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「……変じゃないか?」
「全然。良く似合っているよ」
次の休日、俺は慣れない礼服を着てフレッドの前に立っていた。
今日はフレッドの実家であるアスフォデル侯爵家に結婚の許可をもらうための挨拶に行く。
フレッドは結婚後にはアスフォデル侯爵家のもつ子爵位を受け継ぐと決まっているそうで、正式な婚約には家の許可が必須らしい。
「でもいくら反対されても、たとえ家から追い出されても俺はジョシュと結婚するから」
「俺だってそのつもりだ……絶対に、諦めてやらねえからな!」
フレッドにエスコートされ侯爵家の家紋のついた馬車に乗った。
第一部隊と交流するまで貴族と接することなんてほとんどなかったし、第一部隊の貴族は貴族といっても気さくな奴ばかりだから貴族らしい貴族と面と向かって話すのは初めてだ。
取り返しのつかない失態を演じてしまったらどうしようと冷や汗をかく俺をフレッドは面白そうに見つめてきた。
「大丈夫だよ。兄は大らかな人だし、そんなに緊張しないで」
「適度の緊張は良いんだよ!」
フレッドはそう言うが油断して失敗したら目も当てられない。俺は改めて気を引き締めた。
馬車から降りた俺は口をぽかんとあけながら白亜の屋敷を見上げた。その巨大な屋敷は俺の基準ではもはや城だった。
広い庭園は整然と整えられていて雑草一つ混ざっておらず、花壇には寒い時期にも関わらず満開の花々が咲き乱れている。綺麗に生え揃った芝生の中央にはたっぷりと水をたたえた大きな噴水が太陽の光を反射しながら高く噴き上がっていた。正面の城――屋敷は新品のように汚れひとつない白い壁に空色の屋根が映えて庭の緑と共に美しいコントラストを成しており、屋敷へと続く通路の脇に多くの使用人たちが列を成していた。
地方ならともかく王都の一等地にこんな規模の屋敷を持っているとは。当代の当主に代替わりしてからのアスフォデル侯爵家は様々な事業で成功しているとの評判で国内の侯爵家では一番羽振りが良いとの噂だったが、その噂は確からしい。
「お帰りなさいませ、フレデリック様」
一番手前にいた使用人の男性が声をあげると、残りの人たちが一斉に頭を下げた。統率の取れたその動きに思わず後退りしそうになる。フレッドは小さく笑うと萎縮しそうになった俺の腰を抱き寄せた。
「兄上に報告したい事がある。通してくれ」
家令の男性に案内されて重厚な扉の前に来た。
「旦那様、フレデリック様がお越しです」
入れと許可されて部屋に入ると、正面の机にはフレッドに似た面差しの、フレッドより少し濃い緑の瞳を持つ男性が座っていた。彼がフレッドの兄だというアスフォデル侯爵――オディロン・アスフォデル卿だ。
「初めてお目にかかります、ジョシュア・ミルトゥと申します」
胸に手を当てて礼をとる。俺が頭を上げるのと同時にフレッドが一歩前に踏み出した。
「兄上、彼が俺の大切な人です。彼との結婚を許可していただきたい」
フレッドの言葉に返答せずに、侯爵は俺を見た。その顔は笑顔を湛えていたが、その身から醸す空気はどこか底冷えするかのようだった。
「君のことは調べさせてもらったよ、ジョシュア・ミルトゥくん。王国軍魔術師団第三部隊所属――その歳で副隊長なのは立派だね」
穏やかな口調の陰にも冷たい棘が感じられて身が硬くなる。侯爵はそんな俺の様子を値踏みするように見ると、スッとその顔から表情が消えた。
「しかし、平民で孤児院出身だ。そんなどこの血が混ざっているかも分からないような男が傍系とはいえ我がアスフォデル家に迎え入れられるとでも? それに君の出身はあのコシュマール孤児院らしいね。有望な子供は貴族に貸し出されていたと聞くではないか。その時にでも男を落とす手管を磨いたのかい? フレデリックは純情だからさぞ簡単に落とせただろうね」
フレッドは目をカッと見開くと、掴みかからんばかりの勢いで詰め寄った。
