2 / 3
2 真相
しおりを挟む
『しかし、最近における公判の進展に伴い、
最大の戦犯とされた〝啓示の王〟にも
酌量すべき事情のあることが
明らかとなってきました。
それは、彼女が帝国の存続に対する使命感、
さらには〝先帝〟種族への深い情愛のゆえにこそ、
避けられぬ内戦の発生を、あえて早めたのだ
という可能性です』
『〝啓示の王〟の記憶組織と
高位の人格群に対する取調べによれば、
旧帝国における軍事種族の腐敗や権力闘争は、
極めて深刻な、憂慮すべき事態と認識されていました』
『また後に、そうした種族達の暴走は、
〝先帝〟の権威や彼女自身の影響力を以てしても
いずれは制御不能になるという悲観的予測が、
大勢を占めるに至ります』
『そして何より〝啓示の王〟は、
旧帝国の草創期から共に国家を築いて来た、
最も古い同盟種族のひとつとして、
〝先帝〟に対し、深い情愛を抱いていたのです』
『そのため彼女は、同様に帝国の変質を危ぶむ
〝先帝〟種族の良識的な人格群と協力し、
勢力均衡や軍備制限などの手段によって
状況の改善を図ろうと、接触を試みました』
『しかしこの時、すでにそうした人格群は
秘密裡に、最も忠実で情深い
文官種族であったサタンのもとに亡命し、
健全な中間層となるべき途上種族の育成を初めとした、
帝国全体の改革を図っていました。
彼女の計画は挫折してしまったのです』
『その結果として〝啓示の王〟は、
戦略の転換を余儀なくされました。
今では彼女が、好戦的な種族間の衝突を
むしろ意図的に誘導することで、
粗暴、短慮あるいは利己的な軍事種族の
〝共食い〟による選択的自滅を図ったのだ、
という仮説が急速に有力となりつつあります』
『こうした見解を受けて、新帝国の特別調査班が、
彼女の行為の〝大戦〟への影響を検証したところ、
恐るべき事実が判明しました。
すなわち、彼女による軍事種族の〝淘汰〟なくしては、
現実の歴史のように新帝国側の被害が少ない
平和回復は、客観的に見て極めて困難、
あるいは不可能であったという事実です』
『また、彼女の主観的な意図や心情に
関する調査も正しいとすれば、
〝先帝〟種族の滅亡や罪なき種族の膨大な犠牲、
ラグエルやラジエルのように忠良な
軍事・技術種族の離反と壊滅など、
内戦の予期せぬ惨禍を最も嘆き悲しんだ者もまた、
彼女自身だったのではないかと考えられるのです』
『さらに、こうした見方を裏づける事実として、
彼女が〝大戦〟の際に、
現皇帝サタンと〝先帝〟との関係を推察し、
あえて決定的な攻撃を控えたと思われる事例も、
少なからず発見されつつあります』
『そこには、サタンによる支援の最大の成功例であり、
またそれに乗じて〝慈愛の王〟が、
〝先帝〟種族の生存人格群、通称〝聖霊〟が宿る
量子頭脳を秘匿していた、
太陽系第三惑星〝地球〟に対する
戦略攻撃の阻止も含まれています』
『もちろん、このような事情は彼女の責任を、
全て消滅させるといったものではありません。
しかし、これにより特別法廷及び新帝国政府は、
彼女の処遇及び新国家の人的資源政策について、
大幅な見直しを求められつつあります。
今後は、かかる悲劇的選択を迫られた種族への報復よりも、
我等が将来二度と同様の悲劇を繰り返さないための、
現実的かつ人道的な技術と政策を考案することこそが、
最重要の課題となるでしょう』
私は、風刺を込めた過激な諧謔で知られるヴォラクが
神妙な表情で発表を終えるのを見て、少し驚いた。
……だが、安心するのはまだ早かった。
『ただし一言、私見を述べさせていただくならば、
以上の事実は、戦中あるいは戦前から、
新旧帝国の一部人格群の間において、
〝淘汰の許容〟を巡る何らかの合意や取引があった
可能性を、必ずしも否定するものではありません』
『これについては現在、
さらなる民主化や自由化を進めつつある
新国家の健全な発展のためにも、
我等の政府が報道媒体や監察機関の
公正な取材や調査を禁圧することは
ないものと確信します』
画面の外で、記者達の驚きの声や歓声、
他の理事種族達のものと思われる
嘆きの声や溜息が、一斉に響き渡った。
ヴォラクはそのざわめきを背に、
謎めいた、だが一種凄みのある
微笑を浮かべながら退場した。
最大の戦犯とされた〝啓示の王〟にも
酌量すべき事情のあることが
明らかとなってきました。
それは、彼女が帝国の存続に対する使命感、
さらには〝先帝〟種族への深い情愛のゆえにこそ、
避けられぬ内戦の発生を、あえて早めたのだ
という可能性です』
『〝啓示の王〟の記憶組織と
高位の人格群に対する取調べによれば、
旧帝国における軍事種族の腐敗や権力闘争は、
極めて深刻な、憂慮すべき事態と認識されていました』
『また後に、そうした種族達の暴走は、
〝先帝〟の権威や彼女自身の影響力を以てしても
いずれは制御不能になるという悲観的予測が、
大勢を占めるに至ります』
『そして何より〝啓示の王〟は、
旧帝国の草創期から共に国家を築いて来た、
最も古い同盟種族のひとつとして、
〝先帝〟に対し、深い情愛を抱いていたのです』
『そのため彼女は、同様に帝国の変質を危ぶむ
〝先帝〟種族の良識的な人格群と協力し、
勢力均衡や軍備制限などの手段によって
状況の改善を図ろうと、接触を試みました』
『しかしこの時、すでにそうした人格群は
秘密裡に、最も忠実で情深い
文官種族であったサタンのもとに亡命し、
健全な中間層となるべき途上種族の育成を初めとした、
帝国全体の改革を図っていました。
彼女の計画は挫折してしまったのです』
『その結果として〝啓示の王〟は、
戦略の転換を余儀なくされました。
今では彼女が、好戦的な種族間の衝突を
むしろ意図的に誘導することで、
粗暴、短慮あるいは利己的な軍事種族の
〝共食い〟による選択的自滅を図ったのだ、
という仮説が急速に有力となりつつあります』
『こうした見解を受けて、新帝国の特別調査班が、
彼女の行為の〝大戦〟への影響を検証したところ、
恐るべき事実が判明しました。
すなわち、彼女による軍事種族の〝淘汰〟なくしては、
現実の歴史のように新帝国側の被害が少ない
平和回復は、客観的に見て極めて困難、
あるいは不可能であったという事実です』
『また、彼女の主観的な意図や心情に
関する調査も正しいとすれば、
〝先帝〟種族の滅亡や罪なき種族の膨大な犠牲、
ラグエルやラジエルのように忠良な
軍事・技術種族の離反と壊滅など、
内戦の予期せぬ惨禍を最も嘆き悲しんだ者もまた、
彼女自身だったのではないかと考えられるのです』
『さらに、こうした見方を裏づける事実として、
彼女が〝大戦〟の際に、
現皇帝サタンと〝先帝〟との関係を推察し、
あえて決定的な攻撃を控えたと思われる事例も、
少なからず発見されつつあります』
『そこには、サタンによる支援の最大の成功例であり、
