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目的のためには手段を選ばず
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しおりを挟む皆が助けに来てくれなかった理由は、しばらくしてアノ人がやって来た時に分かった。
首を僅かに傾げたアノ人が、すっと何かを払うように手を横に払う。すると、今までの人気のなさが嘘のようにこちらに駆けて来る足音が複数聞こえて来た。
きっと、皇彼方が誰にも邪魔されないよう、結界かなにか仕掛けていたんだろう。
誰も通りかからないんじゃなくて、誰も通りかかれなかったんだって、ちょっと一安心。
すぐに廊下の角からおじさん達が顔を覗かせた。
「な、なんだなんだ!?」
「この泣き声は本当に幼い子供のものだろう?」
「チビがまたさらに縮んだか!?」
磨かれた廊下の上でキュキュキュッと音を立てて急ブレーキをかけたおじさん達が、私と向かい合って座る子供に目線を留めた。
「「……」」
おじさん達は少しフリーズした後、示し合わせたかのように一斉に回れ右をして逃走を図ろうとする。
「ちょっとまって!」
逃してなるものかと、追いかけて一番近くにいたおじさんのズボンを引っ張った。
やっと来た頼れる……かどうかはこの件に関してはまだ分からない。だからこの際横に置いといて、大人は大人。私よりも人生の経験値はある。この三人、どうして捕まえておかずにいれようものか。
……ちなみに、アノ人には最初から戦力外通告を出してある。どう考えても小さな子供をあやしている姿が想像できない。
まぁ、それを言っちゃうと、こちらでの保護者の綾芽にも言えることなんだけど。でもまぁ、綾芽は綾芽で怠け癖はあるけど、あれでなかなか面倒見はいいと思う。だって、綾芽も、それから海斗さんも、精神年齢がこっち寄り……げふんごふん。
だから、何が言いたいかって言うと。
「ちょ、引っ張るな! 脱げる! 脱げるから! 分かったから!」
「やっとぉ、とおりかかってぇ」
「分かったから、泣くな! 泣くなよ!?」
「お前が泣くと余計面倒なことになるんだから、勘弁してくれ」
「ぅあい」
やけくそで返事をする私に、おじさんが私の頭に手をポンポン乗せてくる。
そんな私達の後ろで、おじさん三人組のうちの一人がまだぐずっている子供を抱き上げ、ためつすがめつ、くるくると回している。
すると、また新たに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「なんですか? この泣き声は」
「みつるしゃん! まってた! まってたよ!」
おじさんの手をすり抜け、巳鶴さんの方へ飛んでいく。
後ろで、さっきまであんなにすがりついてたのにって、なんだか恨みがましいことを言われた気がするけど、こんな時の巳鶴さんの安心感は絶大だと思うんだ。安心・安全の巳鶴さん印。すごい。
巳鶴さんは駆け寄ってきた私に目を向けた後、今度はおじさん達の方へ視線を移した。そして、また私の方へ戻しかけ、おじさんを、正確にはおじさんが抱き上げている子供を二度見した。
廊下を滑るように素早く近づいてきた巳鶴さんは、その子供の顔をじっと見つめる。すると、ようやくぐずる程度に落ち着いていた子供が、また火がついたように泣きだしてしまった。抱き上げていたおじさんが慌ててなだめにかかり、巳鶴さんもその場を離れてこちらへと戻ってきた。
「あの子は一体どうしたんですか? なぜここに?」
「これにはその、ふかーいわけが……そのぅ、ありまして」
「その深いわけとやら、夏生さん達も一緒に教えてもらいますよ」
険しい表情をする巳鶴さんに、嫌な予感しかしない。
もしかして、知ってる人、だったり? 色々とまずい立場の人、だったり?
……皇彼方め、やっぱりろくなことしない奴だ。
「それと、お父上は一体どのようなご用事で?」
「え?」
巳鶴さんの視線の先を追い、庭の方を見ると、アノ人が膝を抱えてしゃがみ込んでいた。地面に枝で何かを書いている。
……ちょっとばかし忘れてた。
「……さ、さぁ?」
「お茶をお出しするので、一緒に夏生さんの部屋へいらっしゃい」
「……はーい」
いつものような、えーっという返事は駄目そうだ。
仕方なしに大人しく返事をして、庭に出るために沓脱石で下駄をひっかけた。
「ねぇねぇ、みつるさんがよんでるから、いこ」
「……」
「ほら、はやく」
いつまで経っても行こうとしないから、仕方なしに腕を掴み、立ち上がらせる。
「こうして見ると、仲良し親子だな」
そのまま手を引き、夏生さんの部屋へ連れていく私を、子供を抱っこしたおじさんと他二人が冷やかしてくる。
「良かったですね!」
「……そう見えるか?」
「はいっ」
「……ふむ」
ちょっとそこ! 仲良しじゃないし、よくもないよ! それからそこ! ふむ、ってちょっぴり嬉しそうにしないで!
まったくもう。
それにしても、本当にこの人は一体何しに来たんだろう? こんな日に限ってやってくるなんて。
気分が上昇してそうなアノ人とは真逆に、私の気分は落ち込んでいった。
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