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おにはうち ふくもうち
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しおりを挟む「もういい加減に下ろしてくれない?」
「あっ、悪ぃ悪ぃ。いつもこいつ抱っこしたまま移動したりしてるもんだからよ」
いやぁ、お世話になっております。おかげでいつも楽ちんです。
……じゃなくって! 人のせいにしないで欲しい! 特に今! 千早様の前では!
「まったく。この未熟者と一緒にしないで欲しいんだけど」
「ハハハッ」
海斗さんから下ろしてもらうと、千早様が片手を握って来た。その握られた手を見て、千早様を見る。
すると、千早様は可哀想なものを見る目をしつつ口を開いた。
「どこに行くか分かんないから抱っこされてんでしょ。君に楽させるためじゃないよ」
「なんと!」
それで、今はそれを防止するために手を繋いでおく、と。
相も変わらず心の声を読まれていることにツッコミは不要だ。もう慣れた。それにどーせ、顔に出てるとか言うんだ、絶対。
それにしたって、私の! 印象! どんだけ問題児認定されてるんだ!
違うやん、いい子やん。お菓子一日一個守っとるやん。お買い物もちゃんと……あー、うん、その、なんだ。挽回はした。その後が大事。
「子供はそれくらい元気な方がいいさ」
「ですよね!」
つい前のめりで桐生さんの衣装を引っ掴んでしまった。
ふっふっふ。そう。子供は元気が一番。一番なのです……って、あっ、ちょっと待って。引っ張らないでー。
……痛い。
頬をむみょーんと引っ張られました。痛いです。かなり痛いです。
神様が暴力振るうなんてダメだと思うんだ。
……あ、ホントごめんなさい。もう言いません、思いません。
奏様が見つけて助け出してくれた時にはもう頬は真っ赤。まぁ、甘んじて受けましたとも。えぇ。
名前を呼ばれた気がしてそちらを見ると、帝様がこちらに手を振っている。帝様達のために用意された貴賓席に腰かけた帝様の背後には当然のように橘さんが立っていた。
「みかどさまー! たちばなさーん!」
両手を上げて振り返すと、二人は何かコソコソと内緒話をし始めた。
なんぞ? ……まぁいいや。
……あ、瑠衣さんと黒木さんも来てる! 瑠衣さんのおばあちゃんも! おばあちゃんとは四季杯の後にお家にご招待されてっきりだもんだから、そりゃーテンション上がりますよねー!
見知ってる人にブンブンと手を振っていると。
「……かいぬ」
「ん?」
鬼役の人がボソリと何か呟いた気がしたけど、うまく聞こえなかった。
それっきりフィッとあらぬ方を向いてしまった鬼役の人。聞き返しても教えてくれそうな雰囲気がしない。
「雅」
「あい?」
後ろから声をかけられて振り返ると、陰陽師役の狩衣衣装を身に纏った夏生さんと鳳さんが難しい顔をして立っていた。
えーと。お説教ならもうお腹いっぱいなんだけどな。
あれかね、今日は厄日か仏滅かね。できればそうあって欲しい。これが平常だなんて嫌すぎる。
「狩野家の娘が来ている。お前、手を出すなよ?」
「……」
「返事」
「うー……うわぁい!」
狩野家の娘ってあの人でしょ? 前に東の屋敷にやってきて綾芽の奥さんになるとか言ってた人。巳鶴さんのこと、悪し様に言った人。私が大嫌いな人トップ3に入ってる、あの、狩野瀬里さん。
夏生さん達の服に隠れてこっそりと貴賓席の方を見ると、瀬里さんが両親と思しき二人と一緒に談笑している。
私が見ているのに気づいたのか、瀬里さんもこちらを見てきた。けれど、すぐに視線をそらされた。
「……つぎはないもんね」
「何だって?」
「なんでもないですよぅ」
なーんてうそぶいておく。
力を使わずともできる仕返しなんかいくらでもある。要はあれだ。バレなきゃいい。そう教わったのだ。愛すべき保護者達に。
そしてもう一つ。
こちらに向けられた視線を見つけた。
「……むぅ」
帝様から少し離れた位置に設けられた席に座る女の人。櫻宮様だ。能面のような顔でこちらをジッと見ている。
頭の中で何かが声高に顔をそらせ、目をそらせと追いたててくる。それに急いで従い、桐生さんの背後に完全に隠れた。
「どうした?」
「んーん。なんでもありません」
桐生さんが私の視線を追いかけて、あぁと小さく呟いた。どうやら思い当たったらしい。両手を後ろにいる私の肩に伸ばしてきて、しっかりとすっぽり隠れるように位置調整してくれた。
あの時、夏生さんも海斗さんも傍にはいなかったけれど、誰かから聞いたみたい。それ以上問うこともなく、私の好きにさせてくれている。
そうこうしていると、進行役を務める凛さんが呼びにきた。
「……時間」
「あぁ、分かった」
気づくと、私達以外の役持ちは定位置についているようだった。上卿役の綾芽と蒼さん、それから後二人が桃の木でできた弓と葦の矢を持ち、殿上人役の海斗さんと茜さん、それから後二人が同じく桃の木の杖を持ってスタンバイしている。
そこへ方相氏役が持つ盾と矛、そして侲子役が持つ振り鼓を南のお兄さんが持ってきてくれた。
これでいよいよ開始となる。
けれど、よろしくない感情を持っている二対の視線はまだ私達、正確には私の姿を捉えて離してくれそうにはない。
「大丈夫よ」
げんなりとしていると、いつの間にか横に立っていた奏様が薄く笑った。
「神を害そうなんて不届きなこと、私達、特にあのレオン様が許すはずないじゃない」
「ほっ」
だから、貴女は貴女の役目を存分に果たしていらっしゃい。
そう言って頭を優しく一撫でしてくれた後、レオン様達用に用意された席へと傍に侍っていた響様と一緒に歩いていった。
……よし、頑張ろう。今日一日与えられたお役目を。それは決してあの人達の相手をすることではない。ここにいる人達とつつがなく儀式を終えること。
そしてもう一つ。
渡された振り鼓の持ち手をギュッと掴み、桐生さんの背中から飛び出した。
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