159 / 314
本当は怖い賑やかなお祭り
9
しおりを挟む「んんっ」
土石流の轟音の中、ともすれば聞き逃してしまいそうな咳払いがすぐ背後から聞こえてきた。
なんだなんだ? 今度は誰?
オネェさんから少しだけ目を離し、そちらへ目をやった。
「あっ!」
「まったく。君、厄介ごとを自分から引き起こしてるっていうこと分かってる?」
「千早さま!」
「都で留守番だったはずなのに、急遽呼び出される僕の身にもなってよね? ……だから甘えないってば!」
「ぎゃうっ」
まさかの救世主登場に、ついついしゃがんで抱きつこうとした。
けれど、頬をムイッと押され、それは叶わず。代わりと言ってはなんだけど、冷たぁい視線が送られてきた。
「ここは僕と彼がなんとかするから、君はあっち。分かった?」
「……はい」
千早さまが指さす先にいる神様。
同類というか同業というか、同じ神様が二柱も降り立ったのに、何の反応も見せず、ただただ眼下を見下ろしている。
「さて、と。私もせっかく来たんだからお仕事しなきゃね。雅ちゃん、貴女ならきっと大丈夫よ」
「うん。行ってきます!」
オネェさんと千早様が二人で私が張っていた結界を上塗りしてくれたおかげで、土石流は完全にせき止められている。新たな場所から土石流が起きても、この二人がついていてくれるなら全然問題ない。
私はこの場を二人に任せ、神様に走り寄った。
何も聞こうとしていないから、きっとどんなに呼びかけても無理だろう。
だったらもう好きにやらせてもらおうじゃないか。
神様の隣に立ち、神様の顔をこちらに向ける。
片手を頬に添え、もう片方の手を大きく振りかぶり……。
「ほんっとごめんなさーいねーっ!」
バチーンと鈍い音が一瞬響いた。
神様平手打ちしちゃったけど、ちゃんと謝ったよ。棒読みだけど。
だから、後でひいおばあちゃんにチクるとか無しでお願いしまーす。
それまで濁った眼をしていた神様の瞳は、瞬きをしているうちに僅かに色が戻ってきた。
それならこっちのもんだ。
「私のうきうきわくわく温泉旅行返せ!」
あ、違った。間違えた。
本音が先に出ちゃったんだけど。
「……土石流起こそうとするのやめて! 大事なんでしょ? 人も、土地も、思い出も」
そうそう、こっちこっち。
ハッとした顔つきを見せたかと思えば、神様の視線は千早様達がいる方へ向けられた。
「神様。あのね、私、思うの。神様もここの人達も両方悪い。だから、両方に罰を受けてもらおうって。神様はもう罰を受けた。だって、神様が大事にしていた自然がこんなになっちゃってるんだもの。だから、次は人の番。大丈夫。この国の帝様は立派な帝様だから」
帝様は優しいけど、時にとっても厳しくなれる人だ。それに、橘さん達もついている。悪いことをした人間は絶対に見逃さないよ。
だから、さ。
「神様は堕ちちゃダメ。怒りを鎮めてさ、在るべき場所に帰ろう?」
そして、もう一度この土地の人達とこの地を盛り立てていってくれればいい。
そのためには神様が正気に戻ってくれることと、神様の言葉がきちんと正確に伝わることが大事だ。
もちろん、私も協力しよう。
「約束。この土地の悪しき風習は繰り返すことなくもう終わる。終わらせられる。信じられないなら誓約書でも書く?」
「必要ない」
……ふぅ。いつからいたのさ。
アノ人が何もないはずの宙からいきなり降ってきた。
むむ。
無表情ながら呆れてる? いや、責めてる?
うーん、分からん。
「お前は似らずとも良い所がアレに似た」
「アレ? お母さん?」
「あぁ」
驚きに目を見開く神様へ、アノ人はいつも通りの感情の乗らない瞳を向ける。
すると、冥府の元主宰神というのはこの世界でも偉いのか、神様がビクリと身体を震わせた。
……同じ神様に怖がられるって、冥府ってやっぱり怖いところなのかなぁ?
そりゃ、生きてる間には行きたくない場所だけどさ。
……っとと、危ないなぁ。
アノ人に肩をサッと抱き寄せられ、たたらを踏む。
抗議してやろうとアノ人を見上げると、アノ人は真っすぐ神様を見ていた。
「そなた、吾子がこのように約定を持ちかけたと言うに、よもや聞けぬとは言うまいな」
「……っ」
「吾子も神と人の混じりがあるとはいえ、神の血を引き、神の力を行使し得る者。神が持ちかける約定がどのようなものかは、そなたもよく知っているだろう」
あのー、“やくじょう”ってなに?
コノ人ってば、難しいことばっかり言うから話が全然分からない。
約束だよ、約束。
そりゃ神様にする約束なんだから結果を出すために生半可なことではいけないけれど。
しかも、神様脅すような真似はしないでよ。
さらに言い募ろうとする素振りを見せるアノ人の袖を引いて黙らせた。
「神様、一度だけでいいんです。もう一度、信じてみませんか? 人を」
「……」
神様は俯いてしまい、何も言わない。
でも、千早様達が抑えててくれた土石流は、やがて小さな石が一つ、最後に落ちてきて止まった。
0
お気に入りに追加
822
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?
ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。
が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。
元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。
「やはり、魔王の仕業だったのか!」
「いや、身に覚えがないんだが?」
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる