【完結】何故か突然エリート騎士様が溺愛してくるんだが

香山

文字の大きさ
上 下
35 / 52
二章

15

しおりを挟む
「……! ――ッド!」
「ん……ミルトゥ殿?」
「良かった……!」

 体を起こそうとするとぎゅっと抱き着かれた。触れ合う熱と感じる鼓動にお互い生きているんだと安堵する。それでも更なる確証が欲しくて、確かめるように彼の背を撫でた。

「す、すみません」

 その手の動きのせいか、ミルトゥ殿は身体を離して立ち上がった。もう少しこうしていたかったと残念に思いながら俺も立ち上がると、体が軽いことに気付いた。

「あれ? 痛くない……」
「ポーションを使って治療しておきました。偶然エリクサーを持っていたので」
「そんな高級な薬、俺なんかに使って良かったの?」
「当たり前っ、です。私だけ無事であなたに万一の事があったら寝覚が悪いですから」

 ミルトゥ殿は俺から顔を背けて言った。表情は見えなかったが、赤く染まった耳が雄弁に語っている。俺に気遣わせないようにそう言ってくれているのだろう。そんな彼の優しい所が好きだ。

「……ありがとう」

 礼を言って改めて周囲を見渡すと、ここは洞窟の中のようだった。湖の真上から光が差し込んでいるが、光はそれだけで周囲は薄暗い。

「ところで、ここは……?」
「分かりません。ただ、空間が歪んでいるようで通信魔術も使えないんです。見ていてください」

 ミルトゥ殿が上に向かって光球を投げると、10メートル程打ちあがったところでバチンと消えた。

「上に見える光――あれも幻影の可能性が高いです」
「そっか。じゃあ壁を登って行っても外には出れないってことか」

 ミルトゥ殿は俺の言葉に引きつった笑みを浮かべたが、目算で100メートルくらいの壁なら肉体を強化すれば彼を背負ってでも登れる自信はある。

「転移は試した?」
「一応試してみましょうか」

 転移で彼だけでも皆の元へ飛べれば。そう思って提案したが、ミルトゥ殿は俺に手を差し出してきた。

「一緒に転移しますから。手、貸してください」
「ミルトゥ殿は他の人を連れて転移できるの? 凄い技術だね」

 転移魔術はそもそもが難しい魔術だ。本職の魔術師だって全員が使える訳じゃないし、使えても自分一人が飛ぶのが精一杯だと聞く。俺が感心し倒していると、彼は居心地悪そうに身じろぎした。

「と、とにかく、試してみましょう」

 手を繋ぐとミルトゥ殿が魔力を練った。二人の周囲を彼の魔力が取り巻く。しかし何も起こらないまま、魔力は消滅していった。

「……駄目ですね。転移は出来ないみたいです」
「転移も駄目か。となると……」

 俺たちを誘うかのように洞窟の奥の暗闇から一陣の風が吹いた。

「奥に進むしかないようだね」
「そのようですね」

 ミルトゥ殿が光魔術で足元を照らしてくれる。周囲を警戒しながらゆっくりと足を進めた。周囲の音を聞き落とさないよう、黙って進む。静かな洞窟は時折水の滴る音がするのみで生物の気配は全くない。足元だけがぼんやりと照らされた薄暗い闇の中にいると、隣にいるはずのミルトゥ殿の気配がどんどん希薄になった。



 不意に闇が深くなり、あたりの様子が分からなくなった。

『フレデリック』

 呼ぶ声にふと顔を上げると、私服姿のミルトゥ殿が俺に笑いかけていた。

『フレデリック、愛してる。こっちへ来て』

 そんな筈ないと頭では理解しているのに、体が言うことを聞かない。1歩、また1歩とふらふら近寄っていくと、右腕がグッと引かれた。

「しっかりしてください!」
「っ!」

 良く通る声に頭の中の靄が晴れる。目の前のミルトゥ殿はぐにゃりと形を変え、蝙蝠のような小型の魔物の姿となり闇に溶けた。普通の通路を歩いていた筈だったが、目の前の地面には亀裂が入り俺はその深い裂け目の淵に立っていた。あと1歩でも踏み出していれば危なかった。

「……ありがとう、助かったよ」
「今の魔物、テネーブルですね」
「そうだね」

 テネーブルとは洞窟にまれに出現するという魔物だ。肉体的には非力だが、幻術を使うことができ、相手の望むものを見せて思考を鈍らせた上で生きたまま捕食するという残忍な面を持つ。ミルトゥ殿が光の補助魔術をかけてくれた。これで多少は耐性が付いた。

「テネーブルが相手となると分断されると分が悪い。手を繋がせてもらっていいかな?」
「ええ。構いません」

 テネーブル自体は動きが速いわけでもないから、次に姿を見せた時にはうまく仕留められる。だが、幻術が厄介だ。仲間の姿がテネーブルに見えるような幻術を使われて同士討ちになったなんて話もある。俺は左手でミルトゥ殿の右手を握った。

「動きにくくてごめんね」
「いえ、魔術は左手でも使えますから」

 再び洞窟の中を進み始めた。相変わらずの薄暗い闇の中でも、左手に感じる熱が俺を現実へ引き留めてくれる。時折手に力をこめると同じ強さで返してくれる。こんな状況なのにそれが嬉しくて、何度も繰り返した。
 暫く進んだところで、闇が濃くなる気配がした。さっきと同じ気配だ。警戒心から手に力をこめると、力は返ってこなかった。

「ミルトゥ殿……?」

 目を凝らして隣を見ると、彼は驚いたように目を見開いていた。

「……ッド……」

 彼はぽつりと何かをつぶやくと、闇の先へ駆けだそうとした。

「ミルトゥ殿! しっかりしてください!」
「待って! 行かないで!!」

 暗闇に向かって暴れる彼を無理やり腕に閉じ込め声をかけ続けた。

「ミルトゥ殿! ジョシュア! ジョシュ――」

 俺の声が届いたのか、びくっと体を震わせ、ミルトゥ殿の動きが止まった。目の前の空間がわずかに歪む。その隙を見逃さず、右手の剣で両断した。

 不快な叫び声をあげ、テネーブルは塵のように崩れた。絶命を確認して、腕の中の彼に目を戻した。

「ミルトゥ殿、大丈夫?」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「気にしないで。俺もさっきミルトゥ殿に助けてもらったし。お相子だよ」

 彼を腕から解放し、テネーブルが落とした魔石を拾った。テネーブルはそれなりに強い魔物だから、魔石もそれなりに大きくて直径3センチくらいはあった。だが、大きさ以上にその純度に驚いた。覗き込むと向こうが見えるほどの純度の魔石はなかなかお目にかかれない。それは先程のテネーブルがそれだけ強かったことを意味していた。

「テネーブルからこんなに高純度の魔石が取れるなんて、聞いたことありません」
「そうだね。この洞窟は特殊な環境らしい。気を引き締めて行こう」

 テネーブルは討伐したとはいえ、この先また同じような魔物がいないとも限らない。そう説き伏せて繋いだ手はそのまま進むことになった。下心もあるにはある。でもそれ以上にさっきのミルトゥ殿の様子を見て、この闇の中で見失ったらもう二度と会えないような気になってしまい、怖くて手が離せなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...