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魔王よりも
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しおりを挟む一時は数で優っていた賊も、精鋭中の精鋭である戦闘集団の第三課の面子に着実に捕らえられたり手に負えないものは屠られていった。
「こっちだって自分の精神衛生がかかっとんのじゃあ!!」
「あと……四半刻もねぇ!! てめぇら、死ぬ気でかかれっ!!」
至るところからそんな叫び声が聞こえる。
これが敵ではなく、身内から出ている魂からの叫びだというから笑え……ないな、今は。
叫びの内容からして、おそらく恐怖の源である第五課長から何かしら条件をつけられているのだろう。彼らの今の状況は襲撃してきた敵よりも背水の陣なのだから笑っちゃいけない。明日は我が身だ。
そんな風に皆が躍起になっている中、一人、実にのびやかに高笑いをしている声が耳に届いた。
……見つけた。
「アッハハハハハッ!! 愉しいねぇ!!」
「どこがだ、この野郎」
指を上から下へ振り落とすと、それに合わせて雷が地面に叩きつけられる。
それをヒラリと軽く身を捻って躱された。服の裾をほんの僅か掠めただけだ。
「危ないじゃないか。君とはいつでも遊んであげるから、今はこの祭りを邪魔しないでくれよ」
「遊ばんでいい!!」
この状況を祭りと称し、唯一心の底から楽しんでいる男こそどこをどう間違えて就任することになったのか、元老院第三課長、三大魔王が一人、カミーユだ。
肩口で結った陽の光を反射して輝く金の髪をパサッと後ろに払い、モノクルのブリッジ部分に手をかけるカミーユの瞳は愉悦に輝いている。
こうなると直に敵味方の区別なく襲いかかってくるのは日常茶飯事。そうなると止めるに骨が折れるのだ。
腐っても元老院唯一の戦闘集団の長。純粋な戦闘力だけであれば元老院長でも抑え込むのはやっとのことだろう。
「貴様の相対する相手は決まっている。レオン様と始末書だ」
「えぇーっ。面倒だなぁ」
「黙らっしゃい!!」
今現在進行形で怒りの矛先を様々なものに向けているであろう第五課長、レオン様。彼の腹心の部下である副官の双子は揃って人間界へ出ているはず。正直、事の発端にして主犯のカミーユを差し出したとて怒りが収まるかというとそうでもない、気がする。
おそらく、聖堂を破壊してしまった輩は彼によって未来永劫精神を苛まされることが決定しているだろう。これでまた第六課の貴重な病室のベッドが一つ埋まってしまった。
しかし、レオン様も自らが気に食わない相手を恐怖のどん底に陥れるのが趣味なくせして、神の子羊と謳われる容姿を持ち、実際神に仕える聖職者なんて詐欺もいいところだ。神様達は皆騙されている。
「仕方ないなあ。じゃあ、君と一戦交えてからだ、よっと」
カミーユが懐に忍ばせていた暗器を飛ばしてきた。
それを持っていた剣で弾き、その場から飛び退った。
「ははっ!! さすが鬼姫。第六課にいながら身体能力は第三課向けだなんて……ますますウチに欲しくなるなぁ」
「貴様の下につくくらいなら死んだほうがマシだ」
あぁ、剣にヒビが入った。まぁ仕方ないか。この剣は先程男から奪ったもので、私のものじゃないし。
第三課武器管理担当に特注で作ってもらった日本刀は通常二、三人斬れば後は突くしかなくなるものとは違い、正真正銘逸物だ。その刃は刃こぼれを知らず、例え数時間の戦闘にだって耐えられる。そんな愛刀は今、自室の床の間にかけてある。
使い物にならない剣は放り、身体の周囲に雷を纏った。
「第六課にありながら、君の本質はこちら寄りだ。戦術特化。雷神を祀る鬼の一族である君が相手をしてくれるなんて、最高にハッピーだよ。待っててくれるかい? 雑魚は全部部下に任せてくるから」
「……てめぇが引き起こした面倒事に周囲を巻き込むな、よ!!」
正直、真正面からやれば力及ばずなのは百も承知だ。
でも、私には勝算があった。あと数舜引き留められれば。
雷を幾重にも重なり合わせ、槍のように雷をカミーユの動きを塞ぐように天から降らせた。
そして。
「カミーユ。そこまでじゃ」
「……翁?」
……勝った。
元老院の働きを監視する機関、調停三査との会合を終えた元老院長、皆に翁と呼ばれる御方の帰還の時刻だ。
三大魔王と並び称される彼らも翁にだけは忠誠を誓い従う。
言葉は悪いかもしれないが、彼らに対する最終兵器といっても過言ではない。
「これはどういうことじゃ? カミーユ、レオン」
「「……」」
直接会って話しているというわけではなく、人外ならではの意思疎通手段である念だけを飛ばして追及してくる翁に暴動の限りを尽くしていた二人は無言という返事を返した。
「この場を収拾した後、各課長ならびに副官はワシのところまで来るように」
「「「はっ」」」
「もちろん、副官代理である星鈴、お前もじゃ」
「……承知いたしました」
第六課はとある理由から副官をおいていない。暫定的に代理という形で何故か私がその地位についているけれど、できるだけ早く他にその座を明け渡したいと思っていた矢先にこれだ。
……本当に碌なコトしないな三大魔王は。
特にカミーユ、お前には後で下半身のみの痺れ薬を盛ってやる。せいぜいベッドと友達になってお前が大嫌いな書類仕事を山ほどさせられるがいい。
「あーぁ、お預けかぁ。星鈴、また遊んでくれるかい?」
「誰が」
肩を馴れ馴れしく抱いてきたヤツの手を雷で弾き返し、私は怪我人の元へと向かった。
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