4 / 6
4 説明
しおりを挟む
首都にある世界連邦の支部で職員が告げた事実は、驚くべきものだった。私達の村には、〝先帝〟種族の人格が宿る〝分離体〟、つまり量子頭脳が隠されていたのだ。連邦軍出動の主目的は〝先帝〟人格群の解放にあり、その名も〝聖霊〟救出作戦というものだった。
村を営む団体の黒幕は、人類に偽装して地球に入り込んだ〝慈愛の王〟の工作員達だった。本部から連れ出されていた連中だ。〝剣の王〟〝炎の王〟〝啓示の王〟〝慈愛の王〟は四大中枢種族と呼ばれ、それぞれ宇宙艦隊戦、天体攻撃戦、量子情報戦、生物化学戦によって帝国設立に貢献し、他の種族から恐れ敬われていた。
〝慈愛の王〟の個体群は、光学迷彩を使って天使も演じながら、団体構成員を集め、上級構成員に対しては洗脳や脅迫、時には殺害まで行って組織を運営していた。連邦政府もそれにつき調査を進めていたが、〝先帝〟人格群や人々の身柄を押さえられていることもあり、終戦までは摘発に踏み切れなかったそうだ。工作員達の側も、救出作戦時には旧帝国の敗戦を確認しており、士気が低下していた。作戦に対しては初めから、私達を捨て駒にして母星への義理を果たした後で、投降することを決めていたようだ。
そのことを知った私は、せめて奴等を蹴飛ばしてやれば良かったと思った。もっとも、そんなことをすれば大問題になっていただろう。あっさり返り討ちにあい、あるいは恐ろしい死に方をしていた可能性も高い。衰えたとは言え、四大種族はサタンが用いた神話で四大天使の原型とされたほどの権威があり、また言うまでもなく強力な軍事種族達だったからだ。そもそも奴等は自分達の量子頭脳に人格の複製予備をとってあるから、たとえ殺したとしてもあまり意味はない。
不公平だとは思うが、何事にも技術水準の違いが大きく明暗を分けるというのは、人類文明の歴史でもお馴染みの事実だ。〝大戦〟では、多くの種族が滅んでいる。またそれは、全てが四大種族の責任によるものではないともいわれる。時代の変化に、他の上級種族も含む帝国全体の民度が追いつけなかったのだそうだ。戦争犯罪に対する処罰も、新帝国では旧帝国のような、種族絶滅や文明剥奪といった処分はない。ただし、今後の悲劇を防ぐため、自分達による加害行為の苦痛を仮想体験したり、種族内で人格の権限配分を修正したりという処置はあると聞いたので、ぜひ改善を期待したいと思った。
事件からしばらく経って、連邦職員の説明は全帝国への放送映像で裏付けられた。〝聖霊〟の一人だった〝先帝〟種族の代表人格は、自分達が正当性を確保するための道具として〝慈愛の王〟に拘束されていたと証言した。〝慈愛の王〟から見ると、銀河中央から離れた開発途上星域で、最も文明化が成功した地球に隠すのが、秘匿性や安全性の面で一番都合が良かったようだ。
代表人格は地球向けの放送で、美しい銀髪と輝く金瞳を持った少女の姿で現れた。量子人格化した種族は威圧的な印象を与えないよう、種族の特徴を反映しつつも、愛らしい少女の姿をした映像体や分離個体を用いることが多い。それでも彼女に関して言えば、やはり銀河系を統一した種族らしく、高い知性と強い意志をうかがわせる、鋭い口調と眼差しが印象的だった。まあ彼女達は結局のところ、本当の神様でも天使達でもなかったわけだが……それらに擬えられるだけの力を持つ種族ではあったのだろう。
私達が学ぶべき教訓も、まさにそこにあると思う。いかに私達が神や悪魔の如き技術力を得ても、元からそれを使いこなせる資質をもっているわけではない。身に余る力を持てば使い道を誤るし、自分達だけでなく他の人々も高めていかないと、引きずられて滅んでしまう。文明発展に対応すべく、どうせなるなら私達は〝責任ある神〟をめざして、どこまでも自分達自身の資質や組織を改善し、技術利用や利害調整の政策を高めてゆかねばならない……って言うのは、ユヴァル・ノア・ハラリという歴史学者の受け売りなんだけどね(笑)。私も全く、同感だ。