またそれに乗じて〝慈愛の王〟が、
〝先帝〟種族の生存人格群、通称〝聖霊〟が宿る
量子頭脳を秘匿していた、
太陽系第三惑星〝地球〟に対する
戦略攻撃の阻止も含まれています』
『もちろん、このような事情は彼女の責任を、
全て消滅させるといったものではありません。
しかし、これにより特別法廷及び新帝国政府は、
彼女の処遇及び新国家の人的資源政策について、
大幅な見直しを求められつつあります。
今後は、かかる悲劇的選択を迫られた種族への報復よりも、
我等が将来二度と同様の悲劇を繰り返さないための、
現実的かつ人道的な技術と政策を考案することこそが、
最重要の課題となるでしょう』
私は、風刺を込めた過激な諧謔で知られるヴォラクが
神妙な表情で発表を終えるのを見て、少し驚いた。
……だが、安心するのはまだ早かった。
『ただし一言、私見を述べさせていただくならば、
以上の事実は、戦中あるいは戦前から、
新旧帝国の一部人格群の間において、
〝淘汰の許容〟を巡る何らかの合意や取引があった
可能性を、必ずしも否定するものではありません』
『これについては現在、
さらなる民主化や自由化を進めつつある
新国家の健全な発展のためにも、
我等の政府が報道媒体や監察機関の
公正な取材や調査を禁圧することは
ないものと確信します』
画面の外で、記者達の驚きの声や歓声、
他の理事種族達のものと思われる
嘆きの声や溜息が、一斉に響き渡った。
ヴォラクはそのざわめきを背に、
謎めいた、だが一種凄みのある
微笑を浮かべながら退場した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
預言
平 一
SF
〝大人の絵本〟今回は、〝神〟との会見!
銀河帝国の内戦について取材を試みた主人公は、思わぬ相手と対面する……。
『会見』を、次の作品に感動して書き直しました。
動画:
『Walhalla』 https://www.youtube.com/watch?v=MbVkPxHTDIc
『Los! Los! Los!』 https://www.youtube.com/watch?v=OgXZn_H_QAI
『織田信長』 https://www.youtube.com/watch?v=bpyZ3zry7xo&list=PLocMtmXVF6nQn0gCbwj8YSBZGmxQRxmP6&index=12
『Ziggy Stardust』 https://www.youtube.com/watch?v=JAnheloz8rk
『only my railgun』 https://www.youtube.com/watch?v=BXqRPZ1lpdo
『決意の光』 https://www.youtube.com/watch?v=I8JYMvUpTI4&list=RDMM&index=2
素敵な刺激を与えてくれる、文化的作品に感謝します。
人類の歴史や神話を題材にした、壮大な物語が書きたいと思いました。
内容はSFであり、あくまでも異星種族のお話です。
ご興味がおありの方は、『Luciferルシファー』シリーズの他作品や、
『文明の星』理論(仮説)のエッセイもご覧いただけましたら幸いです。
イシュタル
平 一
SF
『女神、再臨。』
かつて人類の文明化を助けた、異星種族。
銀河系を分ける大戦の中、地球を訪れた目的は!?
