ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅

文字の大きさ
上 下
274 / 314
心の中で舌を出す

9

しおりを挟む

「……結果から申し上げると、その方法はある意味成功するし、ある意味失敗するからです」


 成功するし、失敗する?
 それってつまり、結局は失敗するってこと?

 綾芽に関係することでもあるから、よぉく聞いて、ちゃんと理解しなきゃ。……メモ……メモ帳とペンはぁ。

 うさちゃんリュックの中をガサゴソと探っている間にも、コリン様は話を続けていく。


「まず、その術を行った時点で、実行者と依頼主は自らのたましいを抜き取られます」
「その段階でか」
「もちろんです。すでにこの世にないモノを呼び出すだけでなく、生き返らせるなど、それだけの代償だいしょうを支払ってしかるべき行為ですから」


 依頼主はあのおじいさんでしょ? 
 なら、実行者は……皇彼方? でも、自分の命を差し出すような真似、するかなぁ? むしろ、とる側。うん、そっちだとしっくりくる。あの一緒にいる栄太ってお兄さんも違うよなぁ。

 じゃあ、誰?

 でも、肝心の実行者が誰なのかはおじいさんも知らされていないらしく、名前が出ることはなかった。


「それに、いくら雅ちゃんが力を込めた珠を核にしたとしても、実際は力を込めた間の期間、今回だと二週間程度しかその術はたもてません。つまり、二週間後、生き返ったソレは再びこの世を去り、同時に器にされていた者も一緒くたに引っ張られて命を落とします。ですから、その時点では成功するでしょうが、後々失敗に転じるというわけです。我々が間に入らなくてもそこまでの代償を支払わされるのであれば、我々としてもそれ以上どうこうする理由がありません」


 メモは諦め、帝様に抱っこされたままの櫻宮様の方を見上げる。櫻宮様は退屈になって来たのか、ただ黙って帝様の胸に身体をもたれかけていた。

 皇彼方が珠を取り出しに来ると言っていた日まで、あと四日。我ながら、朝昼夜一日三回の大仕事もちゃんとこなしてこれている。
 でも、それがそんな計画の一端……ちょっと重要っぽいところをになっているのかと思うと、このまま力を込め続けるのもなんか、うーん。
 そうしないと櫻宮様の命が危ないっていうから、やるけどさ。なんか、ねぇ。こう、利用してやろうって感じがどうも気に食わない。


「あのじーさんの口ぶりじゃ、そんなことまで理解していたとは思えんがな」
「あぁ。皇彼方のことを信頼はしていないが、信用はしていたんだろう。だから、ヤツが仕掛けた策にまんまとはまった」
「まったく。孫娘のためとはいえ、あんな野郎の手を借りるなんてどうかしてやがる」
「せりさんがどうかしたの?」
「あ? あぁー、いや、なんでもねぇよ」


 夏生さんが包みの中から小瓶の束を取り、巳鶴さんへと手渡す。そして、自分はレオン様からだという鏡を取り、後のお菓子が入った包みをずいっと私の方へ押し戻した。


「ほら、ガキは向こうで菓子でも食ってろ」
「えぇーっ。またそうやってのけものにするー。おかしのつめあわせでごまかそうったって……うわ、すっごい」


 潮様のお菓子作りの腕は、少しの間元老院に滞在させてもらったからよーく知ってる。
 一つ一つ透明な袋に小分けされたお菓子の数々。人間界の世界中のお菓子作りにハマっているという言葉にたがわず、様々な国のお菓子が。中には見たことないけど、美味しいに違いないものもある。だって、ちょっと袋を開けてみただけで、ふんわり焼かれたパンのような、クッキーのような、そんな匂いがただよって……あぁ、たまらんっ!

 櫻宮様も帝様の腕から降りてきて、横から覗き込んでくる。


「いっしょたべよ」
「ん」
「あっちのベンチにいるからねー。きいてるかなー」


 少し離れたところに休憩用の木製のベンチが置いてある。そこを指差して言ってみたけど、大人組はもう少し話を続けていた。


「ですが、問題は、皇彼方が狩野家当主にその情報を教えた理由です。本人は利害関係が一致したからと言っていたようですが。……事と次第によっては、また元老院の助力が必要かもしれません」
「えぇ。僕からもおきなと各課の課長達に報告しておきます」


 話し声はもちろんちゃんと聞こえるし、綾芽に関係する呪法の話はもう終えたみたいだから。

 それじゃあ、心置きなく。


「いただきます」
「ます」
「じゃむ、じぶんでつける?」
「ん」
「わかった。じゃあ、ここおいとくからね。あんまりつけすぎちゃだめだよ」
「ん」


 チュロスみたいな見た目のお菓子にはジャムが三種類ついている。イチゴと、マーマレードと、はちみつ。

 櫻宮様との間に包みを置いて、それぞれ食べ始めた。


「それでは。また何か分かりましたらご連絡しますね」
「あぁ。よろしく頼む」


 大人組の会合はもうお開きとなるらしい。

 綾芽と帝様がこちらへとやって来た。アノ人はいつの間にかもう隣に立っている。
 ベンチの後ろに立った綾芽が、背後から包みに手を伸ばして中から一個お菓子を取り出した。


「こんなん食べとったら、桐生さんのご飯、入らんのと違う?」
「はいるよ。べつばらだもん」
「はぁー。便利なお腹やなぁ」


 そう言って袋を開け、口に入れる。
 すると、目を見開いて一言。


「うっま!」


 そうでしょう。

 薫くんとか桐生さんとか瑠衣さんとこ持っていって再現して量産してもらいたい。けど、こっそり独り占めして幸せをゆっくり噛み締めながら味わいたい。
 この気持ち、分かってくれる人いないかなぁ?

 もう一つ、と手を伸ばそうとする綾芽に、横取りするなと夏生さんからの鉄拳が頭に振り下ろされた。
 それを呆れたような目で見て、ふと思い出したような顔つきで巳鶴さんが辺りを見渡し始めた。


「どうした?」
「あの、橘さんはどちらに? 今後のことを相談したいんですが、先日から連絡がとれなくて」
「あぁ、アレなら、少し難しい用を片付けていてな。しばらく忙しい」
「そう、ですか。それなら仕方ありませんね。鳳さん、橘さんが戻られたら連絡いただくようお伝えいただけますか?」
「伝えておく」


 帝様の御用なら仕方ないけど。


「たちばなさんがいっしょにいないの、なんかへんなかんじだね」
「……そうだなぁ」


 気のせいかもしれない。
 けれど、私の頭を優しく撫でる帝様の目が、なんだかうるんでいるような、そんな気がした。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

神々の仲間入りしました。

ラキレスト
ファンタジー
 日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。 「私の娘として生まれ変わりませんか?」 「………、はいぃ!?」 女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。 (ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい) カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

処理中です...