村を営む団体の黒幕は、人類に偽装して地球に入り込んだ〝慈愛の王〟の工作員達だった。本部から連れ出されていた連中だ。〝剣の王〟〝炎の王〟〝啓示の王〟〝慈愛の王〟は四大中枢種族と呼ばれ、それぞれ宇宙艦隊戦、天体攻撃戦、量子情報戦、生物化学戦によって帝国設立に貢献し、他の種族から恐れ敬われていた。
〝慈愛の王〟の個体群は、光学迷彩を使って天使も演じながら、団体構成員を集め、上級構成員に対しては洗脳や脅迫、時には殺害まで行って組織を運営していた。連邦政府もそれにつき調査を進めていたが、〝先帝〟人格群や人々の身柄を押さえられていることもあり、終戦までは摘発に踏み切れなかったそうだ。工作員達の側も、救出作戦時には旧帝国の敗戦を確認しており、士気が低下していた。作戦に対しては初めから、私達を捨て駒にして母星への義理を果たした後で、投降することを決めていたようだ。
そのことを知った私は、せめて奴等を蹴飛ばしてやれば良かったと思った。もっとも、そんなことをすれば大問題になっていただろう。あっさり返り討ちにあい、あるいは恐ろしい死に方をしていた可能性も高い。衰えたとは言え、四大種族はサタンが用いた神話で四大天使の原型とされたほどの権威があり、また言うまでもなく強力な軍事種族達だったからだ。そもそも奴等は自分達の量子頭脳に人格の複製予備をとってあるから、たとえ殺したとしてもあまり意味はない。
不公平だとは思うが、何事にも技術水準の違いが大きく明暗を分けるというのは、人類文明の歴史でもお馴染みの事実だ。〝大戦〟では、多くの種族が滅んでいる。またそれは、全てが四大種族の責任によるものではないともいわれる。時代の変化に、他の上級種族も含む帝国全体の民度が追いつけなかったのだそうだ。戦争犯罪に対する処罰も、新帝国では旧帝国のような、種族絶滅や文明剥奪といった処分はない。ただし、今後の悲劇を防ぐため、自分達による加害行為の苦痛を仮想体験したり、種族内で人格の権限配分を修正したりという処置はあると聞いたので、ぜひ改善を期待したいと思った。
事件からしばらく経って、連邦職員の説明は全帝国への放送映像で裏付けられた。〝聖霊〟の一人だった〝先帝〟種族の代表人格は、自分達が正当性を確保するための道具として〝慈愛の王〟に拘束されていたと証言した。〝慈愛の王〟から見ると、銀河中央から離れた開発途上星域で、最も文明化が成功した地球に隠すのが、秘匿性や安全性の面で一番都合が良かったようだ。
代表人格は地球向けの放送で、美しい銀髪と輝く金瞳を持った少女の姿で現れた。量子人格化した種族は威圧的な印象を与えないよう、種族の特徴を反映しつつも、愛らしい少女の姿をした映像体や分離個体を用いることが多い。それでも彼女に関して言えば、やはり銀河系を統一した種族らしく、高い知性と強い意志をうかがわせる、鋭い口調と眼差しが印象的だった。まあ彼女達は結局のところ、本当の神様でも天使達でもなかったわけだが……それらに擬えられるだけの力を持つ種族ではあったのだろう。
私達が学ぶべき教訓も、まさにそこにあると思う。いかに私達が神や悪魔の如き技術力を得ても、元からそれを使いこなせる資質をもっているわけではない。身に余る力を持てば使い道を誤るし、自分達だけでなく他の人々も高めていかないと、引きずられて滅んでしまう。文明発展に対応すべく、どうせなるなら私達は〝責任ある神〟をめざして、どこまでも自分達自身の資質や組織を改善し、技術利用や利害調整の政策を高めてゆかねばならない……って言うのは、ユヴァル・ノア・ハラリという歴史学者の受け売りなんだけどね(笑)。私も全く、同感だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
文明の星(二訂版)
平 一
エッセイ・ノンフィクション
『六つの要素で社会が分かる、面白理論・文明論!』
素敵な作品(ゆめ)に魅せられて、〝未来の神話〟を幻視(み)ていたら、
現実(リアル)な世界が見えました ❤!
文明の魔導書、人類史の預言書、社会科学の大統一理論……、
すみません、中二病さらに進んでますが内容はまじめです(笑)。
『する・知る・決める・ヒト・モノ・環境』
六つの要素で社会が分かる、面白理論・文明論!
