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二回目の初めまして
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しおりを挟む庵様はインを結んだまま、決して堕ち神から視線を逸らそうとしない。だから、私も怖いけど同じようにしっかりと堕ち神の方を見上げた。
時たま唸り声が聞こえてくるから、口とか、他にも目とかあるはずなんだろうけど、全身が黒い塊というだけでそれらはどこにも見当たらない。元が神様だって教えられていないと悪霊だって思っちゃっても仕方ないと思うくらいの姿と成り果てている。
でも、神と崇められたものの行く末に、なんだか物悲しさと共に、聖女とまではいかなくても持て囃され最期には処刑された私自身と重ねてしまう。
私だって、こんな風に庵様と再び会えていなかったら復讐してたかもしれない。だって、赦せないもの。アノ人と一緒に暮らす一生を奪った人達が。私の幸せを奪い、その上さらに処刑が決まれば手の平を返すように何も行動を起こさなかった人達が。
今さらだけど、思い出したらむしゃくしゃしてきた。今はそんな場合じゃないのに。
「璃桜、大丈夫?」
ついつい鼻息が荒くなってしまった私に、目線はそのまま保ちつつ庵様が心配そうな声で問いかけてきた。
「大丈夫です。ごめんなさい」
「いや、謝らなくていいよ。それより、璃桜、ここら辺に人の気配があるか分かる?」
「はい。……います! 道向こうから、二人組!」
耳や鼻、目といった五感が人であったときに比べ何倍も良くなっているし、そんなに離れていなければ気配も感じる。それらの力をフル活用して庵様からの指示に答えた。
「……やっぱり、ひとまずここを離れよう。走るからちゃんと掴まっててね」
「はい!」
首を絞めないようにしつつ今まで以上に掴まって大きく返事をした。それに庵様は口元に笑みを浮かべて小さく頷いて返してくれた。
そして、それが合図だったかのように次の瞬間、庵様はインを解いてポケットから取り出した呪符から狐火のような炎をポンポンポンっと三つ出した。
炎は堕ち神の方へ飛んでいき、フワフワと堕ち神の周りを色々な速度で飛び回っている。それに堕ち神が気づき、手を伸ばそうとする仕草を見せた。
「よし、興味を持った。行くよ、璃桜」
「はい!」
三つの炎が私達の方へ戻ってきて周りを取り囲んだ。堕ち神がそのままこちらへ歩み寄ってくるのをほんの少しの間目で追いかけ、庵様はさっき私が言った方とは真逆の方へ走り出した。
このまま走ると、確かこの先は河川敷。まだ夕方だけど、背の高い葦がたくさん生えているせいで人の姿はほぼない。絶好の場所だ。
「ハァハァハァ。……っ、ハァー」
全速力で庵様が走ってくれたおかげで、そう時間が経たずに河川敷に到着した。やはり人はいそうにない。
「大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと息が切れただけ。大丈夫。……それよりも」
息が乱れた庵様の後ろから私達を、正確には炎を追いかけてきた堕ち神の姿が河川敷を普段のソレとは全く違う異質なものに瞬く間にしていく。
河川敷にいた害のないアヤカシ達は我先にと逃げ出してしまったのだから、やはり堕ち神というのは放っておいてはいけないものなんだろう。
「祀られなくなり、忘れられて。怒り、恨む気持ちも分かるけど、人間へ悪影響を与えるなら僕らは還さなきゃいけないんだよ」
そう言う庵様はいつもよりどこか辛そうだ。
もしかすると、本当はこんなことやりたくないのかもしれない。だって、こんな姿になってしまったとはいえ、元は人の生活を守ってくれてた神様だもの。
心優しい庵様のことだから。きっとそうに違いない。
「庵様……あっ」
今まで緩慢な動きだった堕ち神が今までで一番俊敏に動いた。動いたといっても影を飛ばした方だけど。
それでも、私はまんまとその影に捕まってしまった。そのまま堕ち神の中へ引きずりこまれるのがスローモーションみたいによく分かった。
「璃桜!」
庵様が咄嗟に手を伸ばしてくれたけど、指先を掠めただけですり抜けた。
すぐさまインを組んで何やら呪文みたいなのを唱え始めた庵様だったけど、さすがに間に合わない。
「庵様っ!」
私には構わないで下さい。
そう最後に叫んだけれど、深く暗い深淵に飲まれたのが先だったから、もしかすると聞こえていないかもしれない。
あぁ。
邪魔にならないようにって頑張ろうとしたのに、ダメだったなぁ。
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