214 / 314
おにはうち ふくもうち
7
しおりを挟む櫻宮様が連れて行かれ、少ししてようやく手が離された。
本当のことを言うと、帝様がちょっと怖い。ちょっとね。ちょっとだけだけど、モヤモヤとしたものが私の中で膨れ上がって来る。
「すまなかったなぁ」
帝様が手を伸ばしてきて、私の頭を撫でようとした。すると、無意識のうちに身体がスッと後ずさりしてしまって、帝様の手は宙をかいた。
「あっ……その、えっと……」
自分でも驚きだった。
けれど、周りはもっと驚いている。無表情を常備してる凛さんですら目を見開いたほど。
「雅ちゃん」
この状況をどうにかしようとまごまごしていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、廊下の向こうで奏様と響様が手招きしてくれている。トトトッと駆け寄ると、響様が抱き上げてくれた。
「貸しイチね」
「は?」
奏様が皆に向かって目を細め、指を一本立てて見せた。それが意図することがすぐには分からず、首を傾げる大人達。
私も分から……あぁ、なるほど。
「むぐぅ」
「あの人間の娘に手を出さないと言うのならコレを解きます。どうしますか?」
「……」
「かっこ悪い親の姿をいつまでも晒す気ですか?」
「……むっ」
廊下の角でこちらからは死角になってたけど、奏様の向こう側に、猿轡みたいなのをかまされた上で全身金縛り状態のアノ人が寝転がってた。その姿はとてもじゃないけど神様には見えない。
「あの人間の娘に手を出してはなりませんよ? よろしいですね?」
私の生温かい視線を受け、アノ人は奏様の問いかけにコクコクと頷いた。
どうしているの?とかはもう聞かない。大事なのは、何をしようとしてこんな目にあってるか、だ。
こんなこと出来るのはこの場で奏様だけだし、その奏様が不必要にこんなことをするはずもない。つまり、悪いのは全面的にコノ人だ。疑いの余地なんてものはない。微塵も。
「娘に危害を加えようとした。だから、報復しようとした。その程度で済むような力ではないのですから、十分にご自覚下さい」
「……」
なんと。
私を助けようとして……おとう……なんてなるわけがない!
人を傷つけるべからず、だよ!
……それに。
「おへんじ」
「……分かった」
奏様の言葉を無視しようなんて不届き千万。
相手が神様だからか、それ以上強くは出られない様子の奏様の代わりに釘を刺しておく。
……よし。
本当に分かってるんだか反省してるんだか分からないコノ人は放っておいて、だね。
滅茶苦茶傷ついた風な表情を浮かべる帝様。
自分が起こした行動でというから本当にバツが悪い。
「あ、あの、ですね……びっくりしただけというか……えぇっと」
「……はぁ」
大きな溜息が聞こえ、庭の方を見る。
すると、仕事の時にいつも羽織っている羽織を着たままの綾芽が、庭先の木に背をもたれかけているではないですか。
「あやめっ!」
天の助けっ!
こっちの世界での保護者!
奏様の背から飛び出し、庭先に駆け下りて綾芽の所まで猛ダッシュする。綾芽も慣れたもので、自分の方に向かって走ってくる私を難なく抱きとめ抱き上げてくれた。
あぁ、安心感半端ない。
「ちょっとちょっと、この子いじめるん大概にしてくれますー? よってたかって怖いわぁー」
「いじめられてません!」
綾芽ママン、それはね、酷い誤解ってもんだよ。
帝様達は何も悪くない。名誉のために言っておかなきゃならんことだ。うん、悪くない。
「やけど、自分、泣きそうな顔してるやん?」
「ないてない」
「やから、泣きそうなって言いよるやろ。……あの人に何か言われたん?」
「あのひとって?」
「さっきまでここにおったんやろ? 櫻宮や。あの人の付き人が塀の外で待機しとるの見えたから、鉢合わせになるのもなー思て離れたとこで待っとったんや」
ということは、話を最初から最後まで聞いていたわけじゃないってことですね。
ふむふむ。あーそう。なーるほど。
櫻宮様が帝様の妹宮様ってことは、綾芽にとってあの人は……黙っておこう。だって、どう考えても皆、櫻宮様に対して友好的ではない。まぁ、あんな態度を取られて友好的になれって言う方がおかしいと思うけど。
それでも、血の繋がりのある人だ。悪く言われるのは決まりが悪いだろう。
「なにも! なにもいわれてないよ!」
「ほんま?」
「うん。……みかどさま、さっきはごめんなさい。ゆるしてくれましゅか?」
勢いに任せて謝ってみた。こういうのって、勢い大事。いや、これホント。だって、グダグダしてるとさっきみたいにタイミングを逃しちゃうもの。
「……いや。私も驚かせてすまなかった」
「んふふ。おあいこねー」
綾芽に抱っこされたまま身体を機嫌よく揺らして見せると、帝様達もようやく強張った表情が崩れてきた。
当の綾芽はなんか言いたそうな顔をしていたけど、私のお腹の虫が空腹を訴え始めたので生温かい目で見ることにシフトチェンジ。
グギュルルルギュルルルゥ
腹の虫。そなたの働きには感謝する。感謝はするが、ちと煩いやい。
0
お気に入りに追加
822
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?
ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。
が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。
元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。
「やはり、魔王の仕業だったのか!」
「いや、身に覚えがないんだが?」
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!
ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました
。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。
令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。
そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。
ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる