来訪

平 一

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来訪

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不思議なインターネット・サイトを見つけた。
検索画面に〝宇宙に興味はありますか?
……文明の星〟と派手な広告が出ていたので、
安全セキュリティソフトの表示を確認して、クリックした。

おりしも月面で異星人との〝最初の接触〟ファースト・コンタクトがあった、
という衝撃的な報道が流れた直後のことだった。
また、なぜか私の国では続報が規制され始めていたので、
科学・SF愛好家ファンの私は関連情報を探していた。

新しい映画か書籍の宣伝と思いきや、画面には
〝文明の星(The Star of Civilization)〟の題名と、
六芒星ろくぼうせい(✡)が円で囲まれた図形、
いわゆる〝ソロモンの印ソロモンズ・シール〟が現れた。



オカルトかSF系のゲームサイトかな?
と思い直して見ていると、
「貴方は地球外文明が存在すると思いますか?
また、それはなぜですか?」という質問が浮かんだ。

興味をひかれた私は回答欄に、
「宇宙の規模や知的生物進化の確率、
文明の想定寿命を掛け合わせた
〝ドレイクの方程式〟からみて、そう思う」と答えた。

するとまた「〝フェルミ・パラドックス〟
という言葉を知っていますか?
またそれは、なぜだと思いますか?」
という質問。

私は再び、「観測技術が進んでもまだ、
知的種族の存在を示す証拠は見つかっていない。
文明の発展や存続をはばむ要因、
〝グレート・フィルター〟の存在も考えられるが、
個人的には、異星種族が人類に対して、
自らの存在を隠しているだけと思いたい」と答えた。



すると即座に、「それはなぜですか?」という質問が、
回答の下に現れた。

私は「知的種族が人類だけというのは、つまらない。
かといって異星種族が敵対的で危険とか、
人類は原始的で交渉にも値しない、というのも嫌だ。
私達を将来の同胞と考えつつ、相互の利益を考えて、
一定の発展段階に達したら接触してくれるような
種族がいてくれるのが、一番望ましい」と答えた。

次に今度は、「あなたが今、
最も知りたいことは何ですか?」という質問。

私は「そうした知的種族の有無や状況、
意図について知りたい」と回答。
すると突然画面が切り替わり、一人の少女が映った。
ゴスロリ衣装で優雅にたたずみ、長い黒髪、真紅の瞳。



知的な眼差まなざしをした彼女はこう言った。
「ご回答ありがとうございます、そして初めまして! 
私がまさに、そんな種族の中のひとつの、代表人格です。 
それでは窓の外をご覧ください」

なあんだ、いたずらサイトか。 
そんなものにはひっかからないぞ!
などと思っていると、
外で人々の叫び声が上がった。
意志力が弱い私は思わず腰を浮かし(笑)、
窓を開けて周りを見渡した。

星が輝く晴れた夜空を、
いくつかの大きな流れ星のようなものが、
ゆっくりと動いている。
私の住まいのちょうど真上を、丸みを帯びた、
銀色の光を放つ巨大な円盤が通り過ぎ、
街のまん中あたりの上空に静止した。



おいおいちょっと、この展開は早すぎないか!?
驚いた私は、再び画面を見た。
すると彼女は、私の動きを知るかのように、
再び説明を始めた。

「かつて銀河系を統一した〝先帝〟種族は、
最も心優しく忠良な文官種族だったサタンに、
当時における人類の皆様を含む、
発展途上種族の文明発達を助けるよう命じました。
彼女は〝先帝〟を神に見立てた神話を広め、
その悪役も演じるなどして、多くの種族を支援しました」
何だかいきなり神話的、文化的にあやうげな話になったぞ。



「しかしその後、好戦的な側近軍事種族の間では、
腐敗と抗争が激化して、ついには内戦が起きてしまいました。
残念ながら、それに巻き込まれた〝先帝〟種族の
母星も破壊され、帝国は崩壊の危機に陥ったのです」
今度はそのうえ科学的、現実的にも危険そうな話だ。

「そこでサタンは未来ある種族達を守り、
星間社会の秩序を取り戻すため、
〝先帝〟種族の生存者や、私達友好種族の
支援のもとに、新政府を設立しました」
いや、だからサタンって……(苦笑)。

「彼女は現在、新興の技術・産業種族や
良識的な軍事種族、さらには基盤元素の異なる
銀河系外周の種族とも協力して、
平和の回復と国家再建に努めています」
つまり、まだ戦争は続いているわけだ。

「内戦を受けて、途上種族との交流条件も緩和され、
今回ご参加いただいた大規模な質問調査アンケートにより、
皆様の技術的・政治的成熟度リテラシーを確認できたことから、
接触方針の変更が決定されました」
私達、人類も巻き込まれてしまうのか?



