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心の中で舌を出す
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しおりを挟む「……結果から申し上げると、その方法はある意味成功するし、ある意味失敗するからです」
成功するし、失敗する?
それってつまり、結局は失敗するってこと?
綾芽に関係することでもあるから、よぉく聞いて、ちゃんと理解しなきゃ。……メモ……メモ帳とペンはぁ。
うさちゃんリュックの中をガサゴソと探っている間にも、コリン様は話を続けていく。
「まず、その術を行った時点で、実行者と依頼主は自らの魂を抜き取られます」
「その段階でか」
「もちろんです。すでにこの世にないモノを呼び出すだけでなく、生き返らせるなど、それだけの代償を支払って然るべき行為ですから」
依頼主はあのおじいさんでしょ?
なら、実行者は……皇彼方? でも、自分の命を差し出すような真似、するかなぁ? むしろ、とる側。うん、そっちだとしっくりくる。あの一緒にいる栄太ってお兄さんも違うよなぁ。
じゃあ、誰?
でも、肝心の実行者が誰なのかはおじいさんも知らされていないらしく、名前が出ることはなかった。
「それに、いくら雅ちゃんが力を込めた珠を核にしたとしても、実際は力を込めた間の期間、今回だと二週間程度しかその術は保てません。つまり、二週間後、生き返ったソレは再びこの世を去り、同時に器にされていた者も一緒くたに引っ張られて命を落とします。ですから、その時点では成功するでしょうが、後々失敗に転じるというわけです。我々が間に入らなくてもそこまでの代償を支払わされるのであれば、我々としてもそれ以上どうこうする理由がありません」
メモは諦め、帝様に抱っこされたままの櫻宮様の方を見上げる。櫻宮様は退屈になって来たのか、ただ黙って帝様の胸に身体をもたれかけていた。
皇彼方が珠を取り出しに来ると言っていた日まで、あと四日。我ながら、朝昼夜一日三回の大仕事もちゃんとこなしてこれている。
でも、それがそんな計画の一端……ちょっと重要っぽいところを担っているのかと思うと、このまま力を込め続けるのもなんか、うーん。
そうしないと櫻宮様の命が危ないっていうから、やるけどさ。なんか、ねぇ。こう、利用してやろうって感じがどうも気に食わない。
「あのじーさんの口ぶりじゃ、そんなことまで理解していたとは思えんがな」
「あぁ。皇彼方のことを信頼はしていないが、信用はしていたんだろう。だから、ヤツが仕掛けた策にまんまと嵌った」
「まったく。孫娘のためとはいえ、あんな野郎の手を借りるなんてどうかしてやがる」
「せりさんがどうかしたの?」
「あ? あぁー、いや、なんでもねぇよ」
夏生さんが包みの中から小瓶の束を取り、巳鶴さんへと手渡す。そして、自分はレオン様からだという鏡を取り、後のお菓子が入った包みをずいっと私の方へ押し戻した。
「ほら、ガキは向こうで菓子でも食ってろ」
「えぇーっ。またそうやってのけものにするー。おかしのつめあわせでごまかそうったって……うわ、すっごい」
潮様のお菓子作りの腕は、少しの間元老院に滞在させてもらったからよーく知ってる。
一つ一つ透明な袋に小分けされたお菓子の数々。人間界の世界中のお菓子作りにハマっているという言葉に違わず、様々な国のお菓子が。中には見たことないけど、美味しいに違いないものもある。だって、ちょっと袋を開けてみただけで、ふんわり焼かれたパンのような、クッキーのような、そんな匂いが漂って……あぁ、たまらんっ!
櫻宮様も帝様の腕から降りてきて、横から覗き込んでくる。
「いっしょたべよ」
「ん」
「あっちのベンチにいるからねー。きいてるかなー」
少し離れたところに休憩用の木製のベンチが置いてある。そこを指差して言ってみたけど、大人組はもう少し話を続けていた。
「ですが、問題は、皇彼方が狩野家当主にその情報を教えた理由です。本人は利害関係が一致したからと言っていたようですが。……事と次第によっては、また元老院の助力が必要かもしれません」
「えぇ。僕からも翁と各課の課長達に報告しておきます」
話し声はもちろんちゃんと聞こえるし、綾芽に関係する呪法の話はもう終えたみたいだから。
それじゃあ、心置きなく。
「いただきます」
「ます」
「じゃむ、じぶんでつける?」
「ん」
「わかった。じゃあ、ここおいとくからね。あんまりつけすぎちゃだめだよ」
「ん」
チュロスみたいな見た目のお菓子にはジャムが三種類ついている。イチゴと、マーマレードと、はちみつ。
櫻宮様との間に包みを置いて、それぞれ食べ始めた。
「それでは。また何か分かりましたらご連絡しますね」
「あぁ。よろしく頼む」
大人組の会合はもうお開きとなるらしい。
綾芽と帝様がこちらへとやって来た。アノ人はいつの間にかもう隣に立っている。
ベンチの後ろに立った綾芽が、背後から包みに手を伸ばして中から一個お菓子を取り出した。
「こんなん食べとったら、桐生さんのご飯、入らんのと違う?」
「はいるよ。べつばらだもん」
「はぁー。便利なお腹やなぁ」
そう言って袋を開け、口に入れる。
すると、目を見開いて一言。
「うっま!」
そうでしょう。
薫くんとか桐生さんとか瑠衣さんとこ持っていって再現して量産してもらいたい。けど、こっそり独り占めして幸せをゆっくり噛み締めながら味わいたい。
この気持ち、分かってくれる人いないかなぁ?
もう一つ、と手を伸ばそうとする綾芽に、横取りするなと夏生さんからの鉄拳が頭に振り下ろされた。
それを呆れたような目で見て、ふと思い出したような顔つきで巳鶴さんが辺りを見渡し始めた。
「どうした?」
「あの、橘さんはどちらに? 今後のことを相談したいんですが、先日から連絡がとれなくて」
「あぁ、アレなら、少し難しい用を片付けていてな。しばらく忙しい」
「そう、ですか。それなら仕方ありませんね。鳳さん、橘さんが戻られたら連絡いただくようお伝えいただけますか?」
「伝えておく」
帝様の御用なら仕方ないけど。
「たちばなさんがいっしょにいないの、なんかへんなかんじだね」
「……そうだなぁ」
気のせいかもしれない。
けれど、私の頭を優しく撫でる帝様の目が、なんだか潤んでいるような、そんな気がした。
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