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奥底に眠る記憶の残骸
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しおりを挟む「妾に挨拶もなしに帰ろうなど、随分と哀しいことをするとは思わなんだか?」
「い、いざなみさま。こんにちは」
こ、これで挨拶をしたことにな、らないですよねー。
伊邪那美様の細められた目が怖いっ!
仕方ない。ここはせめて。
「……あやめ」
「一緒に帰るで」
「でもっ」
綾芽を夏生さん達の元に無事に帰すのが私の役目なのに。その綾芽に先手を打たれてしまった。
それから綾芽はなおも言い募ろうとした私の身体をさっと抱き上げ、伊邪那美様と真正面から相対した。
「うちのお姫さんに用があるんなら、まずは父親通してもろてもえぇですか?」
「なんじゃと?」
「あやめっ!」
伊邪那美様にアノ人は鬼門だ。地雷なんだ。
それなのにそんなこと言ったら……あぁ、ほら!
「多少は力を持っているようだが、所詮ヒト。妾にそのような口をきくなど、どうなっても構わぬようじゃな」
イザナミ様が持っている扇の先がゆっくりと上げられていく。
その先は……綾芽の心臓!
急いで綾芽にぎゅっとしがみついた。
綾芽はちょっと意地悪で怠け癖もあるけど、とっても優しいし面倒見もいいんです! なにより、私のこと、大事にしてくれるんです!
だから、だからどうかどうか……。
「伊邪那美命様、申し訳ございません」
「そこまでにしていただいてもよろしいでしょうか?」
何日かぶりに聞くその声に、思わず体と同じ反応をしていた両目を開いた。
「かなでさまっ! あと……」
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「彼らはこのまま現世に戻します。神々といえど、古より定められた規則に例外はございません」
「……妾より上位の神を降ろすつもりかえ?」
「やむなしということであれば」
片眉を上げて不快感を露わにする伊邪那美様に、奏様は隣に立つ女の人の方をチラリと見た。女の人は布で目隠ししているはずなのに奏様が自分の方を見たのが分かるのか、コクリと頷いている。
奏様と女の人の視線のみでの会話に、伊邪那美様はその秀麗なお顔を憮然とした顔つきに変じさせた。
す、すごい。
奏様、イザナミ様と渡り合ってる!
火花を散らし合う二人を見ていると、目隠しした女の人がスススッと私と綾芽の傍に寄って来た。
「さぁ、今のうちに」
「えっ」
「ええんですか?」
「もちろんです。さぁ、早く」
私と綾芽は女の人の手に目を塞がれた。なんだかポカポカ温かくて、気持ちいい。
気がつくと、すうっと意識を飛ばしていっていた。
お礼、言えてないんだけどなぁ。また今度会った時にちゃんと言わなきゃなぁ。
……お腹、空いたなぁ。
「……頑張ってね」
完全にプツリと意識が途切れる寸前、女の人の小さな小さな呟き声が聞こえた気がした。
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