「新皇帝種族からのご挨拶あいさつを初め、詳細については
まもなく、全地域の皆様に届くかたちで発表される予定です。
これからも順調に人類文明の発展が続けば、
皆様は将来民主化される予定の星間国家において、
必ずや名誉ある地位を占められることでしょう!
以後、新国家の政策によろしくご協力をお願いいたします」
まあ少しでも早く、犠牲少なく戦争は終えてほしい。

「また今回の調査にご参加くださった方は、ご希望により、
政策調査員モニターとして登録いただくことも可能です。
自己紹介が遅れましたが、
私はサタンの同盟種族、バラムと申します。
これからも、よろしくね!」
彼女がにこやかに微笑むと、動画は終わった。

……と思ったが、すぐまた画面が開き、
私はうわ、と驚いて少しのけぞった(笑)。

「あっ、あと私達は悪魔じゃありませんからね。
トップページの意匠デザインも魔法陣とかじゃなくて、
私達が共有する文明の発展に必要な、
〝技術、政策、経済・社会、物資、人材、
自然・社会環境〟という六つの要素を表した、
科学的で実用的な紋章なんですよ!」



ダークな衣装に似合わないほど明るい笑顔で
したに、「それじゃあ、またね!」と
彼女がウインクしてみせると(笑)、
今度こそ本当に動画は終わった。

彼女の言葉は文章としても表示されていたので、
すぐその画面を保存して、再確認を始めた。
歴史的事件に立ち会って興奮した頭の中を、
様々な疑問がめぐった。

幸か不幸か明日は休日、
こうなってしまうともう眠れない。
私はさっそくネットや資料の検索と、
私的な考察あるいは妄想(笑)にのめり込んだ。。

第一は、私達と彼女達の歴史的なつながり、
特に神話との関わりだ。



まず、バラムという名を検索すると「双眸そうぼうが赤く輝き、
過去と現在、未来について正しく答える悪魔」とある。
確かに彼女はそんな瞳と喋り方だったので、そうした
容姿や論理的話法わほうの文化をもつ種族かと思った。

神話以外にも過去に幾度か、
人類と異星人との接触があったとすると、
昔の怪しげな魔導書グリモワールにも、多少の真実が
含まれていたのかもしれない。



ただし元々、神魔の対立はいわば〝教育劇〟だったうえ、
現実には〝先帝〟側近種族の悪行あくぎょうによって、
善玉役と悪玉役の〝天使〟の立場が
逆転してしまった、ということなのだろう。
何だか人類の歴史でも時々見かけるような、
考えさせられる話だなあと思った。

とはいえ、神の原型モデルは銀河系の皇帝種族で、
神話の語り手は魔王役の臣下種族、
堕落したのは〝天使〟とされた側近種族達の方だった!
……というのは確かにややこしい。

この地域で通信規制が行われる一方、
異星人側も質問調査アンケート以外の双方向対話を
避けていたのは、従来の一般的伝承とは異なる
微妙センシティヴな公表内容のせいだったのかもしれない。
規制をかわして理解を得るための方策が、
事前調査と電撃訪問だったというわけだ。



しかしまあ、どんな科学や事実も越えて、
心の救いを与えてくれるのが神話の効用だ。
異星人が神話を広めたからといって、
彼女達は伝令に過ぎないともいえるし、
善行奨励ぜんこうしょうれいの教えに変わりはないのなら、
神話自体の否定にはならないと思うが……。

第二は、いま私達の前に姿を現した彼女達の正体、
すなわち生物・社会学的な特徴だ。

恒星間航行ができるぐらいだから、
通信規制をくぐるくらい造作ぞうさもないだろうが、
異星種族が人類と全く同じ姿というのは考えにくく、
画像は本当の姿ではない可能性が高そうだ。