「兄上っ! 言いがかりはやめてください! ジョシュはそんな人間では無いです!」
「フレデリック、我儘は止めなさい。婚姻は家と家との繋がり。貴族として、理解しているだろう? そんなにその男が良いのなら家を出ていきなさい。ああ、そうなったらもう第一部隊には居られないね。フレデリックはただの無職の平民になるわけだが……貴族とは程遠い貧しい生活にミルトゥくんは耐えられ――」
「お言葉ですが」
マナー違反だと分かっていても、口を挟まずにはいられなかった。
「フレッド……フレデリック様が第一部隊でなくなったとしてもフレデリック様である事に変わりはありません。それに、もし無職になったとしても私が養います! 話は以上のようですね。では、失礼いたします」
一方的にそれだけ言って頭を下げた。帰るぞ、フレッドと声をかけて部屋を後にしようとすると、侯爵は慌てて立ち上がった。
「待ちたまえ!」
侯爵は先程とはうって変わって楽しそうな笑みを浮かべていた。
「ククッ……ジョシュアくん、すまなかった。私が君に言った言葉、全面的に撤回させてもらうよ」
体を震わせながら小さく笑うと、姿勢を正して俺たちに向き合った。
「君たちの結婚、心から祝福する。おめでとう」
「兄上……」
フレッドそう呟くと、じとりと侯爵を睨んだ。
「何か変だとは思いました。俺たちを騙したんですね」
「騙したとは人聞きの悪い。試したんだよ。お前が選んだ人がどんな人間か分からないだろう?」
侯爵はパチリとウインクをしたが、フレッドは顔をむっつりと顰めたまま腕を組んだ。
「でも兄上、演技だからって言い過ぎです」
「おにいちゃんはお前のことが心配で――」
「フレデリックの言う通りですわ!」
突然大きな音を立てて扉が開くと、見覚えのある女性が入ってきた。
「言って良いことと悪いことの区別もつきませんの?」
「クロエ……あれは全く本心なんかでは――」
「それでもです!」
「す、すまない……」
「謝る相手が違っていましてよ」
侯爵は勢いよくこちらを向くとガバッと頭を下げた。
「ジョシュアくん、本当に申し訳ない」
「いえ、気にしていませんので、顔を上げて――」
「本当です。兄上はもっと反省してください。それと名前で呼ぶのは馴れ馴れしいです」
頭を下げ続けている侯爵をそのままに、フレッドは俺の手を引いて女性の方へ近付いた。
「ジョシュア、彼女が兄上の伴侶、俺の義姉だよ。義姉上、彼が俺の婚約者です」
「ジョシュア・ミルトゥと申します」
「クロエ・アスフォデルですわ」
アスフォデル夫人は挨拶を終えるとまじまじと俺の顔を見た。
「あら、あなた、以前植物園でお見かけした……」
「気付いていらしたのですか? その節はご挨拶もせず、失礼いたしました」
「わたくしの事はお気になさらず。まあ、まあ、それではわたくし、あの時お二人のお邪魔をしてしまっていたのね」
「いえ、そんなこと……」
あの日――俺は恋人でも無いのに勝手に嫉妬して、拗ねて、今思い返せば凄く恥ずかしい態度だった。ついそれを思い出してしまい顔に熱が集まる。フレッドは忘れてくれているだろうか。横目で隣を見ると、フレッドは満面の笑みを浮かべながら俺の腰を抱いた。
「ジョシュが可愛く嫉妬してくれましたから、むしろ良い刺激になりましたよ」
「まあ! それは良かったですわ」
朗らかに笑うアスフォデル夫人の手前何も言えず、俺は真っ赤になった顔を隠すように俯いた。
夫人に是非と誘われ、俺たちはサロンへ移動した。出された紅茶は香り高く、皿に並べられた菓子はどれも色とりどりで洗練された形をしていた。
緊張しながらも和やかな雰囲気でお茶会は進んだ。夫人は話し上手で、俺の緊張を解しつつ馴れ初めやプロポーズの話などを聞き出されてしまい、俺はその度に赤面する羽目になった。
菓子が半分ほどに減った頃、ジョシュアくん、ちょっと良いかなと声をかけられた。
「あらあなた、どうしたの?」
「子供たちを紹介させてくれ。ベルナール、カトリーヌ、こちらへ」
侯爵に連れられて入ってきたのは、まだ幼い兄妹だった。
「はじめまして、ベルナール・アスフォデルです」
「カトリーヌ・アスフォデルです!」
小さな紳士と淑女はたどたどしくも立派な貴族の礼を披露してくれた。ひざを折って目線を合わせて挨拶を返すと、二人はアスフォデル侯爵に似た濃い緑の瞳を輝かせた。
「ジョシュアさん、まじゅつしなんですか? すごいです!」
「まじゅつ、みたーい!」
「こらこら、お客さんに無理を言ってはいけないよ」
「いえ、構いません。じゃあお庭に行こうか」
これまでも何度か市井の子供にせがまれて魔術を見せた事がある。怖がらせないように笑顔で話しかけると二人は頬を赤らめて喜んだ。
「ではぼくが、えすこーとします!」
「わたしも!」
それぞれの手を引かれながら庭に向かった。俺が魔法で氷の蝶や光の鳥を飛ばしてやると、二人ははしゃいで飛び回りながら追いかけていた。無邪気な様子に自然と頬が緩んだ。
その後、ディナーまでごちそうになって屋敷を後にした。
「お義兄さんもお義姉さんも、良い人だな。子供たちも元気で……理想の家族って感じだ」
「そうだね。これからはジョシュもアスフォデル家の……家族の一員となるんだよ」
「家族……」
憧れはあったけど、俺には一生縁のないものだと思っていた。それがあんなに素敵な人たちの一員になれるなんて。一人一人の顔を思い浮かべる。侯爵、夫人、幼い兄妹、そして……
俺は隣に座る愛しい人を見つめた。
「ありがとう、フレッド。俺を好きになってくれて」
突然の言葉にフレッドは少し驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに破顔した。
「こちらこそ。ジョシュが俺の気持ちに応えてくれて、嬉しいよ」
フレッドの顔が近付いてくる。馬車の心地よい揺れを感じながら、触れるだけの口付けを交わした。
「全然。良く似合っているよ」
次の休日、俺は慣れない礼服を着てフレッドの前に立っていた。
今日はフレッドの実家であるアスフォデル侯爵家に結婚の許可をもらうための挨拶に行く。
フレッドは結婚後にはアスフォデル侯爵家のもつ子爵位を受け継ぐと決まっているそうで、正式な婚約には家の許可が必須らしい。
「でもいくら反対されても、たとえ家から追い出されても俺はジョシュと結婚するから」
「俺だってそのつもりだ……絶対に、諦めてやらねえからな!」
フレッドにエスコートされ侯爵家の家紋のついた馬車に乗った。
第一部隊と交流するまで貴族と接することなんてほとんどなかったし、第一部隊の貴族は貴族といっても気さくな奴ばかりだから貴族らしい貴族と面と向かって話すのは初めてだ。
取り返しのつかない失態を演じてしまったらどうしようと冷や汗をかく俺をフレッドは面白そうに見つめてきた。
「大丈夫だよ。兄は大らかな人だし、そんなに緊張しないで」
「適度の緊張は良いんだよ!」
フレッドはそう言うが油断して失敗したら目も当てられない。俺は改めて気を引き締めた。
馬車から降りた俺は口をぽかんとあけながら白亜の屋敷を見上げた。その巨大な屋敷は俺の基準ではもはや城だった。
広い庭園は整然と整えられていて雑草一つ混ざっておらず、花壇には寒い時期にも関わらず満開の花々が咲き乱れている。綺麗に生え揃った芝生の中央にはたっぷりと水をたたえた大きな噴水が太陽の光を反射しながら高く噴き上がっていた。正面の城――屋敷は新品のように汚れひとつない白い壁に空色の屋根が映えて庭の緑と共に美しいコントラストを成しており、屋敷へと続く通路の脇に多くの使用人たちが列を成していた。
地方ならともかく王都の一等地にこんな規模の屋敷を持っているとは。当代の当主に代替わりしてからのアスフォデル侯爵家は様々な事業で成功しているとの評判で国内の侯爵家では一番羽振りが良いとの噂だったが、その噂は確からしい。
