと」
「ウィル……嬉しい」

勇者にぎゅっと抱きつくと、同じ強さで抱きしめ返してくれる。
結婚なんてしなくても大丈夫だと思っていた。
俺は勇者とずっと一緒にいるつもりだったから。
それでも、実際に結婚しようと言われると、涙が出そうなくらいの喜びで胸がいっぱいになった。
勇者が手を取り、指輪をはめてくれる。
指輪は俺の指にぴったりはまった。

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