ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅

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それぞれの道

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「ねぇねぇ。かおるおにーちゃまのごはん」


 パリィィィィン

 な、なんの音!?

 身体がビクッと飛び跳ねたのを見とがめた薫君が、頭をポンポンと撫でてくれた。そして、膝の上から私を降ろし、音がしたバッグヤードの方へ足早に向かう。
 私もその後を追いかけた。


「ちょっと、何の音?」


 薫君が開けたドアの向こうに、黒木さんと後ろを向いた瑠衣さんの姿が見える。
 ひょっこりと薫君の脚の後ろから顔をのぞかせて中の様子をよくよく見ると、さっきの音の原因だろうお皿が粉々になって床に散らばっていた。


「なにこれ。チビ、そこの線から中に入っちゃダメだからね?」
「あい」


 そう私に言い含めると、薫君は中に入って黒木さん達の間に立った。


「ねぇ、聞いてる? ……なんで泣いてんの?」
「えっ!? るいおねーちゃま、ないてるの!?」


 思わず中に入ろうとした私の身体を、橘さんが後ろから抱き上げた。


「破片がどこまで飛んでいるか分からないので、貴女は入ってはダメですよ。薫さんにも言われたでしょう? 陛下もそちらでお待ちください」
「分かっている」


 帝様も私達の後ろに来ていた。千早様やアノ人はテーブルに着いたままだ。
 瑠衣さんが泣いていると聞き、奏様も椅子から立ち上がり、こちらへとやって来た。


「ちょっと失礼」


 奏様は私達の横を通りすぎ、瑠衣さんの正面に立った。


「ゔぅー」
「大丈夫よ。少しあちらで落ち着きましょう。……こっちは任せて」
「……すみません」


 バッグヤードの奥にある透明な壁で仕切られた、駅にある喫煙者のための小休憩室みたいな部屋に目をつけ、奏様が瑠衣さんの手をひいてそちらに歩いて行った。
 二人が中に入ると、ブラインドで目隠しされ、中の様子は分からない。

 黒木さんは瑠衣さんが中に入るまでその背を黙って見ていたかと思えば、しゃがみこんでお皿の欠片かけらを掃除し始めた。

 “黒木さんが瑠衣さんを泣かせた”

 今までに何度も喧嘩している姿を見てきたけど、いつも勝気な瑠衣さんが涙を見せることなんてなかったのに。


「雅ちゃん。そんなに眉間に皺を寄せないで欲しいな」
「すきなこいじめ、よくないよ」
「いじめてなんかいないよ。これはね、僕達にとっては避けて通れない道なんだよ」
「さけてとおれない? まわりみちもだめ?」
「ずっとそうできたら良かったんだけどね。僕達の回り道はもう終わったんだ」
「うーん」


 黒木さんが言っている意味だけど、恋愛経験とぼしい私にはピンとこない。
 でも、今の事態は私の不用意な言葉が引き金となってしまったことだけは疑いの余地がない。他の人の恋愛話に首を突っ込むとロクなことがないっていうけど、本当だったんだ。

 夏生さん、私、本当に悪い子だ。
 綾芽、私、馬に蹴られて死んじゃうかもしれない。

 そんなことをグルグルと考えていると、黒木さんと一緒に欠片を拾い集めていた薫くんがパンパンっと手を払って立ち上がった。


「別に、泣かせようが何しようが黒木さんなら構わないけど、今度からチビがいる時はやめてくださいね?」
「分かったよ。雅ちゃんも、驚かせてごめんね」
「んーん」
「チビ、お前もこの世の終わりみたいな顔しない」
「あい」


 恋愛ってさ、難しいね。みんなが笑ってできるならいいのにね。
 家族以外にも大好きな人が増えて喜んでいる私程度だと、まだまだ“恋愛”という二文字は早いらしい。

 ほんと、難しいね。
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