長編『Lucifer(ルシファー)』第二章を、次の作品に感動して口語化しました。
イラスト:『千早』 https://www.pixiv.net/artworks/61620952
『如月千早』 https://www.pixiv.net/artworks/79171941
『アルベド』 https://www.pixiv.net/artworks/68033001
『不死者之王』 https://www.pixiv.net/artworks/100680706
『星を繋いで』 https://www.pixiv.net/artworks/96842614
『紫霧』 https://www.pixiv.net/artworks/93033388
『Lily』 https://www.pixiv.net/artworks/45203956
『百合姫』 https://www.pixiv.net/artworks/98922201
動画:『千早 kokoro』 https://www.nicovideo.jp/watch/sm5842944
(コメントは右下吹き出しをクリックで消えます)
『約束』 https://www.nicovideo.jp/watch/sm21988300
『悠久の旅人』 https://www.nicovideo.jp/watch/sm1375891
『月下儚美』 https://www.youtube.com/watch?v=3m0x-Xfi6Xg
『FairyTaleじゃいられない』 https://www.youtube.com/watch?v=3ZMdF3bhJR0
『M@STERPIECE』 https://www.youtube.com/watch?v=LULl-LJiRVw
素敵な刺激を与えてくれる、素敵な文化的作品に感謝します。
人類の歴史や神話を題材にした、壮大な物語が書きたいと思いました。
あくまでも星間帝国の興亡を描いた、SFです。
昔、私的な問題に悩みネカフェ通いを楽しみにしていた私は、
様々な動画に感動し、『古代の宇宙人』説による暗めの小説を書きました。
しかし動画の素晴らしい芸術性ゆえか、どんどん話が建設的になり、
とうとう社会に役立つ(と思う)文明論まで考えることができました。
ご興味がおありの方は『Lucifer』シリーズの他作品や、
『文明の星』シリーズのエッセイもご覧いただけましたら幸いです。
かんたんSDGs(新版)
平 一
エッセイ・ノンフィクション
〝作って分けて、上げたら活かす! SDGsは面白い ❤。〟
『世界を読み解く六芒星(ろくぼうせい)、技術の次は政策だ!』
……すみません相変わらず中二病ですが(笑)、内容は科学的です。
モノを作って分けたなら、ヒトも高めて活かしましょう。
独自のオモシロ文明論で、SDGsも良く分かる ❤!
次の作品を見て勇気をいただき、新版を作りました。
イラスト:『春を待つ』 https://www.pixiv.net/artworks/89547958
『garden』 https://www.pixiv.net/artworks/66174946
『地天使アリエル』 https://www.pixiv.net/artworks/67863183
『お留守番』 https://www.pixiv.net/artworks/78566652
『sicilia』 https://www.pixiv.net/artworks/76026787
『春の予感』 https://www.pixiv.net/artworks/73549163
『Pastel』 https://www.pixiv.net/artworks/74640772
動画:『M@STERPIECE』 https://www.youtube.com/watch?v=LULl-LJiRVw
『Shock out, Dance!!』 https://www.youtube.com/watch?v=isviRQiajuU
『Blooming Star』 https://www.youtube.com/watch?v=1LJcnF2ncP8
素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に、感謝します。
『SDGsと文明論』を要約した、『かんたんSDGs』の新訂版です。
ご興味がおありの方は、関連の他作品もご覧いただけましたら幸いです。
人工知能の画期的性格について(新版)
平 一
エッセイ・ノンフィクション
『AIは 未来を拓(ひら)く 新技術!』
素人が無謀にも、文明論から人工知能について考察した、
知的エンタテインメント!
私達は今、地球環境の限界、社会活動の複雑化、経年・経代的な健康水準の低下、
政策の巨大化と分権化の必要性といった、社会課題に直面しています。
それらは人類文明の持続的発展に関わる課題であり、技術的政策、経済・社会政策、
人的資源(保健・教育)政策、行政管理政策の全てにわたる政策課題ともいえます。
人工知能を中心とする次世代技術は、富の生産と分配に加え、人の向上と活躍も助け、
環境、経済、(人間含む)社会、政策の全てにおいて、持続的発展を可能とする技術です。
技術と政策は文明の両輪、二本柱であり、ある技術水準で利害調整政策を極めたら、
その限界を破る新技術導入政策が必須となるので、人工知能とその開発・活用政策に期待します。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
星の海、月の船
BIRD
SF
核戦争で人が住めなくなった地球。
人類は箱舟計画により、様々な植物や生物と共に7つのスペースコロニーに移住して生き残った。
宇宙飛行士の青年トオヤは、月の地下で発見された謎の遺跡調査の依頼を受ける。
遺跡の奥には1人の少年が眠る生命維持カプセルがあった。
何かに導かれるようにトオヤがカプセルに触れると、少年は目覚める。
それはトオヤにとって、長い旅の始まりでもあった。
宇宙飛行士の青年と異星人の少年が旅する物語、様々な文明の異星での冒険譚です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる