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思わぬ時期の里帰り
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彼女の行方が分からなくなってから半日が過ぎた。
当初は例の高官の娘の家に連れ去られたと思って綾芽さん達が乗り込んだけれど、結局彼女は見つからず。
夏生さん達の苛立ちは最高潮に達している。
「くそっ!」
目星をつけていた場所のうち、残る一つでも彼女は見つからなかった。
そう報告すると、夏生さんは机に拳を打ち付けた。
「なんで肝心な時にチビの親父はいねぇんだよ!」
海斗さんがダンッと刀の鞘を畳に突き立てる。
「綾芽はどうした?」
「綾芽なら、あの女から情報を聞き出すってあの屋敷に残ってる」
「戻るよう連絡しろ。時間の無駄だ」
「でもよ! ぜってぇあの女だろ!」
「これだけ探して見つからなかったんだ。これ以上はあの家を刺激することになりかねねぇ」
「……チッ」
服のポケットに手を伸ばした海斗さんはそのまま立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
ガリガリと頭を掻く夏生さんを見ていると、俺も今すぐあの子を探しに戻りたい衝動にかられる。
けど、ダメだ。俺の役割は伝令で、まだ次の指示をもらってない。
それに、こんなところで統率がとれなくなるような俺達じゃないし、指示が飛ばせなくなるような夏生さんでもない。
せめて、あの子の居場所がすぐ分かるだろう、あの神様が現れさえすれば。
……あ。
「夏生さん、いい?」
「あ? なんだ? 今、次の手を考えてんだ。しょうもないことなら後にしろ」
「ちがう。かみさま、あのこのなにか、おびきだす」
「おびき出す? あぁ、その手があったか! 子瑛、でかした!」
あれほどあの子に嫌われてもへこたれずに寄ってくる神様のことだ。
彼女の何か、そう、特別な写真とかでおびき寄せられれば、もしかするともしかするかもしれない。
「よし、巳鶴さんとこ行って、例のブツを二、三冊もらってこい」
「明白了!【分かりました!】」
ようやく一筋の光が差し込んだ気がする。
部屋を辞去する挨拶もそこそこに、離れへとひた走った。
離れにつくと、逸る気持ちをそのままに戸を叩く。
すぐに巳鶴さんが顔を出し、事の成り行きを説明すると、奥からあの子が毎日つけている例の日記を持ってきてくれた。
「私も行きます。悠長に研究なんてしている場合じゃありませんからね」
「は、はいっ!」
巳鶴さんと二人、夏生さんの部屋に戻ると、海斗さんが部屋に戻ってきていた。
「おい、あの親父をあいつがつけてた日記で釣るんだって?」
「このような事態が起きているなら仕方ありません。二冊ほどでしたら喜んで提供しますよ」
巳鶴さんから夏生さんに日記が手渡される。
残る問題は、あの子が呼べばあの神様は当然来るけれど、俺達が同じように呼んでも果たして来てくれるかどうかってことで。
「夏生さん、最近そっちの方はご無沙汰すぎて忘れてねぇか?」
「ぬかせ。俺はお前らと違って週一の祭事にも欠かさず出席させられてんだよ」
「それはそれは、お頼もしいことで。じゃ、ひとつよろしく!」
そうだった。
俺達、四部隊の職務はこの都の守護。それは何も悪人からだけではない。
俺がこの国に来て、ここに配属されてから両手で数えるほどしかない事案。それは、人とは異なるモノが関わるもので。
数が少なすぎてつい忘れそうになってしまうけれど、やはり夏生さんは真面目だから、そちらの仕事もちゃんとこなしていたらしい。
庭に降り立った夏生さんが冊子を懐にいれ、手を合わせる。
パンっと高らかに柏手を鳴らすと、言霊を紡ぎ始めた。
「あ、おい、見ろ!」
しばらくすると、庭に大きな赤門が現れた。ギィーッと音がして、ゆっくりとこちら側に向かって開いていく。
夏生さんも唱えるのをやめ、その門が開かれていく様子を黙って見つめている。
その門をくぐってコチラ側に出てきたのは、見たことのない綺麗な女性と、あの子の父親。
それから。
「ただいまっ!」
「チビっ!」
元気なあの子の姿だった。
夏生さんの邪魔にならないようにと庭には降りていなかった俺達も、庭に降りてあの子の元に駆け寄る。
巳鶴さんがあの子の身体に怪我がないか服の下をめくり、念入りに確かめた。どうやら怪我はないようで、彼女もニコニコとしている。
「おまっ! 今までどこ行ってたんだよ! 心配してたんだからな!?」
「ほんと? ごめんしゃい。あのねー、アノ人のおともだちのところに行っててね、オネエさんとおともだちになったの。それから、おうちにもかえっておかあさんとあってきたよ」
「はぁ? 意味分かんねぇけど……とりあえず、お前が無事で良かったぜ」
海斗さんが彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でつけた。
それを嫌がりもせず、むしろ嬉しそうにエヘヘと笑いながら海斗さんに抱き着きにいっている。
「おい。その懐のモノ、我に寄越すつもりだったのであろう? 早うこちらへ」
「あ? ……あぁ、ほらよ」
夏生さんの呼びかけに応えて現れたのか、それとも偶然戻ってくるタイミングがあっただけなのか。それはまさしく、神のみぞ知る。
それでも、あの子が無事に帰ってきてくれたのならば、何ら問題ない。
元々あげるつもりだったこともあって、夏生さんは懐から取り出した日記を彼女の父親にすぐに渡した。
一応、内緒の取引という感覚はあるのか、彼はあの子の方を気にして、受け取った後すぐに着物の袂に隠していた。
「あやめはー?」
「もう戻ってくると思うぜ?」
「そっか!」
それじゃあ、俺も他の先輩達に彼女が帰ってきたことを教えて回ろう。
夏生さんに視線だけで合図を送り、その場を後にした。
……おかえり、雅。
無事に帰ってきてくれて、本当に良かった。
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