〝代表人格〟という用語や、
他の種族を〝彼女〟と呼ぶ表現からみると、
量子頭脳への人格転移マインドアップローディングを達成済みかもしれない。
となれば当然、その映像や再転移ダウンロード用身体の属性も、
自分達や相手方の必要や好みに応じて
自由に最適化できるはずだ。

そうしたあり方は、自分達自身の生命活動さえも
変換・再現・改良できる高度な技術を持ち、
広大な宇宙の多様な環境にひろがり住んで、
複雑高度な経済・社会活動を営む星間文明に
とっては、必然の流れなのではないか……。
私は以前から常々つねづね、そう思っていた。



〝同盟種族〟という言葉を使っていたので、
バラム自身は軍事種族という可能性もある。
一体どんな戦いを行っていて、
今の戦況はどうなっているのだろう?
古代の地球を訪れて神や悪魔を演じることができ、
以後も発展を続けてきたような連中同士の戦争だ。

エドワード・E・スミスやエドモンド・ハミルトン、
グレッグ・ベアの名作SFを読んだ時の記憶が蘇った。
負の物質球ネガスフィア空間破壊砲ディスラプター、さらには
より〝効率的〟な遠隔素粒子操作ノアク兵器……、
惑星や恒星、星域さえも破壊できるような
超兵器を思い出して、ぞくりとした。



第三は、彼女達の文明の意図と能力から
予想される、今後の人類との関係だ。

六芒星ろくぼうせいの紋章に示された文明観を調べてみると、
呆気あっけないほど単純なもので、逆に言えば
それだけに手堅く、普遍的ふへんてきなもののようだ。
知る・する・決めるという3つの文明活動と、
ヒト・モノ・環境という3つの内外環境条件を、
モレなくムダなくバランスよく、組み合わせている。



だが意外にも、六芒星の各頂点に置かれた
〝文明の六要素〟を色々と結んでいくだけで、
実に多くのことが分かると気づき、衝撃を受けた。

全ての人々が営む文明活動の本体は、
中心から見て下にある経済・社会活動だが、
右上の技術が富を生んでそれを豊かにし、
左上の政策が富を分けてそれを健全に保つ。
ただし、その経路ルートはひとつではない。

右下には技術利用に必要な物的資源、
左下には政策実現に必要な人的資源、
真上には新技術導入に必要な自然・社会環境が入り、
これら3つの環境要因が3つの文明活動に関わってくる。

また、技術も政策も広い意味では
社会活動の一部であると考えるなら、
技術と政策の助け合いもありうるし、
技術自身、政策自身を助けるルートもありそうだ。

すると両者が社会を助けるルートは、
社会への直接ルート、必要条件を得る間接ルート、
相方あいかたへの互助ルート、自分への自助ルートの4つとなる。
それらを矢印で書き込んでいくと、見事なまでに美しく、
左右対称な〝文明の構造システム〟が現れる!

すなわち……
社会を変える画期技術、施設や製品に実用化する実現技術、
政策を助ける社会工学的技術、技術を生む研究・開発技術。
社会に働く経済・社会政策、保健・教育など人的資源政策、
技術を助ける技術的政策、政策を高める行政管理政策だ。



しかし人為的じんいてき構造システムには、何らかの機能ファンクションもあるはずだ。
歴史的な時間を動かして見たときに、
そうした〝仕組み〟はどんな〝働き〟を見せるのか?
紋章を見つめながら、私はさらにその意味を探った。

技術が物的資源に具現化すると、社会が変わる。
社会活動が拡大・省力・複雑・加速化すると、
より高度な利害調整のための政策が必要になる。
でも人的資源が向上すれば、
必要な時は大勢で動けるが、衆知も活かせるようになり、
政策を高度化できる。

そこで政策は国際化や全地球的統治グローバル・ガバナンスなど広域化する一方、
民主化・自由化・地方分権・人権保障など分権化する。
しかし文明の発展は、そこでは終わらないだろう。
知的生物の好奇心や向上心に、際限はないからだ。

政策がある技術段階で利害調整を極めたら、
その限界を突破するため、
資源や市場などの自然・社会環境を考えながら、
次世代技術の導入も促さねばならない。
技術が進歩するほど、その開発には人材ヒト物資モノ
資金カネといった政策的な支援が必要になるからだ。

そこまで考えた私は、あらためて驚いた。
彼女達の紋章は確かに〝科学的で実用的〟なもので、
技術→社会→政策→技術……の順に文明が発展する、
〝文明の循環サイクル〟も示している!



