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心の中で舌を出す
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事故から五日。
東のメインストリートで起きた大事故は、マスコミのある種の“欲”を掻き立て続けた。被害に遭った人達や関係者の皆はなんとか日常を取り戻そうとしている。今はまだ、誰もがそっとしておいて欲しい時期だというのに。
そんな日に、こっそりお忍びで東のお屋敷にやってきた人に連れられ、私とその人、櫻宮様とアノ人の四人は、とある病院へとやってきた。
私達のお目当ては、新生児室にいる。
一昨日、予定日よりも数週早く誕生したばかりの女の子。
新生児室のガラス窓越しでの面会を手配してくれたのは、お忍びでやってきた人――帝様だ。本当は両親や身内しか立ち入れないらしいけど、赤ちゃんのお父さんとお母さんたっての希望でもあったらしい。
事故の後、戻っていた身体はまたすぐに小さくなり、今の身長はガラス窓の下辺にようやく手をかけられるかといったところ。さっきからまた元の姿に戻りたいと祈ってはみているものの、なかなか戻れそうにない。
そんな私に、待ってましたと言わんばかりに伸ばされる両腕。すぐに手を取らなかったのに、引っ込められる気配はない。
……我慢、我慢よ、私。いい? ここは大人になるの。
不本意ながら、アノ人の抱っこを受け入れ、目線の高さを得た。
「……ちっちゃい」
「それはそうだろう。なにせ、生まれたばかりの赤ん坊だからな」
櫻宮様を抱え上げた帝様がハハッと笑う。
これが下に弟妹がいて赤ちゃんを見慣れている人とそうでない人の違いだろう。実際に目の前にいて一緒に育つのと、話を聞くだけじゃ大違い。
だって、本当にちっちゃい。小さいんじゃなくて、ちっちゃいんだ。手といい、足といい、身体全てが。
きゅっと握りしめられた手が開かれると、その手はまるで小さな小さな紅葉のよう。指の一本一本なんか、粉菓子のように脆そうで、柔らかそうで、なんだか分からないけれどドキドキハラハラする。
「……かわいいねぇ」
「ん」
櫻宮様もコクコクと頷くけれど、その視線は赤ちゃんに釘付けのままだ。
私も視線を新生児室の中へ戻し、ぐるりと見渡した。保育器やベッドにはたくさんの赤ちゃんが寝かされている。
「……うまれてきてくれて、ほんとうにありがとう」
そして、今度は帝様の方を顔ごと向いた。
「ねぇ、みかどさま。みかどさまは、あやめやさくらのみやさまがうまれたとき、どうおもった?」
「……そうだなぁ。もう二十年以上も前だから忘れてしまった」
一瞬だけ、帝様はふっと遠くを見つめていた。
といっても、本当に一瞬だけで、すぐに笑顔を浮かべて誤魔化した。
本当に忘れているなら、そんなに色々入り混じったような笑顔にはならないんじゃないかな。
でも、聞いた私も意地悪な質問をしてしまったかもしれない。
これ以上、その話を広げるのはやめにした。
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