【完結】何故か突然エリート騎士様が溺愛してくるんだが

香山

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二章

01

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 王国軍騎士団の第一部隊は王族の警備や王都内での勤務が主な仕事だ。しかし、今日は軍の都合で魔術師団の第三部隊と組んで王都近郊の森での討伐に出ていた。
 俺は第一の隊長代理として騎士たちをまとめる役割を請け負った。魔術師団の第三部隊と組むのは俺が副隊長になってからは初めてのことだ。
 討伐前に顔合わせを兼ねて打ち合わせをした第三の隊長は魔術師団の制服を着崩した細身の男性だった。厳格さのない雰囲気の彼は、それでも王国でも有数の魔術師と名高い。第一は討伐任務に慣れていないため、今回は全面的に彼の指示に従うことになった。



 森の中へ進んで暫くすると、大きな洞窟の入り口で今回の討伐目標であるダークウルフの群れを見つけた。探索魔術で確認すると、洞窟の奥にはまだたくさんのダークウルフがいるようだった。打ち合わせでは囮を使って誘き寄せると言っていたが……

「では、行ってきます」
「おう。頼んだ」

 短くそう言うと、隣にいた魔術師がダークウルフの群れに向かって走った。

「っ!危ない!」
「おっと待ちな、騎士様」

 反射的に追いかけようとしたが、魔術で拘束されてしまった。

「良いんだよ。あれが囮だ」
「あんなやり方、危険です!」
「本人も良いって言ってんだ。ほっとけよ」
「ですが……」

 魔術師の男は長い黒髪を靡かせながら、群れの正面に立っている。ダークウルフは唸り声を上げて引き寄せられるようににじり寄る。洞窟の奥からも次から次へと新たなダークウルフが現れて、魔術師を取り囲んでいった。
 じりじりと距離を詰めながら互いに牽制しあっていたが、群れのボスひと吠えを合図に一気に飛び掛かった。

「攻撃!」

 それと同時に隊長の合図で拘束が解けた。
 周りの魔術師たちが攻撃魔法を飛ばすのに一瞬遅れ、騎士たちも攻撃を始めた。俺も攻撃をするが、黒髪の魔術師から目が離せなかった。ダークウルフを引き付けながら、シールドを張ってその攻撃を防ぐ。時折魔力を編み上げ、攻撃を仕掛ける。流れるような動作にダークウルフの数はみるみる減っていった。
 それから1時間も経たないうちにダークウルフの群れはあっけなく殲滅された。念のため洞窟の奥も確認したが、残党が残っている気配も無かった。手慣れた様子で戦闘の後処理をすると、魔術師たちは転移でさっさと帰っていった。
 俺は慌てて隊長を呼び止めた。

「ドゥメルグ隊長!あなた方のやり方は危険すぎます。人間を囮に使うだなんて……」

 俺の言葉にドゥメルグ隊長は腕を組んで眉間にしわを寄せた。

「だが、本人の意思でやってんだ。俺がやめろって言ってもやめないだろうな」
「私が忠告させてもらいます。いいですね?」
「別に良いが、言うことを聞くとは思えねーぞ?」

 呆れたような物言いのドゥメルグ隊長に一礼し、俺は彼――ミルトゥ副隊長の姿を探した。



 もうすでに戻ったのか、森には彼の姿は無かった。急いで基地に帰ると、事務棟の廊下でようやく目的の人物を見かけた。

「ミルトゥ副隊長!」

 人ごみをかき分けて呼びかけると、彼はゆっくり振り返った。

「これはこれは騎士団第一舞台アスフォデル副隊長殿。何か?」

 目を細めて口角を上げた彼は、一見微笑んいるようにも見えるが、その目は全く笑っていなかった。

「今日の戦い方だが、危険すぎる。自分の命を何だと思っているんだ!?」
「あの方が効率が良かったでしょう?これが第三のやり方です。お綺麗な第一様には理解できないかもしれませんが」

 皮肉めいたその表情に思わず眉を顰めた。

「不快にさせたのなら申し訳ありません。ですが、我々のやり方に口出ししないで頂きたい」

 きっぱりとそう言い切ると、彼はくるりと踵を返した。

「俺たちはこういう戦い方しか――」

 そこまで言って彼は言葉を切った。

「ミルトゥ殿?」

 声をかけると彼は勢いよく振り返り、驚愕したように目を見開いた。宝石のような赤い瞳は次第に涙で潤み、唇は細かく震えていた。

「っ! 失礼します」

 今にも消え入りそうな声に思わず手を伸ばすが、その手が届く前に彼は再び前を向くと今度は振り返らずに転移の魔術で消えた。
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