分かってみれば〝コロンブスの卵〟というか、
どうしてこれまで誰も気づかなかったんだろう?
とさえ感じる。
いや、もしかすると人類の社会でも、
有識者達の間では〝知る人ぞ知る〟たぐいの
役に立つ知識だったのかもしれない。
そこで私もその理論を逆用して、
彼女達の文明がどのようなものかを推測した。

軍事力を背景とした専制国家が拡大するうちに、
商工業や社会事業が発展し、生活水準も高まることで、
全体としては民主化や自由化に向かっていくというのは、
人類史でもお馴染なじみの歴史的な流れだ。
技術が進めば社会活動は拡大・複雑化などしていくので、
政策も広域化と同時に、分権化していくというわけだ。

ただ、その循環サイクルを繰り返してきた文明の力は、
相当なものだろう。
文明の両輪である技術と政策にできること、
すべきことは、加速度的に増えていくからだ。



まず、意思あるAIと化しているなら、技術力は圧倒的だ。
技術をおおまかに2種類に絞って見ても、
社会を助けて繁栄と安全を得る自然科学的技術と、
政策を助けて人々を動かし、公正さと効率性を増す
社会工学的技術、いずれも桁違けたちがいに強力だろう。

技術による文明発展の健全性を保つ、政策でも同様だ。
同じように政策をざっくりと2種類にまとめて見ると、
ある技術水準で社会に働きかける利害調整政策に加え、
新たな技術の適切な開発・普及を助ける技術的政策も、
大規模、迅速、高度で説得力があるはずだ。

彼女達との交流や交渉は、大変そうだと思う。
〝実力と正当性は政治の両輪〟というのは
政治学の初歩だそうだが、
私達人類は、いきなりどちらも凄腕すごうで師匠ししょう達が
ずらりと居並び、一同切磋琢磨せっさたくまする名門道場に
放り込まれたようなものだ。



しかし、そんな心配によるばし効果(?)もあってか、
彼女の姿は実に美しく想い出された。
おお神様……SFファンの私には、どストライクです!
実際の姿は知るのが恐ろしい気もするが、
それさえギャップ萌えオタクにはむしろ御褒美ごほうびです
……って、そっちかよ!みたいな(笑)。



私的な趣味はさておき(笑)、客観的にも悪い話ではない。
少なくとも現時点で、彼女達に悪意は見受けられず、
友好的な意図を持ち、健全な発展を目指す文明のようだ。
将来的には平和が戻った星間社会で、
技術や産業、政策、文化面での交流ができるなら、
むしろ明るい未来への可能性が開けたと思う。

初めは厄介事やっかいごとに巻き込まれたか?という心配もあったが、
異星人はいると分かったし、他にも関係者は大勢いるし、
もはやどのみち全人類は一蓮托生いちれんたくしょうだ。
地球全体として、対処するしかない問題だろう。

……気がつくと、白々しらじらと明け始めていた。
バラムの代表者による未来予測が当たることを願いつつ、
そろそろ寝ようかと思っていると、
新たな画面が勝手に開き、大きな題字が現れた。

来たよ来ました、〝新皇帝からのご挨拶あいさつ〟!
動画を見ると、何と栗色のおかっぱ頭をした、
とても可憐で健気けなげな感じの女の子が、
優しく愛らしい声で話し始めた。



「親愛なる人類の皆様、はじめまして。
私は銀河帝国の新皇帝種族、サタンの代表人格です。
美しく、見事に発展した地球を再び訪れることができ、
私の心は懐かしさと、嬉しさでいっぱいです……」

まあ、私みたいな萌え愛好家マニアは増えたからなあ(苦笑)。
いつもより明るい星空を見て、私は再度心から願った。
どうか人類が〝新銀河秩序ニュー・ギャラクティック・オーダー〟のもとでも
星間社会に貢献し、幸せな未来を得られますように……。

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