「お帰りなさいませ、フレデリック様」
一番手前にいた使用人の男性が声をあげると、残りの人たちが一斉に頭を下げた。統率の取れたその動きに思わず後退りしそうになる。フレッドは小さく笑うと萎縮しそうになった俺の腰を抱き寄せた。
「兄上に報告したい事がある。通してくれ」
家令の男性に案内されて重厚な扉の前に来た。
「旦那様、フレデリック様がお越しです」
入れと許可されて部屋に入ると、正面の机にはフレッドに似た面差しの、フレッドより少し濃い緑の瞳を持つ男性が座っていた。彼がフレッドの兄だというアスフォデル侯爵――オディロン・アスフォデル卿だ。
「初めてお目にかかります、ジョシュア・ミルトゥと申します」
胸に手を当てて礼をとる。俺が頭を上げるのと同時にフレッドが一歩前に踏み出した。
「兄上、彼が俺の大切な人です。彼との結婚を許可していただきたい」
フレッドの言葉に返答せずに、侯爵は俺を見た。その顔は笑顔を湛えていたが、その身から醸す空気はどこか底冷えするかのようだった。
「君のことは調べさせてもらったよ、ジョシュア・ミルトゥくん。王国軍魔術師団第三部隊所属――その歳で副隊長なのは立派だね」
穏やかな口調の陰にも冷たい棘が感じられて身が硬くなる。侯爵はそんな俺の様子を値踏みするように見ると、スッとその顔から表情が消えた。
「しかし、平民で孤児院出身だ。そんなどこの血が混ざっているかも分からないような男が傍系とはいえ我がアスフォデル家に迎え入れられるとでも? それに君の出身はあのコシュマール孤児院らしいね。有望な子供は貴族に貸し出されていたと聞くではないか。その時にでも男を落とす手管を磨いたのかい? フレデリックは純情だからさぞ簡単に落とせただろうね」
フレッドは目をカッと見開くと、掴みかからんばかりの勢いで詰め寄った。
「兄上っ! 言いがかりはやめてください! ジョシュはそんな人間では無いです!」
「フレデリック、我儘は止めなさい。婚姻は家と家との繋がり。貴族として、理解しているだろう? そんなにその男が良いのなら家を出ていきなさい。ああ、そうなったらもう第一部隊には居られないね。フレデリックはただの無職の平民になるわけだが……貴族とは程遠い貧しい生活にミルトゥくんは耐えられ――」
「お言葉ですが」
マナー違反だと分かっていても、口を挟まずにはいられなかった。
「フレッド……フレデリック様が第一部隊でなくなったとしてもフレデリック様である事に変わりはありません。それに、もし無職になったとしても私が養います! 話は以上のようですね。では、失礼いたします」
一方的にそれだけ言って頭を下げた。帰るぞ、フレッドと声をかけて部屋を後にしようとすると、侯爵は慌てて立ち上がった。
「待ちたまえ!」
侯爵は先程とはうって変わって楽しそうな笑みを浮かべていた。
「ククッ……ジョシュアくん、すまなかった。私が君に言った言葉、全面的に撤回させてもらうよ」
体を震わせながら小さく笑うと、姿勢を正して俺たちに向き合った。
「君たちの結婚、心から祝福する。おめでとう」
「兄上……」
フレッドそう呟くと、じとりと侯爵を睨んだ。
「何か変だとは思いました。俺たちを騙したんですね」
「騙したとは人聞きの悪い。試したんだよ。お前が選んだ人がどんな人間か分からないだろう?」
侯爵はパチリとウインクをしたが、フレッドは顔をむっつりと顰めたまま腕を組んだ。
「でも兄上、演技だからって言い過ぎです」
「おにいちゃんはお前のことが心配で――」
「フレデリックの言う通りですわ!」
突然大きな音を立てて扉が開くと、見覚えのある女性が入ってきた。
「言って良いことと悪いことの区別もつきませんの?」
「クロエ……あれは全く本心なんかでは――」
「それでもです!」
「す、すまない……」
「謝る相手が違っていましてよ」
侯爵は勢いよくこちらを向くとガバッと頭を下げた。
「ジョシュアくん、本当に申し訳ない」