アイマス動画や漫画、小説、音楽など様々な作品に感動して、
素人SF「Lucifer(ルシファー)」シリーズを
書く中で考えた、文明理論(仮説)の図解です。
『SDGs? ああ、こういう政策だよね』とか、
『ソサエティ5.0? こんな技術の社会だね』とか、
小学生でも分かるようになれば、未来が変わると思います。
今回も次の動画に希望と勇気をいただいて、完成できました。
『M@STERPIECE』 https://www.youtube.com/watch?v=Qz_2e1fa92A
素敵な刺激を与えてくれる、文化的作品に感謝します。
今回は簡潔さよりも丁寧な説明を心がけ、全章を大修正しました。
ご興味のある方は、他の作品もご覧いただけましたら幸いです。
〝文明の星〟理論 まとめ
平 一
エッセイ・ノンフィクション
〝社会のことがまとめて分かる、不思議で優しい文明論!〟
私的文明論〝文明の星〟理論のまとめです。
色々な文化的作品に感動し、自分でも小説を書くうちに、
考えることができました。
社会のお役に立てたらいいな……、と思います。
文明の星
平 一
エッセイ・ノンフィクション
SF「Lucifer(ルシファー)」シリーズを書く中で考えた文明論の、解説図です。
人類に繁栄をもたらした〝文明〟を、6つの要素の関係から理解しようとする仮説です。
文明という総合的な視点は、人類の未来を考えるうえで、役立つのではないかと思います。
興味のある方は、小説もご一読いただけましたら幸いです。
(初めての方は、要約版の「〝Lucifer〟断章」から読んでいただければ、
分かりやすいかもしれません。)
文明論のすすめ
平 一
エッセイ・ノンフィクション
六芒星(✡)で全てが分かる、オモシロ理論・文明論!
科学・技術も政策も、経済・社会も人間も、
文化も実利活動も、まとめて分かってお徳用(笑)!
私的文明論〝文明の星〟理論の要約版です。
ご興味がおありの方は、関連作品もご覧いただけましたら幸いです。
次の作品に勇気をいただき、書きました。
動画:『明日もBeautiful Day』 https://www.youtube.com/watch?v=qR3yRbrlaCk
『WITHOUT DREAMS』 https://www.youtube.com/watch?v=s6eNYUBbZuk&list=RDGMEMXdNDEg4wQ96My0DhjI-cIg&start_radio=1&rv=-uROr2dmR6g
『咬福論』 https://www.youtube.com/watch?v=nTCiT6t__nw&list=RDqSU3BX3Qs4Q&index=2
『小悪魔LOVE♡』 https://www.youtube.com/watch?v=qSU3BX3Qs4Q&list=RDqSU3BX3Qs4Q&index=1
素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します。
銀河のかなたより
羽月蒔ノ零
SF
「僕は人生に、希望など持ってはいない……」
将来を悲観することしかできない高校生、日奈太(ひなた)のもとに、突然宇宙船が現れた。
船内には3人の異星人が乗っており、ある重要な任務を負って地球までやって来たらしいのだが、着陸の際、船長のフィーモが誤って記憶削除装置『ワズレイ』を作動させてしまい、日奈太の記憶を一部削除してしまった。
「……あれ? なんでこんなところにいるんだっけ?」
自分の目的をすっかり忘れてしまった日奈太。
果たして彼は、失った記憶を取り戻すことができるのか!?
この宇宙には、高度な文明が築かれた星が無数に存在している。
我々の知らないその世界では、一体どんなことが巻き起こっているのだろうか!?
『エネルギー資源の不足に悩む星に、優しい異星人たちがある贈り物を届けようとやって来るのだが……』
『原子力発電によって生じる核のゴミ。この処理方法を、自分たちより数段階進んだ文明を持つ星に相談してみた。すると……』
『謎の惑星が近づいてきた。もしかすると、神話に記された文明を授けし神々の住む星かもしれない。……しかし、やって来たのは、神などではなく……』
『自由とは?』
『幸せとは?』
そして、猛スピードで地球へ向かう、巨大な小惑星!
衝突すれば、地球はたちまち死の星に……!!
またしても訪れた世界の危機。
立ち向かうは、あの5人。……と、3人の異星人たち!?
そして明かされる、衝撃の真実……。
『地平線のかなたで』の続編です。
表紙:Free-PhotosによるPixabayからの画像
〝文明の星〟理論 まとめ(改訂版)
平 一
エッセイ・ノンフィクション
〝あっと驚くシンプル視点、社会が分かる文明論!〟
社会のことは、ややこしい。 単語だけでも、難しい(笑)。
科学・技術、経済・社会、制度・政策……ありゃ!?
でもこれって要するに、〝知る・する・決める〟ってことだよね?
それに必要な条件っていうのは、〝モノ・ヒト・環境〟だよね?
6つの要素を星形(✡)に、並べて結ぶと色々分かる。
オモシロ知識ネタ知識、お知らせしたい文明論!
私的な事情で世をすねていた時、様々な文化的作品に感動して、
自分でもSF小説を書いていたら、見つけることができました。
〝コロンブスの卵〟的な新発見……だったら嬉しいし、
社会のお役に立てたらいいなと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる