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おにはうち ふくもうち

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□ □ □ □


「うまうまー! じゅぅふぃー!」
「口にものを入れたまましゃべるんじゃないよ」
「んっ!」


 無事に戻ってこられた私は薫くんと子瑛さんとお酒が飲めない者同士一緒に料理に舌鼓したつづみをうっている。

 あれから男の人は自ら口走っていた種とやらが何なのか吐かせられるそうで、レオン様とセレイル様が元老院にしょっぴいていった。吐かせるのではなく、吐かせられるという成功ありきで奏様が教えてくれた。その奏様もベッドがまた一つまった……と遠い目をしていたから、万が一にも失敗ということは心配しなくてもよさそうだ。

 そして結局、伊邪那美様が現世に遊びにくるという話は一旦保留となった。さすがにこれは口約束ができる範疇はんちゅうを超えていると、司法を司るセレイル様に怒られてしまった。元老院長様や上位の神様におうかがいを立てるそうだ。まぁ、一度口約束とはいえしてしまったものは何らかの形でかなえることにはなりそうだがとひたいをおさえ、ルンルンと足取り軽いレオン様と男の人と三人で朱門を潜っていった。


「ほんと、黄泉よみに連れていかれたっていうのに食欲旺盛おうせいだなんて、一体どんな心臓してんのさ」
「はーとのかたちはしてないよ?」
「これ、片付けて」


 丁度通りがかった東の料理人の神坂さんに、取り分けてもらった私のお皿を薫くんが指さした。


「わあーっ! ごめんしゃい、ごめんしゃいっ!」


 取り上げられてたまるものかと全力でお皿をかばうと、神坂さんは初めから取り上げる気はなかったらしく、笑って空いたお皿だけを回収していった。


「まったく。大儺の儀は中止になったってのに、宴会は中止せず行うなんて、陛下もチビには甘いんだから」
「へへへっ」


 だって、気分は宴会で帰ってきたのに、皆、宴会?なにそれ美味しいの?状態だったんだもの。
 それでも、なんか深刻そうだったから我慢したんだよ? ……我慢、したんだ。あれでも。


「どこに準備はしてた料理の前から動かなくなる神がいるってのさ」
「……ここ」
「あ、これも持ってっていいから」
「ダメっ!」


 だって、すっごく美味しそうだったんだもん! 食べてー食べてーって言ってたんだもん! もったいないじゃんかぁー!

 今だって宴会って形にしてくれてるけど、主だった人達は奥の続き間で食事をとりながら話合いをしている。他のおじさんおにいさん達もいつもよりも全然大人しい。だって、っぱらったおじさんがコップ片手に熱唱とか裸踊はだかおどりとかし始めない。

 あの男の人も捕まったし、元老院の人達もいるし、私も帰って来たし。問題はそうそうないと思うんだけどなぁ。

 ……むむ。


「ちょっとおてあらいいってきます。……とらないでね! もってかないでね!」
「分かった分かった」
「しえーさぁーん」
「だいじょぶ。みてる」
「なに? 僕が信用できないの?」
「いってきまーす!」


 前科二犯、忘れちゃいけないよ、薫くん。

 子瑛さんにしっかりとお願いして、大広間を一人抜け出した。





「ふーんふふーん」


 勝手知ったる南のお屋敷。

 お手洗いを済ませ、大広間に戻ろうと足を進めていると、廊下の端の部屋からなにやらひそひそ声が聞こえてきた。


「まだバレてない、です。だいじょうぶ」


 この声は……劉さん? 皆と一緒?

 と、いうわけじゃなさそうだけど。

 だって、声は一人分しか聞こえてこない。

 何がまだバレてないんだろう?


「またれんらく、わかりました」


 わわっ! 出てくる! 盗み聞きしてたのがバレちゃう!

 急いでわきの部屋に隠れると、すぐに劉さんが部屋から出てふすまを閉める音がかすかに聞こえてきた。

 劉さんてば、足音を普段から消して歩くせいで完全に立ち去ったか分からない。だいぶ待ってからそうっと障子しょうじを開けて廊下ろうかのぞくと、もう劉さんはどこかへ行ってしまった後だった。


「どうしたの?」
「うひゃっ!」


 私が見ていた方とは逆の方から男の人が一人歩いてきた。確か、西のおじさんだ。
 おじさんは私のすぐそばまで歩いてくると、身体をかがませて私と目線を合わせてきた。


「みんなが待ってるから広間に戻ろうか」
「う、うん」


 おじさんに手を引かれ、私は皆が待つ大広間に戻った。

 劉さんの姿はどこにもなかった。
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