上 下
252 / 314
目的のためには手段を選ばず

14

しおりを挟む

 よく分かんないけど、綾芽達の仕事はだいぶ遅くまでかかるらしい。日が落ちてもうずいぶん経つというのに、夏生さんが一度帰ってきたの以外は誰も帰ってこない。

 夜ご飯もお風呂も済ませ、後は寝るだけ……なんだけど、ついつい広間の炬燵こたつに入ってだらだらとテレビを見続けている。

 櫻宮様もウトウトとしていたけれど、ついさっき夢の中に誘われていった。今は一緒にテレビを見ている子瑛さんの横で、丸まってぐっすり寝ている。


「しえーさん」
「どした? ねむい?」
「んーん。ねない」


 暇なんだ。暇なんだよ。暇過ぎて辛いんだよ。
 ……眠くない、眠くない……眠ってない。
 でも、おかしいんだ。目蓋まぶたの上と下がくっつきそうで。上と……下が……。


『放送の途中ですが、ここで臨時ニュースをお送りいたします。先程、先帝陛下の第一皇女、櫻宮様が居住なさる殿舎が何者かに爆破されるという重大事件が発生いたしました』
「えっ、ばっ!? ばくは!?」


 あともう少しでくっついた両目蓋だったけど、一瞬で引き離された。

 テレビには上空のヘリからと思われる映像が映し出されている。夜でも分かるほどの煙が立ち込めていた。火の手は煙に隠されていて分からないけれど、たぶん煙がこんなに上がっているからにはどこかしらまだ燃えているんだろう。そんな爆音はここまで聞こえてこなかったけれど、結構な規模だったみたいだ。


『なお、宮様の安否ですが、別の場所にいらっしゃったということで安全が確認されております。この事件での負傷者ですが、警備員が一名、軽い火傷やけどったものの、命に別状はないとのことです。なお、付近一帯は警察、消防の交通規制が行われており、現場検証や警戒けいかい等のため、数日はそれが続く見込みです。では、現場の……』


 映像は現場キャスターのお兄さんに代わり、現在入っている情報を神妙な面持ちで話し始めた。
 
 み、みっ、みや、宮様……宮様は。

 ここにいて、ぐっすり寝ていると分かっているのに、手を伸ばしてとくとくと脈を打っている胸の上に手を当てた。子供特有の高めの体温が服越しにも伝わってくる。

 どうやら、冬の入り口にあったお城の爆破事件で、たくさんの人が運ばれてきた時の記憶に引きずられてたみたい。

 あの時は、その、助からなかった人も大勢いたから。


「だいじょーぶ。だいじょーぶ」
「……ん」


 子瑛さんが私の背を優しくポンポンと叩いてくれる。

 ターン、ターン、タラッタラー、タータータータラー

 そのまま子瑛さんの横にピタリとくっついていると、子瑛さんのスマホが鳴った。誰かさんが設定した某将軍様のテーマソングだ。それをそのまま律儀りちぎに変えずにいたらしい。

 ……なんか、その、ごめんなさい。これ、おじいちゃんの携帯だったから良かったやつ。もう反省しかないです。ごめんなさい。

 電話をとり、一言二言話したかと思えば、子瑛さんは部屋の中へ視線を彷徨さまよわせ始めた。

 何かを探しているみたいだけど、一体何を探しているんだろう? “ゆ”から始まって“い”で終わる方々とかを探しているんじゃなければ一緒に探してあげるけど。


「しえーさん、なにさがしてるの?」
「みやび、おちちうえ、どこ?」
「おち、おちちうえ……あぁ」


 一瞬、御父上っていうのが頭の中で変換できなかった。

 そういえば、ここに滞在することになったわりには姿を見ていない。どうせ隠形おんぎょうしてそこらにいるんだろうけど。


「さがしてく……でたぁ」
「でた?」
「あ、ううん」


 立ち上がろうと身体の向きを変えると、ひょっこりと現れた。でも、まだ隠形は解いてないらしい。子瑛さんはきょとんとしている。


「しえーさんがごようじあるんだって。みえるようにして」
「用事? 我はない」
「しえーさんはあるの! はやく!」
「……」


 渋々しぶしぶといった感満載まんさい顕現けんげんしたアノ人に、子瑛さんがまだ通話中のままのスマホを差し出した。どうやら、本当に用があるのは電話の相手らしい。

 ますます怪訝けげんそうにするアノ人。スマホを受け取ろうとしない。


「あの」
「……しかたないなぁ。しえーさん。びでおつうわにしてください」
「びでお?」


 アノ人に差し出していた手を引っ込め、子瑛さんは通話をビデオ通話に切り替える。その間に、アノ人の手を仕方なーく引き、隣に座ってもらう。スマホ画面の向こうでは巳鶴さんが待っていた。


「あぁ、貴女もまだ起きていたんですね。すみませんが、御父上と宮様と三人で、もうしばらく留守番をしていてくれますか? 人が足りないので、子瑛もこちらに寄越よこしてもらいたいのですが」
「ん。おるすばん、できます。……あのっ、みやさまの」
「爆破の件ならもう知っていますよ。今、現場に来ていますから。宮様のこと、よくよく見ておいてくださいね」
「はぁーい」


 忙しそうだから、ビデオ通話はそれで終わり。

 私とアノ人が玄関先まで見送る中、子瑛さんもすぐに出かけて行った。


「……ふん。龍脈を探せと言っておいたというに」
「え?」


 独り言のように呟かれたアノ人の言葉に、思わず顔を上げてアノ人の方を見る。アノ人は、夕暮れ時のあの一瞬だけに訪れるような紅色のひとみでお城がある方角を見ていた。

 ……大丈夫、だよね?

 せっかく子瑛さんが大丈夫って落ち着かせてくれたのに、再び不安が夕暮れの後にくる夜の闇のように心を侵食していった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?

ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。 が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。 元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。 「やはり、魔王の仕業だったのか!」 「いや、身に覚えがないんだが?」

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

処理中です...