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おにはうち ふくもうち
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しおりを挟む桐生さんがお昼を用意してくれているというので、広間に集合した私達。
今日の献立は牛丼とわかめスープとのことです。帝様が皆と同じものをと仰るので、食材もそりゃあ上質なものを使っているそう。ありがたやーありがたや。
前にお屋敷に置いてもらってた時に準備してもらった前かけをつけ、準備万端!という時。
「……そういえば、なつきさんたちはー?」
一緒に来てるかと思っていた人達が一向に姿を見せないことに今更気づいた。
綾芽は当たり前のように隣だし、帝様もその反対隣。橘さんと鳳さん、凛さんは向かい側。蒼さんと茜さんは向こうでおじさん達の輪に入っている。奏様と響様は一旦戻るって帰ってしまって今はいない。アノ人は向こうでも節分なのだから、当然お仕事はあるわけだ。浅葱神社は参拝客も多いから手伝いを、とお母さんに呼び戻された。
「夏生さんらは夕方にならんと来られへんやろなぁ。言うて今回は南が主導やし、自分らはあくまでも補佐やから」
「ふーん。じゃあ、あやめはきてだいじょーぶなの?」
「なーんも心配あらへん。ちゃあんとお仕事してきたわ」
そのちゃあんとが信用できないって毎度夏生さんに言われているのを聞いている身としては、そっかーと素直には思えないわけでして。きっと今頃綾芽を探している人がたくさんいそうだ。
それでも綾芽が一緒の卓についていると、帝様が少しばかり嬉しそうな顔をしている。そんな帝様を見て、帝様第一主義の橘さんも嬉しそうに……って、こんなの見ていれば綾芽にお仕事戻ってなんて言えっこない。
「ほら、早よ食べ」
「あい」
そう言って私に先を促して食べ始めるのを見届ける。私が何口か食べたのを見送った後、ようやく自分も一口二口と口に運んでいた。
「……」
ハムスターみたいにもっもっと食べていると、正面から熱い視線を感じた。凛さんがじぃっとアノ人と同じような無表情でこちらを見てくる。見てくる。めっちゃ見てくる。
……何ぞ?
「りんさん、どしたのー?」
「……」
視線に耐えきれなくなって、とうとう聞いちゃった。
なになにー? 可愛すぎて見とれちゃったー? うふふー知ってるー。
……嘘です。冗談です。調子に乗りました。こめんなさい。
「どうした」
隣に座る鳳さんの声にようやく反応を見せた凛さんは、フルフルと首を振って見せた。ほんのちょっぴり残念そうでもある。
「リス」
「……うん?」
後に続くかと思った言葉は続かない。
けれど、付き合いの長い皆はそれで分かったらしい。
「東になら瑠衣さんが買うて来はったんがあるんですけど」
「あれか。うむ。あれは良かったな。だがなぁ、同じ着ぐるみでもまた違うだろう。楽しみにしているぞ」
んん? もしかして……これのこと?
着ているパンダの着ぐるみの裾をみょーんと引っ張ってみる。ご飯の前に当日の衣装を汚すとマズイからと着替えさせられたんだけど。
そういえばこれ……どこにもタグが付いてない。もしかして……いやいや、まさかねー。
うんうんと頷きながら帝様が凛さんに目をやる。凛さんはグッと両手の拳を胸の前で握って見せた。
……なんだか分かんないけど、私は何もしなくてオッケーってことでいいんです、よね?
「気にせんでえぇから」
綾芽にそう言われたので、再び目の前のご飯と向き合わせてもらえました。
ちょっと気になるけど、今はこっちが大事!
今日も今日とて美味しいなぁ。
「ぷはーぁっ」
食後のお茶まで飲みきり、お腹をポンポン叩いてみる。着ぐるみだからパフパフと鈍い音が鳴った。
お腹いっぱいか?と聞かれたので、はち切れそうと答えたら綾芽にお腹をぷよぷよと突っつかれました。あくまでもぷよぷよです。
「どれ」
お返しだと綾芽のお腹も突っついて遊んでいると、横からひょいっと担ぎ上げられ、誰かのお膝にチョンと乗っけられた。
「なっ!」
「……なんで、ここにおるんです?」
「はっはっは。遊びに来てくれなんだからな。来てみた」
「来てみた、て。自由すぎるんちゃいます?」
どこで覚えたのか、ウィンクもどきを投げてくるのは、狩衣姿の神様だ。青龍社の。でも、残念なことにウィンクはもどきであってウィンクではない。もう片方の目も超がつくほどの薄目。私はそれをウィンクとは認めません。
私と綾芽、帝様の背後にいきなり現れたかと思えば、当たり前のように腰を下ろしている神様に、目の前にいた橘さんは絶句し、鳳さんと凛さんは無表情を貫いた。
周りのおじさん……お兄さん達も身体を強張らせて緊張している。まぁ、無理もないよね。ただでさえ帝様が同じ屋根の下、同じ部屋にいるっていうだけでも緊張感ありありなのに、それにつけて他の土地とはいえ神様が現れたんだから。
「あいも変わらず愛いなぁ」
頭を撫でくり回してくる神様はしばらく私を撫でくり倒し、満足したのかフゥっと息をついた。
「……」
……え? 何しに来たの!?
「ホンマは来てみただけやないですやろ?」
「ん? あぁ、なに。なにやら境目が緩くなっているようでな」
「は?」
「え!?」
さかいめ? さかいめって何?
みんなの顔に、さっきまでとは違う緊張が走った。それが分かったから、そう簡単に口を挟めない。
で、でも、気になる。すっごく気になる。
目線を上げてジィッと綾芽を見つめると、綾芽は目を逸らそうとした。けれど、私の好奇心丸出しの目からは逃れられない。逃さない。神様のお膝の上に座りながらも上体を移動させ、綾芽の視線の先についていく。
そんな私と綾芽を見て、ついといった感じで帝様が笑いを吹き漏らした。それと一緒に緊張感がふっと掻き消えてしまった。ような気がする。
良いことなんだろうけど……綾芽のせいで私も一緒に笑われた件についてちょっと物申したい。
けしからん。実にけしからんよ、これは。
「ハハッ。何やら楽しそうなことをやっているなぁ。我もいれておくれ」
「あそんでるんじゃないからだめでしゅ。……かんだだけ。かんだだけだからっ! そんなかおでみないでっ! くださいっ!」
神様がこちらに向けた顔は、さながら初孫がたどたどしい赤ちゃん言葉で話すのを見ているお爺ちゃん、だった。ちょっと噛んだだけだというに、なんたることか。
「もう! さかいめってなんですか!?」
こんなんで緊張感がほぐれるというならば、教えてもらおうじゃああるまいかっ!
遠慮? なにそれ、美味しくないならバイバイだ。
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