ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅

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幽霊の正体見たりなんとやら

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 とりあえず、食事は一時中断で。

 袋を橘さんに預け、院長先生の前に出た。


「いんちょーせんせ。ほら、みえる? みーんなおこってるよ?」


 私がそう言うと、誰かが何かしたんだろう。

 院長先生の身体が宙に浮いた。


「ん、んーっ! んー!」


 首を左右に激しく振り、恐怖からか涙をボロボロとこぼし始めた。

 怖いでしょ。恐ろしいでしょ。
 でもね、あの子達はもっと怖かったし、痛かったし、恐ろしかったんだよ?


「たくさんのひとたちをじぶんのよくのためにきずつけるなんて、よくないよね? ね、せんせ。いんがおーほーってことば、しってる?」


 そんじゃまぁ、いくよ、千早様。


「かーごめ、かごめ」


 院長先生の周りを、うんと手を伸ばして繋いだ私と千早様が回る。

 いつの間にか、部屋の中が暗くなっていた。


「かーごのなーかのとーりーは」
「いーついーつでーやーる」


 傍で見ていたオネェさんも面白がって一緒になって歌い始めた。


「よーあーけーのばーんに」


 あ、院長先生、気絶しちゃった。


「神隠しの歌とも言われるその歌をお前達が歌うなど、シャレにならん」


 鳳さんが眉を寄せてこちらを見てきた。


「かみかくしなんてできないよー?」
「狩野の娘を東の屋敷から飛ばしたと聞きましたよ。あれも一時的な一種の神隠しでは?」
「あぁー」


 そんなこともあったねぇ。
 その時も今回も、我ながらいい仕事をしたよ。


「じゃあ、みかどさま、あとはよろしくおねがいします」
「うむ。任された」


 気絶なんか、いつまでもはさせてやんないよ。はよ起きて。

 院長先生の顔を往復ビンタで叩き、無理矢理起こした。


「さて、院長。この一件、どう申し開きする?」


 橘、と、帝様に声をかけられた橘さんが院長先生の猿轡をほどきにかかった。


「へ、陛下っ! これは私だけでしたことではありません! 他にも大勢関与していて……あっ! 関与していた者全員の名をお教えします! ですから命だけはっ!」
「命いをしろとは言っておらぬ」
「状況からかんがみるに、あなたの死刑はまぬがれません。せめて、最後なりとも国のために役立ちなさい」
「い、嫌だっ! 死にたくないっ!」


 普段の優しい声音はどこへやら。
 為政者いせいしゃとその側近に相応ふさわしい冷たく低い声で院長先生を突き放した。


「あら、死にたくないならとっておきの場所があるわよ? この中に一緒に入る? 永遠に近い中、あんたとその仲間達が奪った命と共に過ごせるわ」


 都槻さんがふところから小瓶こびんを取り出してフルフルと振って見せた。


「ひぃっ!」


 いつも思うけど、悪人ってなんでつかまるとこっちが悪者みたいな感じになるような悲鳴を上げるんだろう?

 同情の余地がないだけに、なんだか余計ムッとする。

 でも、今、この人は帝様が御裁き中の人だから、我慢だ我慢。


「それに、しゃべらなくてもいいのよ? 喋りたくないヤツを喋らざるを得ないようにする術なんていくらでもあるもの」
「……本当に私怨のかたまりだね」


 ん? さっきから都槻さん、妙に院長先生に突っかかるなぁって思ってたけど、何か個人的な恨みでもあったの?

 千早様にこっそり尋ねたら、なんでもないと返されてしまった。

 ちぇっ。口に出したんなら教えてくれたっていいのにさ。
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