「いえ、気にしていませんので、顔を上げて――」
「本当です。兄上はもっと反省してください。それと名前で呼ぶのは馴れ馴れしいです」
頭を下げ続けている侯爵をそのままに、フレッドは俺の手を引いて女性の方へ近付いた。
「ジョシュア、彼女が兄上の伴侶、俺の義姉だよ。義姉上、彼が俺の婚約者です」
「ジョシュア・ミルトゥと申します」
「クロエ・アスフォデルですわ」
アスフォデル夫人は挨拶を終えるとまじまじと俺の顔を見た。
「あら、あなた、以前植物園でお見かけした……」
「気付いていらしたのですか? その節はご挨拶もせず、失礼いたしました」
「わたくしの事はお気になさらず。まあ、まあ、それではわたくし、あの時お二人のお邪魔をしてしまっていたのね」
「いえ、そんなこと……」
あの日――俺は恋人でも無いのに勝手に嫉妬して、拗ねて、今思い返せば凄く恥ずかしい態度だった。ついそれを思い出してしまい顔に熱が集まる。フレッドは忘れてくれているだろうか。横目で隣を見ると、フレッドは満面の笑みを浮かべながら俺の腰を抱いた。
「ジョシュが可愛く嫉妬してくれましたから、むしろ良い刺激になりましたよ」
「まあ! それは良かったですわ」
朗らかに笑うアスフォデル夫人の手前何も言えず、俺は真っ赤になった顔を隠すように俯いた。
夫人に是非と誘われ、俺たちはサロンへ移動した。出された紅茶は香り高く、皿に並べられた菓子はどれも色とりどりで洗練された形をしていた。
緊張しながらも和やかな雰囲気でお茶会は進んだ。夫人は話し上手で、俺の緊張を解しつつ馴れ初めやプロポーズの話などを聞き出されてしまい、俺はその度に赤面する羽目になった。
菓子が半分ほどに減った頃、ジョシュアくん、ちょっと良いかなと声をかけられた。
「あらあなた、どうしたの?」
「子供たちを紹介させてくれ。ベルナール、カトリーヌ、こちらへ」
侯爵に連れられて入ってきたのは、まだ幼い兄妹だった。
「はじめまして、ベルナール・アスフォデルです」
「カトリーヌ・アスフォデルです!」
小さな紳士と淑女はたどたどしくも立派な貴族の礼を披露してくれた。ひざを折って目線を合わせて挨拶を返すと、二人はアスフォデル侯爵に似た濃い緑の瞳を輝かせた。
「ジョシュアさん、まじゅつしなんですか? すごいです!」
「まじゅつ、みたーい!」
「こらこら、お客さんに無理を言ってはいけないよ」
「いえ、構いません。じゃあお庭に行こうか」
これまでも何度か市井の子供にせがまれて魔術を見せた事がある。怖がらせないように笑顔で話しかけると二人は頬を赤らめて喜んだ。
「ではぼくが、えすこーとします!」
「わたしも!」
それぞれの手を引かれながら庭に向かった。俺が魔法で氷の蝶や光の鳥を飛ばしてやると、二人ははしゃいで飛び回りながら追いかけていた。無邪気な様子に自然と頬が緩んだ。
その後、ディナーまでごちそうになって屋敷を後にした。
「お義兄さんもお義姉さんも、良い人だな。子供たちも元気で……理想の家族って感じだ」
「そうだね。これからはジョシュもアスフォデル家の……家族の一員となるんだよ」
「家族……」
憧れはあったけど、俺には一生縁のないものだと思っていた。それがあんなに素敵な人たちの一員になれるなんて。一人一人の顔を思い浮かべる。侯爵、夫人、幼い兄妹、そして……
俺は隣に座る愛しい人を見つめた。
「ありがとう、フレッド。俺を好きになってくれて」
突然の言葉にフレッドは少し驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに破顔した。
「こちらこそ。ジョシュが俺の気持ちに応えてくれて、嬉しいよ」
フレッドの顔が近付いてくる。馬車の心地よい揺れを感じながら、触れるだけの口付けを交わした。
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