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目的のためには手段を選ばず
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しおりを挟むよく分かんないけど、綾芽達の仕事はだいぶ遅くまでかかるらしい。日が落ちてもうずいぶん経つというのに、夏生さんが一度帰ってきたの以外は誰も帰ってこない。
夜ご飯もお風呂も済ませ、後は寝るだけ……なんだけど、ついつい広間の炬燵に入ってだらだらとテレビを見続けている。
櫻宮様もウトウトとしていたけれど、ついさっき夢の中に誘われていった。今は一緒にテレビを見ている子瑛さんの横で、丸まってぐっすり寝ている。
「しえーさん」
「どした? ねむい?」
「んーん。ねない」
暇なんだ。暇なんだよ。暇過ぎて辛いんだよ。
……眠くない、眠くない……眠ってない。
でも、おかしいんだ。目蓋の上と下がくっつきそうで。上と……下が……。
『放送の途中ですが、ここで臨時ニュースをお送りいたします。先程、先帝陛下の第一皇女、櫻宮様が居住なさる殿舎が何者かに爆破されるという重大事件が発生いたしました』
「えっ、ばっ!? ばくは!?」
あともう少しでくっついた両目蓋だったけど、一瞬で引き離された。
テレビには上空のヘリからと思われる映像が映し出されている。夜でも分かるほどの煙が立ち込めていた。火の手は煙に隠されていて分からないけれど、たぶん煙がこんなに上がっているからにはどこかしらまだ燃えているんだろう。そんな爆音はここまで聞こえてこなかったけれど、結構な規模だったみたいだ。
『なお、宮様の安否ですが、別の場所にいらっしゃったということで安全が確認されております。この事件での負傷者ですが、警備員が一名、軽い火傷を負ったものの、命に別状はないとのことです。なお、付近一帯は警察、消防の交通規制が行われており、現場検証や警戒等のため、数日はそれが続く見込みです。では、現場の……』
映像は現場キャスターのお兄さんに代わり、現在入っている情報を神妙な面持ちで話し始めた。
み、みっ、みや、宮様……宮様は。
ここにいて、ぐっすり寝ていると分かっているのに、手を伸ばしてとくとくと脈を打っている胸の上に手を当てた。子供特有の高めの体温が服越しにも伝わってくる。
どうやら、冬の入り口にあったお城の爆破事件で、たくさんの人が運ばれてきた時の記憶に引きずられてたみたい。
あの時は、その、助からなかった人も大勢いたから。
「だいじょーぶ。だいじょーぶ」
「……ん」
子瑛さんが私の背を優しくポンポンと叩いてくれる。
ターン、ターン、タラッタラー、タータータータラー
そのまま子瑛さんの横にピタリとくっついていると、子瑛さんのスマホが鳴った。誰かさんが設定した某将軍様のテーマソングだ。それをそのまま律儀に変えずにいたらしい。
……なんか、その、ごめんなさい。これ、おじいちゃんの携帯だったから良かったやつ。もう反省しかないです。ごめんなさい。
電話をとり、一言二言話したかと思えば、子瑛さんは部屋の中へ視線を彷徨わせ始めた。
何かを探しているみたいだけど、一体何を探しているんだろう? “ゆ”から始まって“い”で終わる方々とかを探しているんじゃなければ一緒に探してあげるけど。
「しえーさん、なにさがしてるの?」
「みやび、おちちうえ、どこ?」
「おち、おちちうえ……あぁ」
一瞬、御父上っていうのが頭の中で変換できなかった。
そういえば、ここに滞在することになったわりには姿を見ていない。どうせ隠形してそこらにいるんだろうけど。
「さがしてく……でたぁ」
「でた?」
「あ、ううん」
立ち上がろうと身体の向きを変えると、ひょっこりと現れた。でも、まだ隠形は解いてないらしい。子瑛さんはきょとんとしている。
「しえーさんがごようじあるんだって。みえるようにして」
「用事? 我はない」
「しえーさんはあるの! はやく!」
「……」
渋々といった感満載で顕現したアノ人に、子瑛さんがまだ通話中のままのスマホを差し出した。どうやら、本当に用があるのは電話の相手らしい。
ますます怪訝そうにするアノ人。スマホを受け取ろうとしない。
「あの」
「……しかたないなぁ。しえーさん。びでおつうわにしてください」
「びでお?」
アノ人に差し出していた手を引っ込め、子瑛さんは通話をビデオ通話に切り替える。その間に、アノ人の手を仕方なーく引き、隣に座ってもらう。スマホ画面の向こうでは巳鶴さんが待っていた。
「あぁ、貴女もまだ起きていたんですね。すみませんが、御父上と宮様と三人で、もうしばらく留守番をしていてくれますか? 人が足りないので、子瑛もこちらに寄越してもらいたいのですが」
「ん。おるすばん、できます。……あのっ、みやさまの」
「爆破の件ならもう知っていますよ。今、現場に来ていますから。宮様のこと、よくよく見ておいてくださいね」
「はぁーい」
忙しそうだから、ビデオ通話はそれで終わり。
私とアノ人が玄関先まで見送る中、子瑛さんもすぐに出かけて行った。
「……ふん。龍脈を探せと言っておいたというに」
「え?」
独り言のように呟かれたアノ人の言葉に、思わず顔を上げてアノ人の方を見る。アノ人は、夕暮れ時のあの一瞬だけに訪れるような紅色の瞳でお城がある方角を見ていた。
……大丈夫、だよね?
せっかく子瑛さんが大丈夫って落ち着かせてくれたのに、再び不安が夕暮れの後にくる夜の闇のように心を侵食していった。
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