誓約

平 一

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旧帝国の中枢種族達は、量子頭脳への人格転移マインドアップローディングを達成することにより、
高度演算能力や共有人格形成能力を獲得せる、最先進種族なり。
然し彼女達は、自らの惹起じゃっきせる〝大戦〟の中で〝先帝〟種族を失い、
新帝国による平和の回復も拒絶して、アンドロメダ銀河に逃亡せり。
彼女達は同銀河を征服したる後、銀河系への反撃を試みたるが、
その失政から再び内紛を招来せり。

 彼女達と共に移住を強制されし技術種族出身の科学長官ラジエルと、
その友好種族なりし文明開発長官レミエル、
複数の非人道的作戦の実行を命じられし親衛軍種族ラグエルは、
政権による数々の残虐行為や、戦況の悪化による粛清しゅくせいを恐れ、
専制支配の緩和及び、新帝国との一時休戦を具申ぐしんせり。

 然し、権威主義的で硬直した旧帝国の体制下において、
かかる提言は利敵行為とみなされ、彼女達は反乱種族として追討せられたり。
当初ラジエル達は善戦せるも、偽りの休戦交渉申出を受け、
会合地点に向かう途上で奇襲攻撃を受けて壊滅せり。
三種族が滅びたる後には、ラジエルから事前の警告を受けて分散せる、
傘下種族のゴモリー、マルコシアス達のみが残されたり。

 ゴモリーは、当時ラジエルを護衛せる量子人格化種族なり。
彼女はかつて、猛禽もうきん類を祖先とする好戦的な軍事種族なりき。
然し、後に彼女が非軍事種族たるラジエルの護衛種族に登用されしことにより、
その戦闘機会は激減せり。
彼女はその攻撃性を、自己抑制と自己研鑽じこけんさん
上級種族の補佐や下級種族の育成による組織貢献活動へと昇華しょうかし、
ラジエルの私兵軍司令官にまで昇進せり。

 ゴモリーの指導種族ラジエルは技術種族なりしがゆえに、
他の中枢種族と交流しつつも、圧政や謀略を共有すること皆無かいむなりき。
故にゴモリーもまた、政治に対し理想は求めざるも、専横や腐敗からは距離を置き、
一種独特の哲学的かつ美学的な思想と文化を有するに至れり。
彼女はかかる経緯から、旧帝国側における文明開発長官レミエルの、
軍事部門副長官をも兼任せり。

 一方、民生部門の副長官マルコシアスは、アンドロメダ銀河の先住種族なり。
彼女達は、種族共有人格を形成し得ざる個体群種族なりしが、
その驚異的な環境適応能力と、星域全体に及ぶ優れた利害調整能力から、
特例として同職に選任せられたり。

 ゴモリーはマルコシアスの星間社会全体に対する貢献を賞賛し、
マルコシアスもまたゴモリーの先進文明に相応しき能力と徳性に、
憧憬しょうけいを抱きたり。
両種族は出身銀河間の距離を越えて、最も親密なる友好の絆を結びたり。

 ラジエル達が壊滅したる際、ゴモリーの採り得る最も有望な生存戦略は、
超空間航法を用いたる銀河外への脱出であり、
同航法を持たざるマルコシアスのそれは、銀河内各所への潜伏なりき。

 しかしゴモリーは、開発省の副長官に着任したる際、
自らの全力を以て先住種族の文明発展を支援する旨を誓約せり。
情義に厚き彼女にとりてはそれ故に、かかる危機的状況なればこそ、
最も勤勉にして愛すべき先住種族マルコシアスを見捨てるべき理由は
いささかも見当たらざりき。

 一方マルコシアスも、ゴモリーと共に職務を遂行する過程において、
権威主義的な他の〝支配種族〟にはなき彼女の自律性や責任感を貴きものと認め、
自らの伝承説話にある〝英雄種族〟の再来の如く敬愛するに至れり。
故に彼女もまた、この外来者と共に故郷の銀河を守るべく、
抵抗運動を継続することを決定せり。

 二つの種族は、力を合わせてこの悲劇的事態に立ち向かい、
新帝国種族との協力のもとにアンドロメダ銀河を中枢種族の圧制から解放して、
両銀河の種族が共に繁栄する輝かしき未来を建設することを、改めて誓約せり。

 ゴモリーは、可動小惑星にて脱出せる指導種族ラジエルの生存人格群に対し、
その本体の滅亡に対する悲嘆と弔意ちょういを表し、人格群の帰化を受容せり。
彼女はラジエルの人格群に対し、自身とマルコシアスもまた、
たとえわずかな生存人格・個体群になろうとも、
共に抵抗運動レジスタンスを継続せんと誓いしことを報告せり。

 幸いにも、彼女達は旧帝国に抗戦しつつ〝大戦〟を生き延びて、
新帝国の勝利に貢献せり。
戦後、その功によりて量子頭脳への人格転移を承認されると共に、
新帝国理事種族への参加を要請されしマルコシアスは、
ゴモリーの参加が認められざる限り、自らも加入せざる旨を通告せり。

 彼女と共に理事種族に就任せるゴモリーは、
新帝国の自由・民主・平和主義的理念に敬意を表しながらも、
その精神に忠実に、従来と変わることなく全力をもって、
旧帝国系種族と先住種族の正当な権利を擁護ようごする旨を表明せり。
かくしてここに、銀河系の新帝国系種族はその姉妹銀河において、
最強にして最良の政治的好敵手ライバルを獲得せり。
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